【取材手記】「目の前に起こる出来事は全部最高」——サイゼリヤ創業者・正垣泰彦の運命を変えた母の言葉

~本記事は月刊誌『致知』2025年2月号 連載「二十代をどう生きるか」の取材手記です~

誰もが知る人気イタリアンチェーンの知られざる創業秘話

1967年、千葉県市川市の17坪・37席の洋食屋としてスタート。素材の生産・調達、加工から商品提供まで一貫して取り組む「バーティカルマーチャンダイジング(製造直販)」を導入し、おいしさとリーズナブルの両立を実現してきた「サイゼリヤ」。2022年には創業55年の節目を迎え、現在国内外に約1,500店舗、年間来客数は2億人を上回る世界最大のイタリアンチェーンに成長を遂げました。

「利益のことは考えない」「お客様最優先」という考えの下、原材料費高騰や物価高でほとんどの飲食店が値上げに踏み切る中でも、サイゼリヤは値上げをしません。さらに、年間販売数約7万食を誇る人気ナンバーワン商品「ミラノ風ドリア」は少なくとも年に10回以上、1983年の発売からこれまでに1,000回を超える改良を続けるなど、お客様の喜びを追求し続けています。

同社を大学在学中の21歳で立ち上げ、今日の繁栄を導いてきたのが、創業者であり、現在も会長を務める正垣泰彦さんです。誰もが知る人気イタリアンチェーンに発展したサイゼリヤですが、開店から1年9か月で店が全焼するなど、幾度も逆境に直面してきたといいます。氏はいかにして困難を乗り越え、道なき道を切り拓いてきたのでしょうか。

月刊誌『致知』最新号(2025年2月号)の連載「二十代をどう生きるか」では、正垣さんが辛酸を嘗め尽くしたというサイゼリヤ創業期を振り返っていただき、人生・商売繁盛の極意に迫りました。

正垣泰彦(しょうがき・やすひこ)
昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場。21年より現職。著書に『サイゼリヤの法則』(KADOKAWA)など。

「こんなに面白くて読むのが楽しみな雑誌は他にない」

11月5日(火)、浜松町の東京本部オフィスを訪ねると、正垣さんは笑顔で私たちを迎えてくださいました。そして開口一番にこうおっしゃいました。

「『致知』は本当に素晴らしい雑誌ですからね」と。

実は、正垣さんは『致知』2021年12月号 特集「死中活あり」で表紙を飾っていただいて以来、弊誌を愛読してくださっています。取材前には「この不変の真理が詰まった雑誌を世界中に広めるべきだ」と、並々ならぬ思いを熱く語ってくださり、正垣さんからいただいたエールを日々の原動力に換え、仕事に精進していく決意を新たにしました。

なお、正垣さんからは2023年1月に開催された弊社主催のセミナー「第12回 社長の『徳望を磨く』人間学塾」第4講でご講演いただいた際、このようなメッセージを頂戴しました。

「2年前に取材を受けた後、これもご縁だと思って『致知』を読むようになった。驚いたことに、そこに登場される方々は難解な宇宙の法則をそれぞれの実体験を通して証明してくれている。「そうだ、そうだ」と共鳴できるし、同時に反省も促される。月初に届くと数日間で全部読み終え、「早く来ないか」と次号が待ち遠しい。こんなに面白くて読むのが楽しみな雑誌は他にない」

今回の取材では60分に亘り、高校時代の恩師との出逢いや原点となった大学時代のアルバイト、サイゼリヤ創業期を振り返っていただきました。本記事ではそこで語られた内容を一つひとつ詳らかに紹介しています。

 ↓インタビュー内容はこちら!

◇手を差し伸べてくれた恩師
◇「おまえには素質がある」
◇運命を変えた母の言葉
◇かくして繁盛店へと導いてきた
◇最悪の時こそ最高である

 

開店から1年9か月での全焼——サイゼリヤの成功を支えたもの

正垣さんは大学在学中の21歳の時に、アルバイト先のコック長に何度も独立を勧められた末、アルバイト先の仲間と共に千葉県市川市に17坪・37席のサイゼリヤ1号店を開店しました。

しかしながら、当時のお店は商店街の外れのビルの2階にあり、1階には八百屋とアサリ屋が入っていました。狭い階段を上がらないといけないのに、入り口に置かれた青果が邪魔をして思うように通れません。連日閑古鳥が鳴き、1日の来客数が6人だけという惨憺たる状況からのスタートでした。

それでも社員のために何とかしようと、翌朝4時まで営業時間を延ばし、お店に寝泊まりする過酷な毎日を送っていた正垣さんに、さらなる悲劇が襲います。深夜営業が仇となって、いつしかならず者のたまり場に……。しまいにはヤクザ同士の喧嘩で石油ストーブが転倒し、店は全焼してしまったのです。開店から1年9か月後のことでした。

正垣さんは当時を振り返り、次のように述懐されています。

「ああ、これで辞められる」。本心は逃げ出したくて仕方なかっただけに、火柱が上がる店を見つめて、どこか安心する気持ちもあった。

電車賃もなく、千葉から中野の自宅まで歩いて帰宅した正垣さん。お母様にその胸中を打ち明けると、お母さまは満面の笑みを浮かべながらこうおっしゃいました。

「火事に遭ったあの店はおまえにとって最高の場所。邪魔だと言っていた八百屋もアサリ屋も、お前のためにそこにある。自分の目の前に起こる出来事は全部最高。もう一度同じ場所で頑張りなさい」

お母様の意外な言葉を受けた正垣さんは、さらにこう続けます。

起こる出来事はよいことも悪いことも全部自分のため。店が閑散とする原因を立地のせいにしていた私にとり、それは訓戒だった。

お客さんが来ないことを立地のせいにしないで、お客さんが来てくれるようにひたむきに努力することが大切――。お母様の含蓄に富んだ教えに触発され、サイゼリヤの再起に乗り出した正垣さん。創業期の苦境を乗り越え、いかにして繁盛店へと導いてこられたのでしょうか。その全貌はぜひ本誌をお読みください。

最後に、本誌では紹介し切れなかったお母様との思い出をご紹介します。1998年4月、サイゼリヤが株式を店頭公開する日の朝のこと。家を出ようとした正垣さんに、お母様が一通の手紙を手渡されました。そこには一つの詩が綴られていたのです。

大きなことを成し遂げるために力を与えてほしいと神に求めたのに
謙虚を学ぶようにと弱さを授かった
偉大なことをできるようにと健康を求めたのに
より良きことをするようにと病気を賜った
幸せになろうとして富を求めたのに
賢明であるようにと貧困を授かった
世の人々の賞賛を得ようと成功を求めたのに
得意にならないようにと失敗を授かった

いかなる時も、落ち込まず、傲慢になってはならない。アメリカ南北戦争時の兵士が遺したこの詩から、「最悪の時こそ最高」と心得、謙虚に生きる大切さを教えられます。

▼『致知』2025年2月号 特集「2050年の日本を考える」
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