2025年07月03日
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。日本を代表する建築家・安藤忠雄氏が設計した子供向けの図書館「こども本の森」。子供たちに本を読む楽しさや豊かさを知ってもらい、無限の創造力や好奇心を育んでほしい―。そんな氏の切実な思いから本プロジェクトは生まれました。今後は日本全国、また世界への展開も視野に入れる安藤氏の着想の原点は一体何か。安藤氏と親交が深く、「こども本の森 中之島」の名誉館長を務める山中伸弥氏が迫ります。
(本記事は『致知』2025年6月号 対談「読書は国の未来を開く」より一部を抜粋・編集したものです)
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人間の心の成長にとって最高の栄養は本である
<山中>
今年(2025年)ちょうど開館5周年を迎えますが、そもそも安藤先生の着想の原点は何だったのですか?
<安藤>
一つは、本を読まない子供が増えている状況を何とかできないものかと。もう一つは、今日まで自分を育ててくれた地元の大阪や社会、そして日本に対して何か恩返しがしたいという思いです。
私が尊敬するアメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは莫大な財を成し、66歳で引退した後、社会還元としてカーネギー・ホールをはじめとする文化施設と共に、世界各地に図書館を寄付しました。その数何と2,500か所。これには敵うべくもありませんが、私も手の届く範囲で子供たちのための図書館をつくろうと思ったんです。
私自身、読書体験を通して「人間の心の成長にとって、最高の栄養は本である」という実感がありましたからね。
<山中>
できる方法を探すことにワクワクして、チャレンジを楽しめるのが成功するチームの共通点だと感じています。
<津田>
ああ、人間にとって最高の心の栄養が読書だと。
<安藤>
当時の大阪市長に相談したところ、ぜひやりましょうという話になったんです。つくって終わりではなく、長く使っていただくことが大事だと考え、建設費用は発案者である私が担い、土地は大阪市が提供してくれて、蔵書と運営資金の確保は個人や企業からの寄付を募りました。
ひと口当たり年間30万円の寄付を5年間続けていただく形で、結局610社から10億円近い支援が集まったんです。20年くらいは建物を運営できる。こういう活動に賛同してくれる人が多いのは大阪のいいところです。
<山中>
私も大阪生まれの大阪育ちですので、安藤先生がこうやって大阪のために様々な貢献をしてくださっていることに、心から感謝しています。
そして、「こども本の森」プロジェクトの灯は各地域に点されていますね。
<安藤>
ええ。中之島を手始めに、神戸・遠野(岩手県)・熊本、現在4か所にあります。
「かもいけみらいの森」という鹿児島の絵本図書館も設計しました。今年7月には松山の「坂の上の雲ミュージアム」に、来年夏頃には北海道大学に、それぞれ「こども本の森」を新たに開館予定です。海外でも計画が進んでいて、今後は台湾や韓国、バングラデシュ、ネパールなどに展開していく予定です。
また、「こども図書館船 ほんのもり号」といって、船の図書館をこの度つくりましてね。4月24日に高松港と男木島でオープニングセレモニーを行います。
<山中>
船の図書館とは実に魅力的です。
<安藤>
かつては町に本屋さんがいっぱい並んでいました。ところが、この頃は本を読まない人が多い。読む人もだいたいネットで買うもんですから、本屋さんがますます数を減らしている。でもネットで得られる情報には臨場感がない。やっぱり本に囲まれた空間でワクワクしながら本を手に取るという体験が大切だと思っています。
これからの社会を担っていく子供たちには、元気よく自由に世界に向けて羽ばたいてもらいたい。そのために幼い頃から本を読み、知識や創造力を身につけ、豊かな感性を育むことが重要です。「こども本の森」にしろ「こども図書館船 ほんのもり号」にしろ、子供たちが自分の目と足で読みたい本を探し、自分の手で選び、〝自分だけの大切な一冊〟と出逢い、その時間や感動が記憶として心に残っていく、そんな生きる力を養う場となることを願っています。
↓ 対談内容はこちら!
◆子供も大人も楽しめる本の天国のような空間
◆人間の心の成長にとって最高の栄養は本である
◆スマホの面白さとは違う本の中にある深奥な世界
◆日本が奇跡の発展を遂げた背景には読書文化があった
◆吉川英治『宮本武蔵』に学んだ〝覚悟〟
◆読書は自分の世界を広げてくれる心の旅
◆幼少期の読書体験で培われた忍耐力
◆どん底で出逢った2冊がターニングポイントに
◆いまこそ国を挙げて読書をしなければならない
◇安藤忠雄(あんどう・ただお)
昭和16年大阪府生まれ。独学で建築を学び、44年安藤忠雄建築研究所を設立。54年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、平成5年日本芸術院賞、7年プリツカー賞、15年文化功労者、17年国際建築家連合ゴールドメダル、22年文化勲章、25年フランス芸術文化勲章、27年イタリア共和国功労勲章、28年イサム・ノグチ賞など受賞多数。イェール、コロンビア、ハーバード各大学の客員教授を歴任。9年から東京大学教授。現在、名誉教授。令和2年自身が発案し設計を手掛けた「こども本の森 中之島」開館。以降、神戸・遠野(岩手県)・熊本に広がる。著書に『仕事をつくる―私の履歴書 改訂新版』(日本経済新聞出版社)など多数。現在、「安藤忠雄展︱青春」をグラングリーン大阪にて7月21日まで開催中。
◇山中伸弥(やまなか・しんや)
昭和37年大阪府生まれ。62年神戸大学医学部卒業後、整形外科医を経て研究の道へ。平成5年大阪市立大学大学院医学研究科修了。アメリカのグラッドストーン研究所に留学後、大阪市立大学医学部助手、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授及び教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。18年にマウスの皮膚細胞から、19年にヒトの皮膚細胞からそれぞれ世界で初めてiPS細胞の作製を発表。22年京都大学iPS細胞研究所所長。24年ノーベル生理学・医学賞受賞。令和2年(公財)京都大学iPS細胞研究財団理事長。4年京都大学iPS細胞研究所名誉所長。著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(成田奈緒子氏との共著/講談社)など多数。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。