【取材手記】V字回復はなぜ成功したのか——「あしかがフラワーパーク」「はままつフラワーパーク」「新江ノ島水族館」の事例に学ぶ

~本記事は月刊誌『致知』2026年1月号 特集「拓く進む」に掲載の対談(かくしてV字回復は成し遂げられた)の取材手記です~

感動分岐点を越える

『致知』1月号の特集テーマは「拓く進む」。バブル経済の崩壊などにより経営不振に陥っていた施設の運営を引き継ぎ、見事V字回復を成し遂げたお二人の歩みは、まさに「拓く進む」というテーマに相応しいものでした。

そのお一人は栃木県の「あしかがフラワーパーク」、静岡県の「はままつフラワーパーク」を再建して、国内外から多くの観光客が集まる人気スポットに育て上げた浜松市花みどり振興財団理事長の塚本こなみさん。

塚本さんはもともとご主人の造園会社を手伝う一主婦でした。いつしか樹木に強い関心を抱くようになり、1992年、48歳の時に女性で日本初の樹木医となられます。

樹木医となった塚本さんのもとに、ある時、「あしかがフラワーパーク」の関係者から連絡が入ります。

「大きな藤の木をフラワーパークに移植して新たな藤の公園をつくりたい。もう4年もの間、移植してくれる人を探しているけれども、何十社となく断られて困っている。何とか移植してもらえませんか」という相談でした。当時、移植できる藤は直径60センチ以内というのが業界の常識で、直径1メートルのこの大木の移植には、どの業者も尻込みしていたのです。

「やれる」と直感的に思った塚本さんは、移植の方法を考え抜く中で、骨折した時などに用いるギプスにヒントを得て、この難事業を無事にやり遂げました。

独自のアイデアで難題を打開する塚本さんの取り組みはその後も続きます。「低迷していたあしかがフラワーパークやはままつフラワーパークが、なぜ国内外から多くの人を集める人気施設になったのか」。その答えもまた、塚本さんの驚くようなアイデアによるものでした。

そこに貫かれている思いをひと言で表現すると、「感動分岐点を越えること」。経営に損益分岐点があるように、感動にも「これくらいなら感動しないけれども、それ以上の何かを提供すると感動が心の中に沁み入る」という分岐点があり、それを越えた時に人も経営も変わるというのです。

では塚本さんはどのようなアイデアで目の前の厳しい現実と向き合い、変革していったのか。誌面では感動分岐点を越えるアイデアの詳細をお伝えしています。

地域の資源に光を当てた経営改革

もうお一人の改革の立役者は、塚本さんの対談のお相手である神奈川県の新江ノ島水族館社長である堀一久さん。

堀さんは、祖父の堀久作さんが映画会社・日活の社長という家柄で、久作さんは1954年、自身のプライベートカンパニーとして江の島水族館を設立しました。ところが、堀さんが小学4年生の時、水族館の社長を継いでいた父親が亡くなり、当時30代だった母親が経営の重責を一身に担うことになります。

ただでさえ企業経営は大変なのに、そこにバブル経済の崩壊が追い打ちをかけ、かつて年間200万人だった入場者は20万人台にまで減少。老朽化による施設修繕費も負担になるくらい経営を圧迫していきました。堀さんの母親は行政など関係機関に根気強く働きかけながら、民間企業の資本やノウハウを投入することで再建の活路を見出し、そこから堀さんが本格的に経営に参入、様々な改革を進めていくのです。

ラッコやシャチを導入したり、どこよりも早くイルカショーを開いたりと話題性を持たせながら運営してきた江の島水族館でしたが、堀さんはリニューアルに当たって湘南に位置する水族館の意味をしっかり伝えたいと考えました。

水族館の目の前に広がる相模湾は日本でも有数の生物の宝庫で、浅瀬から深海に至るまで1,900種類の魚が生息しています。この相模湾をしっかりと演出し、海洋環境を伝えていくことを一番のコンセプトとして、それに沿った展示のストーリーラインを考えていきます。相模湾のイワシの群れやアジ、エイ、サメなどが活き活きと動く様子を見せる高さ9メートル、幅12メートルの巨大水槽は、その展示の中核となる施設です。

リニューアル効果もあって、旧館閉館直前は20万人台だった来館者は一気に180万人にまで増えました。堀さんは入館者数を高水準に維持するため、その後もスタッフと共にこれまでにない斬新なアイデアで改革を進めていきます。  

目指すは世界一

塚本さんと堀さんには一つの共通点があります。それは日本一を越え、世界一を目指して日々前進を続けていることです。その言葉には決意が漲っています。

「世界一美しいフラワーガーデン」というのが私の何よりの目標ですし、その目標に向かって歩き続けない限り生き残れないとさえ思っています。いつお越しいただいたとしても「このフラワーパークは快適だな、他の施設とは園内の空気が明らかに違うな」、そう感じていただける園を目指して、これからも進んで行きたいと思っています(塚本さん)

私もいつも世界一を目指して経営に臨んでいます。採用面接の時、よくキャリアの方などが「ぜひ、日本一の水族館になるよう貢献したい」とおっしゃるのですが、「いやいや、世界一です」と。そのくらいの気概を持って高みを目指していくところに、新たな道が拓けてくるというのが私の思いなんです。(堀さん)

苦境を乗り越えて事業を大きく飛躍させたお二人の話は、経営に限らず、人生や仕事の様々な場面に応用することができます。と同時に希望や勇気を与えてくれることでしょう。『致知』誌面を通して、ぜひお二人の実体験に触れていただければ幸いです。

本記事の内容 ~全10ページ~
◇地域と共に歩み続けて
◇女性樹木医第一号の道へ
◇困難を極めた大藤の移植
◇突然経営を担った母親の後ろ姿に教えられる
◇苦境の中で生まれた水族館再建策
◇改革の手始めは徹底した市場調査から
◇感動分岐点を超えた革新的アイデア
◇「えのすい」の価値をいかに正しく伝えるか
◇小さな変化を積み重ねることの大切さ
◇宿命に生まれ、運命に挑み、使命に燃える
◇世界一を目指して歩き続ける

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