〝大峯修験道1300年の歴史上初〟千日回峰行満行者が生死を超えて掴んだもの〈柳澤眞悟〉


1,300年の歴史を持つ大峯修験道。柳澤眞悟師は、記録に残る限りこの歴史の中で初めて大峯山千日回峰という苛酷な修行を満行しました。特筆すべきは、百日回峰行を2回満行後、自身の心境に納得せずさらに厳しい千日回峰行に挑むという、妥協を許さぬ求道心です。そんな命懸けの修行を経て、柳澤師が辿り着いた心境とは。千日回峰行に取り組まれた当時の心境を振り返っていただきました。
(本記事は月刊『致知』2025年7月号「我が修行に終わりなし」より一部抜粋・編集したものです)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください


700日目で起きた心の転換

〈柳澤〉
大峯山千日回峰行は山上本堂の戸が開く5月3日から9月22日までの143日間を約8年かけて歩きます。

日数については前例がないので自分で決めました。歩くルートは百日回峰行と同じですが、満行できなかったら自刃も覚悟せねばなりません。台風や大雨、また雷に打たれかけた時もあり、死を覚悟する場面には幾度も遭遇しました。ただ、幸いなことにこの間、病気や怪我をすることはなく、1984年に8年をかけて満行することができました。

毎年、だいたい100日過ぎると大分痩せてきて体力は低下しますが、かえって気力は増してきます。その気力で残りの40日あまりを歩く。歩き始めて1週間くらいは足の底が痛みますが、それが固まると痛みはなくなります。

私は一度、山の中で頭がしんどくなって急に倒れたことがありました。すると、頭の中でサラサラと何か血液でも流れるような音がする。体の力は全部抜けてきて、「ああ、死ぬんだな」と思いました。そうしたら10分~15分くらいしてまた力が出て元に戻ったんですよ。

何事もなかったかのように起き上がって、また歩き出していた。そんなこともありました。まるで神仏に取りつかれたかのような、自分であって自分でない感覚と申しましょうか。

〈宮本〉
私も似たような体験をしましたから、とても共感できます。

〈柳澤〉
不思議なことに、700日目くらいで転換が起きるんですね。

その日は雨に打たれながら、それまで煩ってきたことが一気に飛んでいく感覚を抱きました。考えることをしなくなり、行で何かを得ようという気持ちがなくなり、無心になったんです。

もちろん、足は痛いし踏ん張れば辛いわけだけれども、痛けりゃ痛いでいいと心が動かなくなっていた。生きていますから、お腹は空いてくるし身体を傷つけたら痛い。睡魔も襲ってきますが、そういうことに心が動かなくなったといいますか、煩わなくなりました。お

経も真剣に上げられるようになり、それで残りの300日はただ淡々と歩く。ありがたい、幸せだという感覚でしたね。

〈宮本〉
大峯山修験道1,300年の歴史で初めて千日回峰行を満行されたのですね。

〈柳澤〉
明治以前の記録が残っておりませんので正確には申し上げられませんが、記録としては私が初ということになります。しかし、お釈迦様のような悟りの境地を求めて歩きましたが、この時も悟りを目指しても無理だという、ある種の失望感だけが残りました。

〈宮本〉
ご自身への妥協を許さない柳澤さんらしいお話でとても心打たれました。仏道修行をする上では満足しない、納得できないという姿勢はとても重要なことで、それが新たな行へと繋がっていく。修行というものは生涯、そのことの連続なのかもしれません。


↓ 対談内容はこちら!

◇苛酷な〝動の行〟〝静の行〟を満行して
◇生死を超えてこそ真の修行
◇10年真剣に修行をして半歩、一歩進む
◇百日回峰行を2度発願した理由
◇700日目で起きた心の転換
◇限界は自分がつくる
◇命が尽きるぎりぎりまで自分を高め続ける
◇一隅を照らすとはポストにベストを尽くすこと
◇非難を浴びても信じる道をひたむきに
◇自分自身を見つめて生きる

 ▼「致知電子版」では全文お読みいただけます。詳細・お申し込みはこちら

◇柳澤眞悟(やなぎさわ・しんご)
昭和23年長野県生まれ。家業の農業を経て25歳で金峯山修験道・金峯山寺の門を叩き当時の管領・五條順教師に師事。昭和50年から2度にわたり大峯金峯山百日回峰行を満行。59年には8年をかけて千日回峰行、同年秋に四無行を満行する。現在、金峯山修験本宗総本山金峯山寺長﨟、金峯山寺塔頭成就院住職、北野修験道場行蔵院住職。

◇宮本祖豊(みやもと・そほう)
昭和35年北海道生まれ。59年出家得度。平成9年好相行満行。21年比叡山で最も厳しい修行の一つである十二年籠山行満行を果たす(戦後6人目)。比叡山延暦寺円龍院住職、比叡山延暦寺居士林所長などを経て現在は観明院住職、叡山文庫文庫長を務める。著書に『覚悟の力』、最新刊に『積徳のすすめ』(共に致知出版社)。

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。

1年間(全12冊)

定価14,400円

11,500

(税込/送料無料)

1冊あたり
約958円

(税込/送料無料)

人間力・仕事力を高める
記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 11,500円(1冊あたり958円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 31,000円(1冊あたり861円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる