「人づくり社風づくりこそが会社の使命」──今年100周年を迎えた福岡県のベーカリーショップ・フルタパンの創業の原点(代表取締役・古田量平)

本記事は月刊『致知』2025年4月号掲載記事を一部編集したものです~

経営の原点となった一件のクレーム

パンづくりは、家庭に温かい団欒をもたらす仕事です。

ある方からいただいたこの言葉にもとづいて、私どもは失われつつある家庭の団欒と街のコミュニティづくりに貢献できるベーカリーショップの運営に心血を注いでまいりました。

おかげさまで本年、創業100周年の節目を迎える当社の始まりは1925年。祖父・三之助が地元福岡市の箱崎で始めた堅パン製造業に端を発し、私が物心ついた頃は、後を継いだ父・梅次が主に近隣の学校にパンを納めて収益を得ていました。病弱な体で懸命に経営に勤しむ父を見て育った私は、何とか父の力になりたいと思い、大学を卒業するとそのまま家業に入りました。1976年、23歳の時です。

入社間もない頃、納入先の学校からパンに異物が入っているとのクレームをいただき、校長先生の前で土下座をしてお詫びしたことがありました。

異物は傷んだ調理器から剥離したもので、納品前にパン生地の確認を怠ったところに問題がありました。

製造を担っていたのは私より遥かに年配の職人ばかりでしたが、私がそれを指摘すると、臍を曲げて出社を拒否する始末。その頃のパン職人というのは道理が通じず、問題行動を繰り返す人が多かったのです。父と一緒に詫びを入れに行き、何とか職場に戻ってもらいましたが、こんなことを続けていたら会社が潰れてしまう、と私は強い危機感を抱きました。

以来、よい人材を育て、よい社風をつくることが私の重要なテーマとなり、忙しい仕事の合間を縫って様々な勉強会に参加するようになりました。その後も職人が来なくなるトラブルは起こりましたが、私はもう頭を下げに行くことはしませんでした。一時は人手に困り、経験の浅い若手社員、アルバイトスタッフと三人で力を合わせ、歯を食いしばって注文に応え続けた時期もありました。

「あとは俺に任せてください」

雌伏の20代を経て私がそう切り出した時、父は3日間考えた末に、会社の実印を託してくれました。1985年、32歳の時でした。

会社に飛躍をもたらした国産小麦と「明太フランス」

あれから早40年が経ちます。私の代で卸売りから直営に業態転換を果たしましたが、十分な利益を計上できない厳しい時期、お取引先の理不尽な対応に歯噛みした時期もありました。しかしそれらを発奮材料に一層仕事に邁進し、おかげさまで一度も赤字に陥ることなく経営を維持してまいりました。

「商売はより良い地域創りのお手伝い」という経営理念を掲げ、地元を大切にし、自分の目が届く範囲での経営を心懸けてきましたが、それでも私の入社時に10人余りだった従業員は、現在では10倍の130人(パート含む)に拡大。「国産小麦パン工房 フルフル松崎本店」をはじめとする福岡県内の5つの店舗で売上高10億円を計上するに至っています。何より嬉しいのは、この事業を通じてお客様、そして働く社員に喜びを提供できている実感があることです。

当社がこだわり続けてきたのは、安心安全な国産小麦のみを厳選したパンづくりです。

いまでこそ国産小麦は広く利用されていますが、私がお取引先を通じて出合った約30年前は、これを用いてパンをつくる発想はありませんでした。当時は品質や生産量が不安定で、輸入小麦と成分も異なっていたため、パン製造には向かないと考えられていたのです。

しかし私には、幼い我が子がアトピーに苦しんでいたことから、安心して食べられる商品への強いこだわりがありました。そこで北海道へ何度も足を運んで生産者様と試行錯誤を重ね、ついに国産小麦のおいしいパンを開発することに成功したのです。

加えて飛躍の転機になったのが、当社の看板商品である「明太フランス」です。博多の名物パンをつくりたい──そんな願いから、地元でお馴染みの辛子明太子を用いたパンを着想。試作を繰り返し、3年がかりで商品化にこぎ着けた思い入れの深い商品です。

ところが、当初はなかなか販売に結びつきませんでした。しばらくして売り場の女性スタッフから、食べやすい大きさにカットして販売したらどうかとの提案が上がってきました。最初は躊躇しましたがその提案を容れ、お客様にお買い求めいただく際にカットしてお渡ししてみたところ、これが大きな反響を呼びました。そしていまでは、多い時には全店で一日2,500本も売れるヒット商品に育ったのです。

それまでの私は現場に事細かに指示を出していましたが、この一件から現場の声に耳を傾けることの大切さを痛感。スタッフの主体性を尊重する店舗運営へと方向転換したのです。

目の前のお客様にいかに喜んでいただくか

きょうまで40年にわたり会社の舵取りを続けてきた私が、経営で一番大事だと考えるのは、やはり冒頭にも記したよい人材を育て、よい社風をつくることです。会社は人づくりの学校であり、その結果として業務の質が上がり、業績も向上するというのが、経験を踏まえた私の実感なのです。

そんな私が深く共感するのが、人間学を学ぶ月刊誌『致知』です。

地元の歯科医の待合室で偶然閲覧して大きな感動を覚えた私は、この学びを分かち合いたいと考えて幹部に贈呈。そして8年前に現在専務を務める長男からの提案で、『致知』をテキストとする勉強会「社内木鶏会」を導入し、全社で毎月2回実施しています。社員から「勉強になりました」「『致知』に登場する人物のような生き方をしなければならないと思います」といった声がしばしば寄せられ、また提出される感想文に一人ひとりの確かな成長の跡が窺えるのは嬉しい限りです。

『致知』で学んだことを踏まえて思うことは、やはり人間学をしっかり学んだ人でなければ、真においしいパンをつくり、販売することはできないということ。そして、日本の文化を大切にし、日本人の嗜好に合ったメイド・イン・ジャパンのおいしいパンをつくり続ける使命が当社にあるということです。

いまはAIの時代ですが、商売の基本はあくまでも人対人。安易に世間の風潮に流されることなく、目の前のお客様にいかに喜んでいただくかを念頭に、よりよいパンづくりと接客に真摯に取り組むことこそが、当社が次なる百年も変わらず追求し続けていく根源的なテーマといえます。

私どもはそうした温もりのある店舗運営を通じて、これからも社業を通じて、家庭に団欒を、街にコミュニティを取り戻し、より良い地域創りに貢献してまいります。


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