「思いは実現する」──大阪の地で産業廃棄物収集事業を展開するジェイ・ポートの創業の原点(代表取締役・樋下茂)

本記事は月刊『致知』2024年10月号掲載記事を一部編集したものです~

創業70周年の節目を迎えて

弊社の前身である城東衛生が大阪市許可業者として事業を開始したのは1954年。いまを遡ることちょうど70年前です。

創業者である祖父・樋下嘉一郎が大阪市城東区で始めた一般廃棄物運搬業務は父・建二に引き継がれ、2000年からは私が社長として会社の舵取りを担うようになりました。現在の従業員はパートを含めて約60名。年商は約10億円。おかげさまで業績は順調に推移しています。

父は、私の幼い頃から体が不自由でした。50年以上前、一般廃棄物をトラックで運搬中に追突事故を起こし、一命は取り留めたものの左脚に大怪我を負い、車が運転できない体となったのです。他に社員はいなかったために、アルバイトに来ていた男性を急遽ドライバーとして採用、何とか事業を継続したという経緯がそこにはありました。

当時の私は、周囲から「ゴミ屋の息子」と見られることにコンプレックスを感じていました。小学校の作文では「運送屋」と書くこともありましたが、一方で父は「茂、商売というものはええもんや。頑張れば頑張るほどお客様から応援いただける」と笑顔で語るのが常でした。仕事の前線に出られずとも決して誇りを失わない父の姿に接するうちに、いつしかコンプレックスも消え、きつい仕事を積極的に手伝うようになっていました。

とはいえ、高校、大学と進むにつれて親への反発心が芽生えてきたことも事実です。大学を出ても家業に入ることを避け、アルバイトをしたり、外資系の銀行で働いたり、オーストラリアでホテルのマネジャーをしたりと、自分がやりたいことばかりしていました。

数年ぶりに父から電話をもらったのは、オーストラリアにいる頃でした。私が事業を継承することを条件として銀行から融資を受けたいというのです。この電話がきっかけとなり、30歳の時に家業に入ることになりました。そこには、大学まで出て自由、気ままに生きてきたことへの贖罪の気持ちも少なからずありました。

「いつかは社員全員で盆踊りがしたい」

入社当時の従業員は5名で、荒くれ者ばかりでした。入社の日、「俺はおまえに雇われているのちゃう。親父さんに雇われているんやからな」と釘を刺されたのを覚えています。挨拶も会話も打ち合わせもなく、社内は殺伐とした雰囲気でした。

ただ、唯一の救いは従業員たちが朝早くから夜までよく働いていたことです。どこにも行き場のなかったところを雇ってくれた社長に報いたい、という思いもあったのでしょう。父もまた、体が不自由な自分に代わって働く従業員たちを大事にし、精いっぱいの愛情を注いでいました。

私は父の鞄持ちだけではなく、従業員たちと共に現場で汗水を流して働きました。彼らに認めてもらわないことには自分の未来はないと思ったからです。また、得意の営業力を発揮して次第にお得意先も増えていきました。しかし、それで従業員との溝が埋まり、社風が改善されたわけではありません。父の持病が悪化し、2000年、33歳の時に社長を継いだものの、父を抜きにしては会社が回っていかない状態は相変わらずでした。

いつも通り殺伐とした社内で一日の業務を終えたある日、窓から隣の会社様が賑やかにお祭りをしている様子を目にして思いました。

「いつかは社員皆で賑やかに盆踊りができる会社にしたい」──他愛のないことですが、これはその頃の私の一生をかけた切なる願いだったのです。

社内木鶏会を通して社風を改善

人生や仕事に悩んだ私は、そのヒントを古典などの読書やセミナーに求めるようになっていました。そうして出合った学びの一つがアドラー心理学です。セミナーを受けて衝撃だったのは、「自分はみじめで可哀相な人間」という被害者意識を持ち続けていたことでした。しかし、目の前の現実を建設的なものにするか非建設的なものにするかは私の選択であり、誰の責任でもありません。自らの主体性を確立させた上で、目標を共有し仲間と協調し合う「自立と調和」の精神こそが、自身にも我が社にも必要だと気づいたのです。

私はこの考えに共感してくれる仲間を増やしたいと考えました。よき人材を採用するには売り上げを上げなくてはいけません。幸い努力が実り、気持ちが通じ合う仲間が入ってくれました。

2010年、父が他界したこの年に目標としていた3億円の売り上げを突破。3年後、『致知』をテキストにした社内木鶏会を導入した頃から業績は成長軌道に乗り始めました。

まだまだ古参社員の反発が強く、入社以来、私を支えてくれた妹も懐疑的で、木鶏会を導入できる雰囲気ではなかったものの、子会社の数人で始めた木鶏会はコツコツと継続したことで社内風土が大きく変わり、5年後には、任意参加であるにも拘らず全従業員の8割以上が参加するまでになりました。百回を超えた現在、かつては懐疑的だった妹は古参社員と共に皆勤するほど熱心に参加してくれています。

また、2015年、此花工場の落成に合わせて念願だったお祭りを100名以上で実現できた時の感激はいまでも忘れることができません。

同年以降は初の経営計画発表会や環境整備、大卒採用にも取り組み、業績は急伸。私が入社した27年前、1億4,000万円だった売り上げを現在、7倍にまで増やすことができました。

環境問題の解決で世界平和を

弊社の原点に思いを馳せる時、思い浮かべるのは、父が従業員たちに注いだ愛の深さです。破天荒な父でしたが、半面、とても人に慕われ優しい一面がありました。「信頼」という言葉を好んで使い、「信頼を求めるのではなく、まず自分から信頼することや」という何気ないひと言は、そんな父の人柄をよく表しています。「自立と調和」という私自身のポリシーとも相俟って、我が社の社風は醸成されていったと思います。 

事業内容は私の代になって産業廃棄物の収集、運搬、処理業務が主となりました。この業界は不法投棄、大気汚染といったネガティブなイメージが先行しがちですが、一方でそれは取り組むべき社会的責務の大きさを物語っています。その一環としていま弊社が取り組んでいるのが「産廃のコンビニサービス」です。いつでも、どのような産廃でも持ち込める工場があれば、お客様は待つことなく気軽に捨てることができます。併せて、此花工場を拠点に混合廃棄物を機械選別し、プラスチックを代替石炭として燃料化する計画も進めています。もし、これらが全国に広まったとしたら、地球温暖化やエネルギー問題が少しは解決し、世の中をよい方向に変えられるでしょう。

社会全体から見れば小さな取り組みかもしれませんが、それがひいては世界の平和にも繋がると信じて、70周年を節目としてさらに前進を続けていく覚悟です。


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