渋沢栄一が説く「常識」の価値——「偉い人」と「常識の人」はどう違うか?

「日本の資本主義の父」として、日本最初の銀行や500以上の起業を設立した渋沢栄一は、その著書の中で「完全の常識」とは何かを説いています。何気なく使う「常識」という言葉を「智・情・意」の観点から一歩も二歩も深く読み解いた渋沢の名言を、『渋沢栄一 人生を創る言葉50』(弊社刊)より、五代目子孫・渋澤健氏にご解説いただきました。
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「常識」の意味

「社会が発達して、何事も一定の秩序を以て進む世の中にては、殊に常識の発達した人が必要になつて来た。即ち事に当りて奇矯に馳せず、頑固に陥らず、是非善悪を見分け、利害損失を識別し、言語挙動すべて中庸に適ふ者がそれである。これを学理的に解釈すれば『智』、『情』、『意』の三者が各ゝ権衡を保ち平等に発達したものが完全の常識だらうと考へる」(渋沢栄一『青淵百話』)

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〈渋澤〉
生き様とは、命を与えられた私たち一人ひとりが歩むべき道です。

その道とは、それぞれの自己実現によって歩む独自のものですが、人間は一人で生きていける存在ではありません。他と共に歩む道でもあります。場を変えても、時を変えても普遍的な人の道。それが、常識です。

では、常識とは何によってもたらされるものでしょうか。栄一は「智」「情」「意」のバランス感を保ちながら向上させることが常識である、と考えました。

つまり、一定のレベルの知恵や知識を保つことだけが常識ではない。それほど知恵や知識があるのであれば、それを世の中で活用するべきなのです。自分で何か成し遂げたいという情熱。誰かに手を差し伸べたいという情愛。これで、事が動き始めるのです。

ただ、情が働くことだけでは、流されやすい状態になります。だから、自分の心の碇の役割を果たす意志が必要なのです。

しかしながら、意志だけが突出して強すぎれば頑固になりがちですから、また、これも良くない。

あくまでも、智・情・意のバランスに努め、且つ、成長し続ける。その弛まぬ実践こそが大切で、人の普遍的な生き様になるのです。

「常識の人」には無限の活躍の場がある

「偉い人と完い人とは大に違ふ。偉い人は人間の具有すべき一切の性格に仮令欠陥があるとしても、其の欠陥を補うて余りあるだけ他に超絶した点を有する人で、彼完全なるものに比すれば云はば変態である。それに反して完き人は智情意の三者が円満に具足した者、即ち常識の人である。余は勿論偉い人の排出を希望するのであるけれども、社会の多数人に対する希望としては、寧ろ完き人の世に隈なく充たんことを欲する。偉い人の要途は無限とは云へぬが完き人なら幾らでも必要な世の中である」(渋沢栄一『青淵百話』)

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〈渋澤〉
一般的に、リーダーシップが必要であるといいます。リーダーとは目指すべき方向を定め、他を動員し、ゴールを達成して成果を出す偉い人です。

ただ、栄一は指摘します。偉い人はもちろん必要である。しかしながら、そんなにたくさん必要ないのではないか、と。偉い人はある意味で特殊な人物で、どこか角が尖っているところがあります。そのような尖った人たちがたくさん集まると、角が多くなあって事が回らなくなり、むしろ、逆効果になるかもしれません。

一方、「完き人」とは智・情・意というバランス感覚がある人を示します。それを栄一は「常識の人」としています。(中略)三つの要素がバランスを保ちながら向上し続ける人材であれば、共に働きながら共創することができます。このような人材であれば、世の中に活躍の場は無限にあるはずだ――。栄一はそのように考えました。


(本記事は『渋沢栄一 人生を創る言葉50』(弊社刊)より一部を抜粋・編集したものです)

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◇渋沢栄一(しぶさわ・えいいち)
天保11(1840)~昭和6(1931)年。現在の埼玉県深谷市血洗島に生まれる。一橋家に仕え、慶応3(1867)年パリ万国博覧会に出席する徳川昭武に随行し、欧州の産業、制度を見聞。明治2(1869)年新政府に出仕し、5年大蔵大丞となるが翌年退官して実業界に入る。第一国立銀行を開業し総監役、頭取となった他、王子製紙、日本郵船、東京瓦斯、帝国ホテル、東京電力など多くの企業の創立と発展に尽力した。 

 ◇渋澤健(しぶさわ・けん)
昭和36年神奈川県生まれ。44年父親の転勤で渡米。テキサス大学卒業後、UCLAでMBA取得。JPモルガン、ゴールドマン・サックスなどでの勤務を経て、平成13年シブサワ・アンド・カンパニーを創業。20年コモンズ投信を設立。渋沢栄一の玄孫。著書に『渋沢栄一 人生を創る言葉50』(致知出版社)など多数。

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