2025年11月14日
素材のよさを引き出した調味料・食品ブランド「茅乃舎」で知られる久原本家グループと、行列が絶えない和菓子店として有名な鈴懸。いずれも福岡を拠点に、全国に多くのファンを持つ優良企業です。共に100年以上の歴史を誇る老舗はいかにして、発展してきたのか。常に本物を追求し続ける、久原本家グループ本社社長・河邉哲司氏と鈴懸社長に中岡生公氏に、物づくりにおけるテーマを語り合っていただきました。
(本記事は『致知』2025年11月号 対談「苦難は事業の基なり」より一部を抜粋・編集したものです)
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
効率だけを求めていては、会社は永続できない
<中岡>
河邉さんは最初に、私たちは何かと共通点が多いとお話しになりましたが、考えてみたら一貫して本物を追求し続けたことが一番の共通点かもしれませんね。
<河邉>
はい。企業にとって永続できるかが一番の命題だと私は思っていますけど、物づくりを生業とする我々にとっては、いかに本物を求めるかはとても大きなテーマだと思います。例えば、手づくりでやるべきところは、機械に頼らずに徹底的に手づくりにこだわる、しっかりと手間隙を掛ける、ということもそうかもしれません。
<中岡>
全く同感です。
<河邉>
私はいつも従業員に言うんです。「さすが久原、そう言われんとダメだよ」と。例えば、商品を口にした時に「あっ、おいしいね」と。するとそこで期待値が上がるから、それを越えていく努力が求められるんですね。期待に応え続けていくと「さすが、ここまでやるのか」と喜んでいただける。それは味覚だけでなく接客、商品開発、いろいろなところで言えることですし、企業が永続に向かう唯一の大きなポイントではないかと思います。
その意味でいえば、私には一つの座右の銘があるんです。
「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」
これはある銀行主催の講演会で岡山の民宿の親父さんが語られた言葉ですが、聞いた瞬間ビビッと電流が走ったんですよ。俺がやろうとしているのは、まさにそれだと。お菓子だってダシだってモノは言わない。しかし、人は感動すると誰かにそれを伝えたくなる。ものづくりの会社にとってはそれが一番のコマーシャルになるんです。
<中岡>
我々の会社は従業員200人ほどですが、うち60人を職人が占める、いわば職人集団なんです。営業職は一人もいません。私が従業員たちに話しているのは「営業しなくてもいい、とにかくお客様に感動される菓子づくりをしてほしい」という一点です。
<河邉>
まさに「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」という言葉そのものですね。
<中岡>
私は職人にお金の話は一切しません。おいしいものをつくって、かかった原価はそれに見合う正当な売価で販売すればよい。そんな信念でこれまでやってきました。それはお菓子だけでなく店にある陶器一つ、暖簾一つ、看板一つとっても同じです。ものづくりをされている方を尊重して、徹底的に会話をして、理解を深めながら自分も一緒にものをつくっていると思っています。
<河邉>
我々は企業ですから当然、売り上げや利益の目標は掲げています。しかし、売らんがために従業員の尻を叩いて追い立てるようなことは決してしません。そんなことをしていたらろくなことはない。急がば回れという諺もありますが、一番大事なのはお客様に寄り添うこと。そうしたらお客様が喜んでお買い求めくださり、最終的に利益が出る。それでいいというのが私の考えなんです。我々の判断基準がお客様なのか、会社の利なのか。常に効率だけを求めていては、会社は永続できないと思います。
それで、中途で入社した商品開発のメンバーに「値段が高くなってもいいから、もっとおいしい商品をつくってほしい」と言うと皆ビックリするんです。「もといた会社では安くつくれ、安くつくれとそれしか言われなかった」と。
安全でおいしい商品を、きちんとした価格で販売する。そういう思いで歩んできましたが、47年前に僅わずか6人だった醤油屋がいまや従業員1,400人の会社に育ちましたからね。「思えば遠くに来たものだ」というのがいまの実感です。
(本記事は『致知』2025年11月号 対談「苦難は事業の基なり」より一部を抜粋・編集したものです)
▼対談内容はこちら▼
◆切磋琢磨する福岡の有名企業
◆昔ながらの和菓子をいまに再現
◆永続こそが企業の第一条件
◆醤油1本が売れることの喜び
◆頼まれ事は何事も「イエス」
◆無名の和菓子店が東京の百貨店に
◆高品質のダシはこうして生まれた
◆徹底した品質へのこだわり
◆「モノ言わぬモノにモノ言わすモノづくり」
◆感謝できる人が成長する
◆苦しんだ出来事もすべて必然
◇河邉哲司(かわべ・てつじ)
昭和30年福岡県生まれ。福岡大学商学部卒業後、家業の久原調味料入社。四代目社主を継いでからはタレや調味料のOEM事業に着手。平成2年には明太子で初の自社ブランド「椒房庵」を立ち上げる。17年、自然食レストラン御料理茅乃舎を開業。その後、ブランド「茅乃舎」を立ち上げ店舗展開を図る一方、令和元年に久原本家北海道を設立するなど北海道での事業にも力を入れる。
◇中岡生公(なかおか・なりまさ)
昭和44年福岡県生まれ。大阪の和菓子店で2年間修業後、家業の鈴懸に入社。平成10年、福岡岩田屋百貨店に「鈴(りん)」開店。14年、伊勢丹新宿店にて「鈴懸新宿伊勢丹店」開店。19年、福岡市博多区上川端町に和菓子を販売する菓舗に、かき氷や和風パフェも楽しめる茶舗を併設した「鈴懸本店」を開店。22年、三代目代表取締役に就任し、現在に至る。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください











