2025年07月08日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。がんを患った人、そのご家族や友人らが、看護師や心理療法士らに無料で相談できる施設「マギーズ東京」。がんに影響を受けるすべての人が自分の力を取り戻してほしい。その切なる願いを込めてプロジェクトを立ち上げたのが、訪問看護の第一人者として知られ、看護師にとって最高の栄誉である赤十字国際委員会のナイチンゲール記章を受章した秋山正子さんです。多くのがん患者に向き合ってきた秋山さんに、「マギーズ東京」誕生秘話を語っていただきました。
(本記事は『致知』2020年2月号 致知随想「がん患者らの居場所をつくる」より一部を抜粋・編集したものです)
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がん患者らの居場所をつくる
がんに直面している人、そのご家族や友人らが、予約なしで看護師や心理療法士らに無料で相談できる施設「マギーズ東京」を開設して3年が過ぎました。場所は東京・豊洲市場の近く。庭木に囲まれた建物には運河から心地よい潮風が流れてきます。
当初、「1年間に1,000人ほどの方が来てくれればいいわね」と仲間内で話していたのですが、蓋を開けてみると月平均500から600人、2019年10月までの3年間で1万9,000人もの方々が訪れています。中には遠方から足を運んでくださる方もおられます。
相談内容は、治療方法や仕事への復帰など様々ですが、がんと共存することが珍しくない時代、生きる力を取り戻すことができるような、居心地のよい「第2の我が家」が求められていたことを改めて実感しています。
施設名の「マギーズ」は、イギリス人のマギー・ジェンクスさん(故人)が由来です。がんで治療中だったマギーさんの「治療中であっても、生きる喜びを再発見できるような場がほしい」という願いを、担当看護師と建築家のご主人が受け止め、1996年にスコットランドのエジンバラに誕生しました。
私がその存在を知ったのは2008年11月。都内で開かれた国際がん看護セミナーに講演者の一人として登壇した際、英マギーズのセンター長から事例報告を聞いたのです。東京・市ケ谷と東久留米で訪問看護ステーションを運営していた私は、多くの患者さんたちが病状に戸惑い孤独感に苛まれていることから、相談支援の環境を整えたいと常々考えていました。
本場の事例報告に刺激を受けたのは当然で、「日本にもマギーズをつくろう」と心に誓いました。翌年の3月には友人を誘って渡英し、エジンバラ、その後にオープンしたスコットランドのファイフ、ロンドンの計3か所のマギーズを見学。どの施設もザハ・ハディッドら世界的な建築家が設計に参加しただけあって、外観の素晴らしさに加え、居心地のよい空間が演出されていることに感激しました。
~中略~
とはいえ、イギリスのような本格的な施設を実現することは資金面も含め容易なことではありません。それでも、一人の女性との出逢いによって劇的にスピードアップを果たすことができました。現在、マギーズ東京の共同代表理事を務める鈴木美穂さんです。
在京テレビ局の報道記者だった24歳の時、乳がんを宣告され、手術や治療などを経て仕事に復帰した彼女は、オーストリアのウィーンで開かれたがん患者支援をテーマにした国際会議でマギーズの活動を知りました。直後、ネット検索によって私の名前を見つけ、仲間と共に「暮らしの保健室」を訪ねてくれたのです。
意気投合するのに時間はかかりませんでした。ここから「マギーズ東京」プロジェクトは一気に加速。たまたま大手の不動産開発・販売会社に勤務していた鈴木さんの友人が、豊洲の遊休地を活用した事業計画書を一所懸命に書き上げ会社に提出したところ、それが見事通ったのです。偶然にもこの街区は、がん研有明病院と国立がん研究センター中央病院のほぼ中間に位置しており、その巡り合わせにも驚かされました。
クラウドファンディングによる資金づくり、設計・施工の体制整備なども多くの協力者の手によって次々に進めることができました。そして2016年10月10日、「マギーズ東京」は産声を上げました。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。