2023年03月30日
満身創痍になりながらも、世界の強豪相手に真っ向勝負のファイトスタイルを貫き、多くのファンを沸かせた元総合格闘家の大山峻護さん。引退後は企業向け研修「ファイトネス」の普及や書籍の出版などを通じて、誰もが健康で笑顔になれる社会の実現に奔走されています。壮絶な格闘技人生から氏が掴んだ心の力、充実した人生を生きる要諦をお話しいただきました。
感謝の力を戦う力に
――憧れのPRIDEのリングに実際に立って、いかがでしたか。
〈大山〉
講道学舎と同じで、まだ自分の実力はPRIDEで通じるレベルではなかったんですね。初戦では1ラウンドTKO負け。二戦目もボコボコに殴られてKOされたのですが、そのダメージで右目の網膜剥離になり、長期欠場を余儀なくされました。網膜剥離の手術は局所麻酔なので、手術中、先生や看護師の会話も聞こえますし、針が目に入ってくるのも見えるので、ものすごく怖いんですよ。
その一年後の復帰戦では、グレイシー一族のヘンゾ・グレイシーと対戦し、何とか判定でPRIDE初勝利を収めたのですが、試合後に猛バッシングを受けました。
――何が原因だったのですか。
〈大山〉
勝つことにこだわり過ぎ、結果的に戦略的、消極的な試合になってしまったんです。初めて知らない人から誹謗中傷を受け、鬱状態になるほど落ち込みました。
この経験からファンは試合の勝ち負けではなく、格闘家の〝生き様〟を見に来ているんだと気づき、真っ向から戦うファイトスタイルを意識するようになりました。
そして次の試合では、ヘンゾの弟であるハイアン・グレイシーが一族を背負って私を倒しにきたんですね。格闘技一家のグレイシー一族には、負けてはならないという掟があるんです。その時私は鬱状態でしたし、一族を背負って自分を倒しにくるなんてそうないですから、試合前から気持ちで負けていました。実際、ハイアンには腕をへし折られて負けました。
――ああ、腕を……。
〈大山〉
腕の治療とリハビリを終えた復帰戦でも、ダン・ヘンダーソンという選手にKO負けし、今度は左目の網膜剥離になったんです。またあの恐ろしい手術を受けるのかと、さすがに泣きました。
左目の手術後には、ミルコ・クロコップというものすごく強い選手と対戦することになり、1ラウンドKOされました。それでもうここにはいられないと、2004年、30歳の時にPRIDEのリングを離れることにしたんです。
――そこからどう気持ちを立て直し再起していかれたのですか。
〈大山〉
ちょうどその頃、新しい総合格闘技団体「HERO’Sヒーローズ」が立ち上がりまして、出場しないかと声を掛けていただいたんですね。
これはラストチャンスだと思って試合に臨んだのですが、さいたまスーパーアリーナのリングに入場する前に、不思議と感謝の思いが込み上げてきたんです。こんな自分を選んでくれて、こんな舞台で戦わせてくれて、本当に有り難いなって……。そしたら緊張がすーっと抜けていったんですよ。
で、相手はヴァレンタイン・オーフレイムという世界の強豪だったんですけれども、寝技の展開になり、足首を捻ひねる関節技・アンクルホールドをきめて勝つことができたんです。それも試合の10日ほど前に先輩から教えていただいた通りの展開で、まさに絵に描いたように関節技がきまりました。
それまでは勝ちたい、勝たなきゃっていうエゴ、義務感ばかりが先に立っていました。でも、有り難い、皆さんに試合を楽しんでほしいという感謝のマインドで臨むと、すごく楽になって本来のパフォーマンスが出せるようになったんです。ここからです、試合で勝てるようになっていったのは。格闘家人生の大きな転機でした。
(本記事は月刊『致知』2023年3月号 特集「 一心万変に応ず」より一部抜粋・編集したものです)
◎大山峻護さんのインタビューには
・ウルトラマンのようなヒーローになりたい
・ワクワクを信じて総合格闘技の世界へ
・負け続けたPRIDEのリング
・人生のあらゆること、すべてを力に
など、心の力を高め、人生の勝利を掴む要諦が満載です。本記事の詳細・ご購読はこちら【「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】
◇大山峻護(おおやま・しゅんご)
昭和49年神奈川県生まれ。5歳から柔道を始め、中学2年生で講道学舎に入る。平成5年作新学院高等学校卒業、9年国際武道大学卒業。10年第28回全日本実業柔道個人選手権大会・男子81kg級優勝。13年柔道選手からプロ格闘家に転身。22年「マーシャルコンバット」ライトヘビー級タイトルマッチ王座獲得、24年初代ROAD FCミドル級王座獲得。26年現役引退。現在は格闘技を応用した研修プログラム「ファイトネス」を通じて、教育機関や企業などでチームビルディング、メンタルタフネスに尽力している。また、令和2年に一般社団法人You-Do協会を立ち上げ、アスリートと児童養護施設等の子供たちを繋ぐ活動にも取り組む。著書に『ビジネスエリートがやっているファイトネス』(あさ出版)などがある。