京都大学iPS細胞研究所名誉所長・山中伸弥氏の人生を変えた2冊の本

ノーベル生理学・医学賞を受賞し、「こども本の森 中之島」で名誉館長をも務める山中伸弥氏。研究者になるきっかけとなったご尊父の死や、うつ病など、どん底の時期に活路を求めて様々な本を渉猟する中で出逢い、山中氏の人生を変えた2冊の本について語っていただきました。対談のお相手は、「こども本の森」を発案し、設計を手掛けた日本を代表する建築家・安藤忠雄氏です。
(本記事は『致知』2025年6月号 特集「読書立国」より一部を抜粋・編集したものです)

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幼少期の読書体験で培われた忍耐力

~中略~

<安藤>
山中先生が読書に目覚めたのはいつ頃ですか?

<山中>
本がすごく好きになったのは小学校高学年くらいからです。

3年生までは父親が営む町工場のすぐ横に住んでいて、常に家族や住み込みの社員が周りにいる環境でした。4年生に上がる時に工場は東大阪のままで、家だけ奈良に引っ越しましてね。母親は父親の仕事を手伝っていて、姉は8歳上で離れていましたから、いわゆる鍵っ子になったんです。

それで自ずと読書をする時間が増えました。当時はNHK出版の『地球の科学 大陸は移動する』、SFとして世界最長でドイツ原作のスペースオペラ小説『宇宙英雄ローダン・シリーズ』、作家・星新一さんの『ショートショートセレクション』など、専もっぱら科学に関する本やSFの本を読み込みました。

もともと理系でこういう本に興味を持ったのか、こういう本を読んだから理系になったのかは分からないんですけど(笑)、私の幼少期に大きな影響を与えてくれたことは間違いありません。

<安藤>
「こども本の森 中之島」では「あの人の本棚」というコーナーをつくって、ゆかりのある素敵な大人が小さい頃に読んでいた本を紹介していますが、第1弾の企画として山中先生にそれらの本を選書していただきましたね。

<山中>
青年期に感銘を受けた本は2冊あります。医師で東京大学名誉教授の黒木登志夫先生の『がん遺伝子の発見』と、アメリカのビジネスコラムニストであるデイル・ドーテン氏の『仕事は楽しいかね?』です。

どん底で出逢った2冊がターニングポイントに

<山中>
そもそも私が医者になったのは父親の影響が大きく、中学生の時に父親は肝かん硬こう変へんを患わずらいました。どんどん衰弱して苦しむ姿を見ている中で、医学を志すようになったんです。

父親も「工場は継がなくていいから医者になれ」と背中を押してくれましたが、研修医になった翌年に、父親は58歳で亡くなりました。私が26歳の時です。治してあげられなかったという無力感や喪失感を味わったことで、臨床医から研究者に転じたんです。

その後、アメリカのグラッドストーン研究所に留学し、そこで最先端の研究技術はもちろん、所長から「研究者として成功する秘訣はVW(ビジョン&ワークハード)だ」という教えをはじめ、精神的な学びも数多く得て、意気揚々と帰国しました。

ところが、日本とアメリカの環境の違いに苦しみ、思うように研究が進まず、精神的にまいってしまったんです。35歳の時でした。

<安藤>
鬱うつ病になってしまったと。

<山中>
ええ。勝手にPAD(ポスト・アメリカ・ディプレッション/アメリカ後鬱病)と名づけています(笑)。どん底の時期に活路を求めて様々な本を渉しょう猟りょうする中で出逢ったのがその2冊でした。

研究者を辞めて臨床医に戻ろうかとさえ思っていた時に『がん遺伝子の発見』を読み、すごく感銘を受けました。がん研究に心血を注いでこられた黒木先生の歩みを通して、もう一度研究者として頑張ろうと再起したんです。

また、『仕事は楽しいかね?』にも救われました。この本はコカ・コーラやリーバイスなど、企業の成功事例を交えながら、35歳のサラリーマンと老人との対話形式で展開していく内容です。8割から9割は当然うまくいかない。しかし、そのうまくいかないことの中から実はチャンスが生まれることを学びました。

だから、まずはとにかく何でも挑戦してやってみる。そこで思い通りにならなくても、結果を楽しむ。きちんと受け入れた上でチャンスだと捉える。そうやって気持ちを切り替えたんです。

実際、研究を進める中で何度も仮説が外れ、その度に考えもつかなかった方向に転換し、そこからさらに実験を重ねていくことで、iPS細胞の発見に辿たどり着くことができましたから。

<安藤>
その2冊の本との出逢いが山中先生の仕事と人生のターニングポイントになったわけですね。

<山中>
はい。まさしく人生を変えた本ですし、そのおかげでiPS細胞ができたようなものです。


(本記事は『致知』2025年6月号 特集「読書立国」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇安藤忠雄(あんどう・ただお)
昭和16年大阪府生まれ。独学で建築を学び、44年安藤忠雄建築研究所を設立。54年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、平成5年日本芸術院賞、7年プリツカー賞、15年文化功労者、17年国際建築家連合ゴールドメダル、22年文化勲章、25年フランス芸術文化勲章、27年イタリア共和国功労勲章、28年イサム・ノグチ賞など受賞多数。イェール、コロンビア、ハーバード各大学の客員教授を歴任。9年から東京大学教授。現在、名誉教授。令和2年自身が発案し設計を手掛けた「こども本の森 中之島」開館。以降、神戸・遠野(岩手県)・熊本に広がる。著書に『仕事をつくる―私の履歴書 改訂新版』(日本経済新聞出版社)など多数。現在、「安藤忠雄展︱青春」をグラングリーン大阪にて7月21日まで開催中。

◇山中伸弥(やまなか・しんや)
昭和37年大阪府生まれ。62年神戸大学医学部卒業後、整形外科医を経て、研究の道に進む。平成5年大阪市立大学大学院医学研究科修了。アメリカ留学後、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任し、22年より京都大学iPS細胞研究所所長。令和元年より京都大学iPS細胞研究財団理事長兼任。アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、ウルフ賞、京都賞、ノーベル生理学・医学賞など受賞多数。稲盛和夫氏との共著に『賢く生きるより辛抱強いバカになれ』(朝日新聞出版)。

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