【第3回】休校中の子どもたちに贈る「こんなときだからこそ伝えたいこと」

『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』(弊社刊)などの著書がある、作家の瀧澤中(あたる)氏。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため休校が延期になるなど、不安を感じている子供たちを何とか元気づけてあげられないか、とこんな記事を寄稿してくださいました。テーマは、休校中の子どもたちに贈る「こんなときだからこそ伝えたいこと」。第3回目をお届けします。

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一度立ち止まって考えてみてほしいこと

いま、マスクが足りません。なぜか、トイレットペーパーやちり紙もお店からなくなっています。

マスクはたしかに、足りないようです。でも、じょじょに生産が追いついてくるようですし、トイレットペーパーやちり紙はちゃんと普通に生産されて、本当は足りているらしいのです。

足りなくなったのは、「トイレットペーパーがなくなる」という、ウソの情報を信じた人が、買いあさっているからです。一部の人は、買い占めたマスクやトイレットペーパーなどを定価の何倍もの高い値段で売ってもうけていますなんだか変だなぁ、と、思いませんか。

尾崎行雄という人がいました。「憲政の神様」として、有名ですね。大正時代を中心に活躍した、政治家です。その尾崎行雄のお嬢さんが、小学校で、「紀伊国屋文左衛門(きのくにや ぶんざえもん)はとても偉い」という話を聞いてきて、尾崎に話します。

紀伊国屋文左衛門というのは、江戸時代、紀州(いまの和歌山県と三重県の一部)から江戸まで、みかんを運んで大もうけした人物です。当時江戸では、海が大荒れでみかんが足りずに困っていました。そこで紀伊国屋文左衛門は、荒れた海を乗り越えて紀州から江戸まで、みかんを運んだのです。尾崎行雄はお嬢さんに、こう言います。

「紀伊国屋文左衛門は、ちっとも偉くありません。江戸の人が困っているのですから、 みかんをタダで配ったというのなら偉いけれどもそれで金儲けするなんて、もってのほかです」

尾崎は、そう言ってお嬢さんをさとしました。

また、明治時代に陸軍の医療を近代化させた軍医で赤十字社の社長もやった石黒忠悳(いしぐろ ただのり)という人は、11歳でお父さんを亡くして苦労した人です。石黒忠悳(ただのり)が12歳のとき、江戸が暴風雨にみまわれます。幼いながら彼は、

「紀伊国屋文左衛門は、江戸が大火事のとき材木を買い占めて大もうけした。今回も、多くの家が暴風雨でこわれてしまうから、材木は高くて買えないけれど、釘(くぎ)を買ったらもうかるかもしれない」

さっそく彼は釘を買いました。その話を聞いたお母さんは、激怒します。彼を座らせて、

「昨年、お前の父上が亡くなられる直前に、その枕元でお前を立派な人間にすると私が誓ったことを忘れたのですか!」

つまり彼のお母さんは、釘を買ったことは立派な人間のすることではない、と考えたのです。彼の叔父たちは、「これから釘の値が上がる、その前に釘を買って大もうけしようとしたのはたいしたものだ」、と忠悳(ただのり)をほめます。しかしお母さんは、そのことにも怒ります。「こんなことで、人にほめられて得意になっているとは、見下げたものです!」

当時、お母さんの実家の2階に、お母さんと一緒に住んでいた忠悳(ただのり)少年。激怒したお母さんは、二階から彼の布団を一階に投げ捨てます。「もう、この部屋にあがることはなりません!」

まだ12歳の忠悳(ただのり)少年にとって、お母さんから見捨てられたことはショックで、その晩は一睡もできませんでした。お母さんが彼を許してくれたのは、三日後。尾崎行雄が、娘をさとし、石黒忠悳(ただのり)のお母さんが、激怒したのはなぜなのでしょうか。

それは、「人が困っているときに、人を助けるのではなく、困っていることに便乗してお金もうけをしようとしたこと」それが、立派な人の行ないだとは思えなかったからですね。紀伊国屋文左衛門は実際にこうしたことをやったのか史実では確認できません。

しかし、こういう行ないが、いつの時代、どこの国でも起こっているのは事実です。そして私たちはいま、目の前で、それを体験しているのです。1日目から触れてきましたが、自分以外の人のことを考えたら、こんな行動はできません。自分の心に問いかけて、少しでも「おかしいな」と感じたら、まずは立ち止まって考えてみましょう。そのとき、ぜひ今回の話を思い出してくださいね。


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◇瀧澤中(たきざわ・あたる)
昭和40年東京都出身。平成13年『政治のニュースが面白いほどわかる本』(中経出版)がベストセラーとなり、時事解説を中心に著作活動を続ける。また日本経団連・21世紀政策研究所で平成23年~25年まで、日本政治プロジェクト・タスクフォース委員を務めた。政権交代の混乱期に「リーダーはいかにあるべきか」を徹底議論、報告書作成に関わる。また、『秋山兄弟 好古と真之』(朝日新聞出版)や『日本はなぜ日露戦争に勝てたのか』(KADOKAWA)等で、教育や財政面から歴史をやさしく解説し好評を得、その後『「戦国大名」失敗の研究』(PHP研究所)をはじめとする「失敗の研究」シリーズ(累計19万部)を執筆。自衛隊や日本経団連はじめ経済・農業団体、企業研修、故・津川雅彦氏主宰の勉強会で講師を務めた。マスコミで「近現代の例と比較しながら面白く読ませる」(日本経済新聞)と取りあげられるなど、〝むずかしいを面白く〟の信念のもと、「いまに活かす歴史」を探求する。

成功した人は誰もが「失敗」している――。

『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』

徳川幕府、日本海軍、戦艦大和、織田信長、豊臣家……。本書は作家・政治史研究家として活躍する著者が歴史上の偉人や英雄、強大な組織やシステムがなぜ失敗し、崩壊していったのかを、これまでの歴史書とは異なる視点から分析し、講義形式で綴ったもの。

上杉鷹山や徳川吉宗ら、名君の意外なつまずき。信長や長宗我部元親ら、名将たちはなぜ油断し判断を誤ったのか。大坂城やマジノ要塞などの完璧なはずのシステムはなぜ崩壊したのか。日露戦争勝利に隠された失敗の種とは……。

また「もしあなたが、ラスクマンが通商を求めてきた時の幕府の老中だったらどんな対策を取ろうと考えますか、通商を認める、認めない?」などの設問もあり歴史の当事者になったかのような気持ちで読み進めることができるでしょう。

著者は「”失敗の標本”が歴史には満載であり、歴史の失敗は、学びの宝庫である」といいます。歴史上の人物たちが、なぜその時、そういう判断をしたのかという思考や方向性を探ることは、ビジネスの世界を生き抜く上でも有益な学びとなることでしょう。

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