ファンケル創業者・池森賢二の原点となった母の教え

無添加化粧品の先駆けとして知られるファンケルを徒手空拳で立ち上げ、今日の繁栄の礎を築いた池森賢二氏。日本を代表する経営者の一人です。そんな氏の経営者としての原点には、女手一つで子供5人を育て上げた母親の背中があったと言います。

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母に教わった勤勉誠実な生き方

1937年、5人兄弟の次男として三重に生を享けました。優秀な電気技師だった父の収入はよく、幸せな暮らしそのものでした。しかし戦争の激しさが増した1945年、小学2年生の時に、母の実家がある新潟に疎開することに。藁を敷いた納屋で寝泊まりする貧しい生活を強いられました。

そして忘れもしない1946年、6月21日。冷たい雨が降りしきる夜、父が停電を直そうと電柱で作業していたところ、雨で足を滑らせた拍子に高圧電線を掴んでしまったのです。即死でした。

母に「急いで村に知らせて」と言われ、1キロ先の村まで雨の中を走った光景はいまも鮮明に覚えています。その道中、「親父は死んだけど、母は残っている」と自分に言い聞かせていました。そうすることでしか、父の死を受け入れられなかったのかもしれません。

この時を境に、我が家の家計は困窮を極めます。子供5人を残された母は農作業の手伝いや編み物など、朝から晩まで身を粉にして働いていました。それでも一向に楽にならず、仕事を求めた母は3人の子供を連れて上京します。祖父の家に残された私と4歳下の弟は母が恋しくて堪りませんでしたが、わがままを言える状況ではなく、東京で一家団欒の暮らしが叶ったのは中学2年生の時でした。

母にとって父を失った無念たるや、いかばかりであったか……。お腹にいた末弟を「行夫」と名づけたことから、身を裂かれる思いであったことは想像に難くありません。けれども、母は一切弱音を吐きませんでした。たとえ高熱が出たとしても、注射を打って出勤していたほどです。後年、当時を振り返りこう述懐しています。

「子供たちに腹いっぱい食べさせたい。そのために何をしたらいいのか、それだけを考えていた」

どんなに辛く苦しくても、毎日真面目に働いていれば、必ず道は開ける。その勤勉誠実な背中を傍で見て育ったからこそ、道を誤ることがなかったのだと思います。

少しでも母を楽にさせたいという一心で、中学卒業と同時に、東京のパン屋に丁稚奉公に入りました。毎朝3時には起き、懸命に仕込みをやる。母に給与を手渡す度、「助かるよ」と言ってくれることが何にも代えがたい喜びでした。


(本記事は月刊『致知』2024年9月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

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◇ 池森賢二(いけもり・けんじ)
昭和12年三重県生まれ。34年小田原ガス入社。48年退社。55年無添加化粧品事業を個人創業。翌年、ジャパンファインケミカル販売(現・ファンケル)を設立。平成11年東証一部上場。令和元年会長退任。現在、未来を担う経営者の発掘・支援を積極的に行っている。著書に『企業存続のために知っておいてほしいこと』(PHP研究所)など多数。

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