柔道史上初・オリンピック3連覇への軌跡——野村忠宏が語る

柔道男子60kg級でアトランタオリンピック、シドニーオリンピック、アテネオリンピックで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック3連覇を達成した、野村忠宏氏。2連覇を果たした後に人生の逆境の立たされるも、いかに乗り越え、3連覇を成し遂げたのか。野村氏の軌跡に迫ります。対談のお相手は、東京2020オリンピック、パリ2024オリンピック男子柔道66㎏級で2連覇を成し遂げた柔道家・阿部一二三氏です。
(本記事は『致知』2025年11月号 対談「勝利への道は、努力と辛苦の日にあり」より一部を抜粋・編集したものです)

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苦難を乗り越えた先に新たな世界が待っている

<阿部>
それから4年後のアテネオリンピックを目指していくというのは、非常に厳しい道のりだったかと思います。そこはどのように乗り越えていかれたのですか。

<野村>
2連覇を達成して「自分はもう十分やった」という思いがありました。実際、シドニー大会前から、2連覇を達成すれば現役を引退すると公言していました。

ところが、いざシドニー大会が終わると、引退か続行かで気持ちが揺れ動きました。当時、柔道では誰も実現していなかったオリンピック3連覇を自分が達成したいと思う一方、現実にそれができるのか、そのために何をしなくてはいけないのか、その過酷な道のりを思うと、なかなか一歩を踏み出す決断ができなかったんですね。

いずれにせよ、一度環境を変えて自分の心を知ることが必要だと考え、アメリカ・サンフランシスコの大学に留学し、柔道から離れた生活を送ることにしました。

<阿部>
環境を変えて、自分自身と向き合っていかれたのですね。

<野村>
厳しい練習もないし、現地での生活はものすごく楽しく、オリンピックチャンピオンという緊張感を完全に忘れることができました。でも何不自由のない楽しい生活の中で、途中から物足りなさを感じるようになったんです。

その時に、自分は人生に緊張感を求めていることに気づいて、自分自身が燃えるような挑戦はいましかできないことだと、アテネを目指すことを決め、2年のブランクを経て現役復帰したんです。2002年、28歳の時でした。

とはいえ、年齢も30近くなっていましたし、ブランクも埋めなくてはいけない。復帰してから1年ほどは、年下の実績のない選手にも投げられてばかりで、海外の選手と組んでも逃げることしかできない自分がいました。周りからも「野村は終わった」という声が聞こえて、地獄を味わいました。

<阿部>
人生の逆境に直面された。

<野村>
大きな円形脱毛症もできましたし、心も体もぎりぎりのところで何とかバランスを保っているという状況でした。それでも挑戦をやめなかったのは、やはり先ほどの決断を正解にするのは自分自身だという思いがあったからです。誰に言われたわけでもない、自分で決めたことは何があっても最後までやり抜く。周りに笑われても全力でやり抜く。最後はもうその気持ちしかありませんでした。

実際、諦めずにやり続けていく中で、だんだん調子を取り戻していき、試合でも勝てるようになって、最終的にオリンピック代表の座を掴むことができたんです。

アテネの舞台では、体力的な衰えこそ感じましたが、いろいろな試練を乗り越えてきたこともあって、三度のオリンピックの中では最も安定した試合ができ、3連覇を達成することができました。

ですから、苦難に向き合うことで人は絶対に強くなれるし、それを乗り越えた人だけが見ることができる世界がある。3連覇への挑戦を通じてそのことを教えられました。阿部選手にも3連覇、4連覇に挑戦して、その世界をぜひ見ていただきたいなと思います。


(本記事は『致知』2025号11月号対談「勝利への道は、努力と辛苦の日にあり」より一部を抜粋・編集したものです)

▼対談内容はこちら▼
◆数々の戦いを経て風格ある絶対王者へ
◆女の子に投げられた悔しさをバネに
◆憧れる人を持つ――投げて勝つ柔道を目指す
◆未来の自分を信じ真剣な努力を続ける
◆一本が取れる柔道を――転機となった父の教え
◆限界は自分自身の心が決めている
◆決断した道を正解にするのは自分
◆諦めない気持ちが勝利を引き寄せる
◆苦難を乗り越えた先に新たな世界が待っている
◆真剣な挑戦に無駄なことは一つもない
◆努力の継続は天才を超える

 

▼▼本記事の詳細・全文はこちらから▼▼

◇野村忠宏(のむら・ただひろ)
昭和49年奈良県生まれ。祖父が設立した豊徳館で3歳から柔道を始める。平成9年天理大学卒業。11年奈良教育大学大学院卒業後、ミキハウスに入社。柔道男子60kg級でアトランタオリンピック、シドニーオリンピック、アテネオリンピックで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック3連覇を達成。平成25年に弘前大学大学院で医学博士号を取得。27年に40歳で現役引退後は、自身がプロデュースする柔道教室「野村道場」を開催する等、国内外にて柔道の普及活動を展開。スポーツキャスターやコメンテーターとしても活動する他、鍼灸接骨院とピラティススタジオを併設したコンディショニングラボ「Nom-Lab.(ノムラボ)」を設立し、ウェルネス事業にも取り組む経営者としても活躍している。

◇阿部一二三(あべ・ひふみ)
平成9年兵庫県生まれ。6歳の時に地元の兵庫少年こだま会柔道部に入り柔道を始める。中学2年、3年時に全国中学校柔道大会で優勝。26年の講道館杯、全日本体重別選手権を史上初めて高校2年生(神港学園神港高校)で制し、早くから注目を浴びる。28年日本体育大学に進学。現在はパーク24所属。国内外の数々の大会で実績を残し、東京2020オリンピック、パリ2024オリンピック男子柔道66㎏級で2連覇を達成。

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