安倍晋三が日本人に遺したもの——元安倍内閣官房参与・谷口智彦が語る

日本の発展繁栄に力を尽くされた安倍晋三元総理が凶弾に倒れてから4年。安倍元総理はどのような政治家であり、私たち日本人に何を遺したのか――。安倍元総理のスピーチライターとして主な対外スピーチのすべてに携わった元安倍内閣官房参与の谷口智彦氏に、安倍元総理の知られざる素顔、そして日本人に遺した〝希望〟について語っていただきました。※写真は車中で朗読の練習をする安倍元総理、左は谷口氏(撮影:安倍昭恵さん)
(本記事は『致知』2024年10月号連載「意見・判断」より一部を抜粋・編集したものです)

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日本人に誇りと希望を取り戻す

安倍さんは2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスにおいて日本チームの一員としてプレゼンをし、7年先の五輪招致を勝ち取りました。日本の若い人たちに希望の光を見せることができた。それがこの時でした。

「東京2020」を取ることには、政府関係者の間に、当初は諦めムードがありました。安倍さんは総理再登板と同時に「そんな敗北主義でどうする」と皆のネジを巻き、自ら外遊して「トップ営業」に精出したのです。

しかし決定会議が近づくと、東京を潰したい勢力が「福島の汚染水が危険」というキャンペーンを打ち出し、東京は、防戦一方の状態に押し込まれます。

当時、福島第一原子力発電所から直接海へ伸びた突堤内の水こそ高濃度に汚染されていましたが、少し沖合に出ると、そこで獲れるサカナを毎日食べても問題がないレベルでして、それは国際機関の調査で明らかだったのです。

そこで安倍さんは悩んだ末、前夜になって、自分のスピーチ冒頭に「the situation is under control(状況は統御されている)」という言葉を入れます。指導者にしか言えないこの一言が雲を晴らし、招致が実現したわけですね。

準備してあった英語の原稿を前夜になって入れ替えたにもかかわらず、本番の安倍元総理は、練習をはるかに上回る自信みなぎる様子でやりぬきました。

この時私は、のちに何度かそういうことがあるのですが、見事になしとげる元総理の様子に感動のあまり、ここで突然命が絶えても本望だ、などと思ったものです。

国内では、ためにする批判報道が続き、「安倍はウソを言った」と言われましたが、「アンダー・コントロール」とは、「問題がない」という意味ではありません。「問題はあるが、なんとかしている」という意味で、福島の状況に対する正確な表現だったのです。

嬉しい反応もありました。「2020年という目印が未来に大きく浮かび上がって、それを目標に頑張ろうと思った」とか。「未来に何かきらめくものが待っていると思えるのって、素敵ですね」と言ってくれた若い女性は、「自分は『斜陽の国』に生まれたと思い込んでいた」と言っていた。

私は「あぁ、これだ」と思いました。安倍さんは、未来に希望を見出せずにいた若い世代の人たちに、そんなことないよと、いま伝えることができたんだな、と。それこそは、経済の不振に加え、地震、津波と原発災害で打ちひしがれていた日本に、光明をもたらすものだと思いました。そして本番を見事にこなした安倍さんが、政治家として一段大きくなられたみたいに感じたものです。

この頃から、安倍元総理と安倍政権は、自らの歴史的使命に強い自覚をもったと思います。

それは、未来を担う世代に希望をもたせることです。「希望」の二文字こそは、政権の政策を貫く通奏低音になる。元総理が米国連邦議会の上下両院合同会議で読んだスピーチも、日米同盟を「希望の同盟」にしようというものでした。あのとき、冷戦の遺物だった日米同盟は、一瞬にして、インド太平洋の未来を確かなものとする礎に脱皮を遂げたのですね。

国葬でのこと。菅義偉元官房長官が友人代表として弔辞を読みました。原稿は「今この周りにも若い人が大勢いる」と、まだ見ぬ情景を予見した書きぶりでした。大丈夫か菅さんに確かめると「間違いない。自信がある」と言われた。事実はその通りになります。

やがてネット上に「デジタル献花プロジェクト」が始まり、大勢のバーチャル献花を集めたかと思うと、主導した人たちが、元総理の事績を演説や動画で偲ぶ「デジタル・ミュージアム」を始め、いまも充実を続けています。

30歳前後の人たちが、ボランティアとして進めたものです。真っ先に若者の支持と敬慕、追慕を集めた指導者は、安倍元総理のほかに誰がいたでしょう。元総理の蒔いた「希望」の種子は、次代に芽を吹きつつあると信じます。


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◆安倍晋三元総理はいまも心の中に生きている
◆人々を魅了する安倍元総理の人間性
◆日本人に誇りと希望を取り戻す

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◇谷口智彦(たにぐち・ともひこ)
昭和32年香川県生まれ。東京大学法学部卒業後『日経ビジネス』誌で約20年記者。同誌ロンドン特派員時代にロンドン外国プレス協会会長。平成17~20年、外務省で外務副報道官、麻生太郎外相、安倍晋三総理(いずれも当時)の演説作成に従事。安倍第二期政権で内閣審議官、内閣官房参与として安倍総理の外交演説を担当。慶應義塾大学大学院教授を経て筑波大学特命教授、富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問。著書に『安倍総理のスピーチ』(文春新書)など。

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