2026年03月05日
~本記事は月刊誌『致知』2026年4月号 特集「感謝にまさる能力なし」に掲載の鼎談(感謝が人生を開く~よき人、よき言葉との出逢いが人生を導いてくれた)の取材手記です~
3人を成功へ導いた教え
「私は、自分の専門とは異なる分野で大成された方から学びたいという思いがあって、長年『致知』を愛読してきました」
このありがたい言葉をくださったのは、ノーベル生理学・医学賞の受賞者であり、この度の鼎談にご登場いただいた大村智さんです。
『致知』の取材を通じて実感するのは、一流の人はいくつになっても謙虚に学び続けていること。大村さんは言うまでもなく、共に鼎談にご登場いただいた田口佳史さん、平井敬二さんも、それぞれに東洋思想、製薬の分野で卓越した実績を挙げ、いまも学び続けておられる一流人です。
本鼎談では、そんなお三方の原点となる学びについてお話しいただきました。
平井敬二さんは、大村さんと同じ山梨大学工学部の発酵生産学科に学び、卒業後に入社した杏林製薬でノルフロキサシンという抗菌剤を発見。世界の感染症治療に多大な貢献を果たし、後に同社社長まで務めた方です。
その平井さんの原点となったのは、出向先の群馬大学医学部で師事した微生物学の世界的権威・三橋進氏の教えでした。
初めて三橋先生にお目にかかって衝撃を受けたのは、Why?(なぜ)という質問を投げかけられたことでした。
「君は、なぜここにいるのですか?」
ノルフロキサシンについて研究しに来ましたと答えたら、「私が聞いているのはそういうことじゃない」と言われて困ってしまいましてね。助教授の先生から、「君が当たり前に思っていて、実は奇跡的なことがある。それを考えてみなさい」とヒントをいただき、半年くらい考え続けるうちに、3つのことに思い至ったんです。
1番最初の奇跡は、この世に生まれてきたこと。
2番目は、いままで死なずに生きてこられたこと。
そして3番目が、いま、目の前の人と出逢うことのできた奇跡。一期一会の出逢い。
三橋先生からかけがえのない気づきをいただいて、私はその時から「君は、なぜここにいるのですか?」を座右の銘として掲げてきたんです。
『致知』でもお馴染みの東洋思想研究家・田口佳史さんは、生死を分けた若き日の壮絶な原点を披露してくださいました。
私は25歳の時、仕事で訪れたタイのバンコクで2頭の水牛に体を串刺しにされ、内臓が飛び出すほどの重傷を負いました。本当はそこで命を失っていてもおかしくなかったんです。
(運び込まれた病院で)パッと意識を取り戻したのは、3日くらい経ってからでした。私の体には無数の管が繋げられていて、傍らで1人の看護師さんがシュロの葉で私を仰いでくれているんです。咄嗟に「私は大丈夫でしょうか?」と聞くと、彼女は当然のように「もちろん」と答えました。
「私の名前は、ハッピーという意味のタイ語です。ハッピーがこんなに近くにいるんだから、あなたは死ぬわけがありません」
心に灯を点してくれた彼女のおかげで、私は助けられたと思っています。
田口さんは入院中、現地に駐在していた日本人を通じて東洋古典の『老子』との出逢いも果たします。
『老子』は白文だったにも拘らず、染み入るように頭に入ってくるんですよ。
そこには、生きることは旅に出ることだと書かれていました。道(タオ)という村から出でて生き、そして村へ帰って死に入る。つまり死ぬというのは故郷に帰ることなのだと思い至りましてね。そのおかげで死の恐怖が和らぎ、再び元気になることができたんです。
いつも念頭にあるのは、あの時ダメだったらいまはないということです。私に生きる力を与えていただいたあの看護師さんと『老子』が、私の中では一番の恩人なんです。
大村さんの原点となったのは、お祖母様の教えだったそうです。
祖母の志げは、飛び級で小学校を2年で終えるほどの才女で、村で何かあれば皆祖母の所に相談に来ていました。とにかく大変なお祖母ちゃんでしたよ。
その祖母が、多忙な両親の代わりに子供の頃の私の面倒を見てくれ、いろんなことを教えてくれました。
「智、一番大事なことは世の中の役に立つことだ」
と、そういうことを繰り返し言い聞かされたんです。
「切に思うことは必ず遂ぐるなり」
という道元の言葉もその1つでした。
私がイベルメクチンを発見してノーベル賞を受賞できたのも、祖母からこの言葉を教わって切に思い続けていたからこそ実現したものだと思って心から感謝しています。
〝感謝〟をすることでもたらされるものとは
こうした言葉をその場限りの感動で終わらせることなく、大切な人生の指針として拳拳服膺してこられたところが、お三方の非凡なところでしょう。
また、そうした姿勢を通じて浮かび上がってくるのが、自分を導いてくれた人に対する感謝の念の深さです。
感謝について、平井さんは次のようにおっしゃっています。
自分が様々なものに支えられ、生かされていることを自覚すると、感謝の心が生まれます。
感謝の心を抱いたら、あなたはそれを何で返すのか、そしてどう生きるのか。そういうことをぜひ考えてほしい。感謝というのは志の源泉だと私は思います。
そして、感謝の心が強くなれば強くなるほど人間は成長していくこと、感謝の心を磨けば磨くほど人生の深さと広がりが増していくことを、ぜひとも心に留めていただきたいと私は願っています。
バンコクで命を落としていてもおかしくなかった。いま生かされているだけでもありがたいという田口さんは、感謝にまつわる言葉の1つとして「徳」という言葉を挙げています。
「徳」という言葉はなかなか説明の難しい言葉で、私がまだ三十代の時に兜町の勉強会で講師を務めた際に説明を求められ、ふっと、
「自己の最善を他者へ尽くしきること」
という言葉が浮かんだんです。
自己の最善を他者へ尽くしきったら、他者は何と言ってくれるか。
「ありがとう」
という言葉が返ってくるはずです。その瞬間に、両者は感謝の人間関係で結ばれるんです。
1日1人でいい、この感謝の人間関係を結んでいけば、1年で365人、10年続ければ3650人の感謝の人間関係が出来上がります。すると自分が困った時に、それだけの人たちが「大丈夫ですか?」と助けてくれる。徳は運を強める源泉というのが、徳の本義だと思うんです。
お二人のお話を受け、大村さんは次のように総括されました。
感謝をすると謙虚になれます。傲慢な人にはどんなによい情報が入ってきても心がキャッチできませんが、謙虚な人の心にはよい情報が次々と入ってくる。
だから、感謝することは自分のためにもなるんです。
3人の一流人に倣い、謙虚に学び続けること、感謝の念を大切にすることで、よい人生を創造してゆきたいものです。
本誌2026年4月号では、お三方を結び付けた不思議な縁や、各々が大切にしてきた言葉など、仕事や人生の指針となる貴重なお話をご紹介しています。ぜひご一読ください!
本記事の内容 ~全10ページ~
◇頑張っていればよい風が吹いてくる
◇見えない縁に導かれて
◇有由有縁。縁は由あって結ばれる
◇世界の行き詰まりを打開する東洋思想
◇「君はなぜここにいるのですか?」
◇生きる力を与えてくれたもの
◇運命を開いてくれた大恩人
◇研究を経営する
◇「一番大事なことは世の中に役に立つことだ」
◇自己の最善を他者へ尽くしきる
◇感謝の念を育むことで人は成長する
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