2026年07月12日
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日本を代表する尼僧・青山俊董老師、御年93歳。数年前から、脳梗塞、心筋梗塞、大腸がんと立て続けに大病に襲われ、入院中に心臓発作を併発。その際の心臓マッサージで肋骨を骨折し、さらには大腸がんが肝臓にも転移するといった凄絶な闘病生活を送ってこられました。本書『天地いっぱい、命を輝かせて生きる』には、そういった絶望的な状況の中で得た気づきを「生かされている命のご恩返し」として話された伝説の講話をまとめたものです。本書の中から、「お手洗いの紙に見た仏の姿」について語っていただいた一節をご紹介します。
(本記事は弊社刊・『天地いっぱい、命を輝かせて生きる』より一部を抜粋・編集したものです)
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お手洗いで紙を捨てるたびに、「ご苦労さん」
私もこの間、目が覚めてしみじみ思いました。私という人間自身は、あせってみたり、落ち込んでみたり、のぼせ上がってみたり、サボってみたり、いろいろ勝手なことをしているのに、そういう私とは関係なく、九十二年の間、二十四時間、一瞬も休まずこの体が私を生かすために働き続けてくれていたのだな、と。
心臓もどこもかも、私が眠りこけている間も、一服もなしですね。心臓が一服したら死んでしまうからね。だから三十七兆個の細胞の一つひとつがどれもこれも、九十二年の間、一瞬も休まず働き続けて私を生かしてくれていた。
そのお働きをいただいていることに気がついて、「ありがとう」とそこら中を撫で回しました。お手洗いに行っても「おかげさまで、ありがとう」と。この生かしてくださっているお働きに、この歳になってやっと気づいた。この歳になっても気づくことは多いですな。
この間もお手洗いに行ってしみじみ思ったんですよ。もし私がお手洗いの紙の配役をいただいていたとしたら、喜んで務まるだろうかってね。同じ紙でも、その配役にはいろいろあります。けれどその中でも、お手洗いの紙の配役こそなければ困りますでしょう。
そんななくては困るお手洗いの紙は、誰からもありがたいと思われず、自らの体を汚しながら、相手を清めて、そして捨てられていく。もし自分がこの配役をいただいたら、果たして喜んで務まるだろうかなと、この間から考えていましてね。
「仏とは」という質問に対して、古来よりいろいろな答えがありますが、その一つに、「乾屎橛」(かんしけつ)というのがあるんですよ。要するに、仏とは〝くそかきべら〟だというわけです。
現代の日本でいったら、これはお手洗いの紙と考えたらよいと思います。お手洗いで用を足して、その紙を見ながら、これが仏でなくてなんだろう、と思ったのです。
自分がこの配役をもらったら喜んで務まるだろうかと考えた時に、私にはできないかもしれないなと思いました。だから、このごろは、お手洗いで紙を使うたびに、紙に「ありがとう。ご苦労さん」としみじみと言ってから捨てることにしているのです。
やっとこの歳になって、そういうことにも気づく。三十七兆個の細胞が一瞬も休まず働き続けて私を生かしてくれていた。すべてがそういう形で私のために一所懸命務めてくださった。歳をとってみないと、あるいは病んでみないと、気づかないことがたくさんあります。
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◇青山俊董(あおやま・しゅんどう)
昭和8年愛知県生まれ。5歳の時、長野県の曹洞宗無量寺に入門。駒澤大学仏教学部卒業、同大学院修了。51年より愛知専門尼僧堂堂頭。参禅指導、講演、執筆のほか、茶道、華道の教授としても禅の普及に努めている。平成16年女性では2人目の仏教伝道功労賞を受賞。21年曹洞宗の僧階「大教師」に尼僧として初めて就任。著書に『道はるかなりとも』(佼成出版社)『一度きりの人生だから』(海竜社)『泥があるから、花は咲く』(幻冬舎)『あなたに贈る人生の道しるべ』(春秋社)など多数。
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