惻隠、もののあわれ、誠実、礼節——今、日本人が取り戻すべき美質(お茶の水女子大学名教授・藤原正彦)

「自由・平等・人権」——日本のあるべき姿を長年、提言してきた藤原正彦氏は、これら3つの精神性ほど心許ないものはないといいます。欧米崇拝の歴史の中で見失ってしまった、日本人が本来持っていた美質とは何か。人権思想との違いを踏まえ、語っていただきました。
(本記事は月刊『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」より一部を抜粋・編集したものです)

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人権思想と日本の美徳の根本的な違い

ところで、欧米の民主主義を支えてきたものといえば、自由、平等、人権の精神です。

しかし、私から見たらこれほど心許こころもとないものはありません。第一、ヨーロッパで最も差別が酷ひどいのがフランス革命を起こした当のフランスなのです。アメリカやイギリスで生活をしてきた私ですが、フランスほどあからさまな差別を受けた国はありませんでした。パリで不愉快な経験をした日本人は多いはずです。

自分の権利を押し通し、他人を誹謗ひぼう中傷する自由ばかりが幅を利かせた社会に、平和や人々の安寧が訪れるはずはありません。

ヨーロッパの長い封建社会の中から人々がようやく勝ち取り、アメリカ独立宣言にも書き込まれた自由、平等、人権。しかし、この思想はすでに賞味期限が来ているということを、世界の人々はいい加減自覚すべきと思います。

これら3つの本質は「自由だ、平等だ、人権だ」と外に向かって叫び相手に要求するものです。

一方、日本の美風、例えば武士道精神の中心となる惻隠、もののあわれ、誠実、礼節といったものはすべて自分の内側に静かに語りかけるものなのです。欧米の人権思想と日本人古来の美徳の根本的違いはここにこそあるのです。

自由だ、平等だ、人権だと外に向かって叫ぶことは、そのまま戦いの姿勢となり、自己を正当化するための論理が必ずそこには伴います。

欧米の植民地化にも、最近のロシアとウクライナの戦いにも、それぞれ論理があります。しかし、自己を正当化する論理がぶつかり合う限り、戦争が終結を見ることはありません。

論理の衝突を防ぐ方法は一つ。心の内に向かって静かに語りかけることであり、それは即すなわち日本古来の精神に立ち返ることなのです。

世界が混迷を極める中、日本人はまず誰よりもこの素晴らしい美質に気づき、それを取り戻すべく努めなくてはいけません。世界が指針とすべき美質を根に備えていながら、いまだに根無し草状態にある日本人の姿は残念という他ありません。


(本記事は月刊『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」より一部を抜粋・編集したものです)

↓ 記事内容はこちら!
◆日本には世界に誇るべき美質があった
◆西洋思想に飼い馴らされた日本のインテリたち
◆人権思想と日本の美徳の根本的な違い
◆武士道精神を叩き込まれた人生の原点
◆明治人に見られる3つの特徴
◆武士道を体現した先人たち
◆家族愛、郷土愛、祖国愛
◆読書文化の復興が欠かせない
◆読書を通して人としてのあり方を学ぶ
◆日本の美質に世界が注目する時代が来る


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◇藤原正彦(ふじわら・まさひこ)
昭和18年旧満州新京生まれ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。理学博士。コロラド大学助教授などを経て、お茶の水女子大学教授。現在は同大学名誉教授。53年に数学者の視点から眺めた清新な留学記『若き数学者のアメリカ』(新潮文庫)で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。ユーモアと知性に根ざした独自の随筆スタイルを確立する。著書に280万部の大ベストセラー『国家の品格』(新潮新書)の他、『国家と教養』(同)『スマホより読書 本屋を守れ』(PHP文庫)など多数。最近著に『藤原正彦の代表的日本人』(文春新書)。

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