脳科学が明らかにした、デジタル端末の弊害とは?<内田伸子×川島隆太>

発達心理学と脳科学――。それぞれの専門分野から日本の教育のあり方に鋭い分析と提言を行っている内田伸子氏と川島隆太氏。スマホやタブレットなど、昨今のデジタル端末の急速な普及は、学校の教育現場にまで及んでいます。脳科学が明らかにしたデジタル端末の弊害と、子どもの力を伸ばすという「共有型しつけ」について語り合っていただきました。
(本記事は『致知』2025年6月号 特集「読書立国」より一部を抜粋・編集したものです)

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脳科学が明らかにしたデジタル端末の弊害

<川島>
デジタル端末が子供たちに与える影響について、脳科学の視点からもう少し詳しくご紹介したいと思います。

これは7年ほど前に論文で発表したことですが、スマホなどでインターネットを利用する時間が長い子供ほど、利用頻度が低い子供に比べて、脳の発達が阻害されるというデータが綺麗に出たんです。言葉を司る前頭葉と側頭葉の発達が右脳も左脳も止まり、白質という情報伝達の役割を果たす部分も、大脳全体にわたって発達が止まっていました。

東北大学の学生の中にも依存症のようにずーっとスマホをいじっている人たちがいますが、彼ら彼女らの脳を調べると、明らかな白質の変化が見られました。つまり、若くして脳の老化が始まっているということです。さらに、心理学の専門家に調査に入ってもらったところ、スマホに触れる時間が長い学生は、自尊心、自己肯定感や共感性が低かったり、感情の抑制ができなかったり、神経症状が出ていることも分かりました。

<内田>
本当に恐ろしいことです。

<川島>
デジタル端末に長く触れることでなぜ脳がそうなるのか、はっきりした原因はまだ明らかになってはいませんが、研究所の若手研究者が遺伝子に注目していましてね。

どうやらデジタル端末の長期間の操作が特定の遺伝子に何らかの影響を与えて、脳の発達を抑制する要因になっているのではないかということが、うっすらとですが分かってきたところです。

<内田>
ああ、遺伝子にまで……。

<川島>
いずれにせよ、デジタル端末を操作することで、気づかないうちに脳が大きなダメージを受けているのは間違いありません。

子供たちを伸ばす共有型しつけ

<内田>
先ほど映像教材の事例に触れましたけれども、いまの日本では落ち着きがない、周りとコミュニケーションがうまくとれないなど、問題を抱える子供がすごく増えているといわれていますね。それはスマホやタブレットの普及を含め、時代が変化していく中で、人と人、親と子の触れ合いが薄れてきているからだと思います。

以前、しつけのスタイルと語彙能力の関係を調査したことがあるのですが、高得点の子供に共通していたのが、「共有型しつけ」を受けているということでした。

<川島>
具体的にはどのようなしつけなのですか。

<内田>
一つにはお母さん、お父さんが普段から子供にしっかり向き合い、密なコミュニケーションをとっていること。それから、子供たちの興味関心に基づく自発的な遊びの時間を大事にし、「洗練コード」と呼ばれる3つのH〈褒める・励ます・(視野を)広げる〉を意識した言葉がけをしていることです。こうした共有型しつけを受けている子供の語彙力は、日本だけではなく、中国や韓国、モンゴルなど調査した5か国すべてで高いという結果が出たんです。

要するに他の子供と比べるのではなく、その子の過去と比較して成長を褒めてあげる、先生に叱られたことを励ましてあげる、勉強する意義を伝えて視野を広く持たせてあげるなど、親自身が子供との楽しい経験を共有したいと思って行うのが共有型しつけです。そうすると子供たちも主体的、意欲的になって伸びていくんです。

<川島>
できる限り子供とコミュニケーションをとり、上手に褒めて励ましてあげる。子供の成長にとってとても大事なことですね。

<内田>
その逆が「制限コード」の言葉がけをする「強制型しつけ」です。例えば、靴下を履かない子には「靴下を履きなさい。履かない子はダメよ」と、禁止や命令を多用して子供に考える余地を与えない言葉がけをするわけです。

強制型しつけを受けている子供は、家の中でも常に叱られないよう親の顔色を窺いながら緊張した状態で過ごすようになって、自分で主体的に考え、行動することをしなくなります。これでは子供が伸びていくわけがありません。

調査を実施した2012年頃は、家庭の経済格差が子供たちの学力に影響すると頻りに言われていました。しかし調査によって、所得の多寡よりも、親子のコミュニケーションの程度やしつけの違いが子供の学力に大きな影響を与えていることが明らかになったんです。ですから、子育て中の親御さんは、せめて子供といる時だけはスマホを脇わきに置き、子供と触れ合う時間を大事にしてほしいんですね。


~本記事の内容~
◇GIGAスクール構想がもたらしたもの
◇脳科学が明らかにしたデジタル端末の弊害
◇子供たちを伸ばす共有型しつけ
◇「遊び」によってAIに負けない力が育つ
◇読書が持つ力「クシュラの奇跡」
◇人間の脳はすごい力を秘めている
◇よき読書習慣が国の未来をつくる

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◇内田伸子(うちだ・のぶこ)
昭和21年群馬県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒業。同大大学院人文科学研究科修士課程修了(学術博士)。同大文教育学部講師、助教授を経て同大大学院人間文化研究科教授、文教育学部長、理事・副学長。専門は発達心理学、言語心理学など。ベネッセ「こどもちゃれんじ」監修やNHK「おかあさんといっしょ」番組開発も務める。23年より現職。令和3年文化功労者。5年瑞宝重光章を受章。著書に『AIに負けない子育て-ことばは子どもの未来を拓く』(ジアース教育新社)『頭のいい子が育つあいうえおんどく』(新星出版社)他多数。

◇川島隆太(かわしま・りゅうた)
昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所教授。専門は脳機能イメージング学。著書に『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)『スマホが学力を破壊する』(集英社)『脳を鍛える!人生は65歳からが面白い』(扶桑社新書)など多数。共著に『素読のすすめ』(致知出版社)などがある。

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