【取材手記】 親の○○○が子供の未来を決める:0歳からの子育て(内田伸子×佐藤亮子)

~本記事は月刊『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」掲載対談の取材手記です~

討論番組で思わず意気投合!?

2023年、有名経済ニュースサイトが主催する討論番組で、ある対談映像が公開されました。登壇者のお一人は、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」の番組監修や通信教材「こどもちゃれんじ」の開発にも携わってきた発達心理学者の内田伸子さん。そしてもうお一人は、弊社から『子どもの脳がグングン育つ読み聞かせのすごい力』を出版、自身の子供(三男一女)全員を日本の大学入試の最難関とされる東京大学理科三類に進学させた佐藤亮子さん。討論テーマは、早期教育の是非を問う、というものでした。

そこに言わば慎重派として呼ばれた内田さんは、海外で発表された注目すべき論文や研究結果を交え、安易なビデオ教材の使用や母語が身につく前の英語学習に疑問を投げかけられました。対する推進派として呼ばれた佐藤さんは、子供の将来を第一に考えた自身の徹底した子育て体験を踏まえ、幼少期の学習や育て方について語られました。

以前から親交のあったというお二人。一見、真っ向からぶつかるかと思われた議論は、途中で共感の嵐に変わり、〝早期の子育てに必要なものは何か〟を考えさせる内容へと深まっていきました。その様子はまさに、意気投合でした。

子育ては十人十色といいます。実際にそうでしょう。ただ、自分の親や知り合い、巷に溢れる書物や記事など〝正解〟が溢れる世の中で、自分の子育てに迷い、自信を失う親御さんもいらっしゃるのが現実です。子育てに普遍の法則は本当にないのでしょうか? 他の誰でもない大事な我が子の、たった一度の人生の土台になる子育てには、やはり指針がほしいものです。

このお二人ならば、間違った子育てを一方的に断罪するのではなく、ではいったい幼い子供に何を教えるべきか、親が大切にするべきものは何かという〝子育てのヒント〟を示していただけると感じ、今回『致知』で対談いただくことになりました。

読み聞かせが子供にもたらす、すごい力

現在、それぞれ大学の教授や塾のアドバイザーを務め、他にも研究、講演、執筆と多忙を極めるお二人にご快諾をいただき、なんとご依頼から1週間ほどで対談取材が確定。雨の中にもかかわらず予定時間より30分も早く会場にお越しくださると、久しぶりの再会を喜び合い、こちらが話を進めるまでもなく対談が始まりました。

まず、いまの子育て・教育のトレンドに関して、伺いました。そこで浮かび上がってきたのは目から鱗の事実。詳しくは誌面に譲りますが、世間ではあまり知られていない、映像教材やスマホの弊害、無策な英語教育の危うさなど、子供の脳や体の発達に合わせた教育の必要性を痛感させられました。

そういう中で、家庭では具体的にどういう教育をしていけばよいのか? 佐藤さんが口火を切り、自身が子供たちに行った1万冊の読み聞かせ、そのやり方とコツ、思いがけない効果を語っていただきました。

〈佐藤〉
日本語を学ぶにも旬がある、とりあえず3歳までに両方1万回やってあげよう、これが始まりです。(長男は)既に生後半年だったので残り時間は実質2年半。1日に15ずつやれば達成できる計算です。

こう言うと驚かれるんですけど、絵本って1冊数分で読めますからそれほどきつくないんです。私は何冊読んだかをカレンダーに記録していきましたけど、貯金している感覚で、楽しいですよ。

どうしても15冊達成できない日はあります。10冊しか読めなかったら、5冊分は借金です。その時は、次の日に無理して20冊読むんじゃなくって、16冊読む日を5回つくって解消しました。

〈内田〉
お子さんが読み聞かせを求めていない時もあるわけですよね。

〈佐藤〉
幸い嫌がることはなかったですが、そこで無理やり聞かせるのはよくありません。だから玩具で遊んでいる時は傍で読んであげました。これ、聞いていないようで、耳に入っているんです。それも1回にカウントします。実際、面白い時は遊びの手を止めて聞き入ってくれました。

だんだん1万冊に近づいていくのを楽しみながら、主人にも数字を共有して時々手伝ってもらって、まず長男は、3歳までに1万冊の読み聞かせをやり切ったんです。

一人娘を育て上げた内田さんも読み聞かせを実践した一人。アメリカの研究者ベッテルハイムが著した『昔話の魔力』の逸話を通じて、興味のある話を徹底して読んであげることで、重い発達障害のある子に起きた変化を紹介されました。

言ってしまえば原始的な子育て法である読み聞かせ。それを極めた方でなくては語り得ない、実践的読み聞かせ論がここにあります。子供に名作を読み聞かせる意義は計り知れないことを教えてくれる内容です。

AI時代に勝てる子供の育て方

内田さんはAIに負けない子供の育て方を研究し、提唱されています。人間がやれば何時間もかかる作業や難しく感じる質問にも、たちどころに回答を示したり情報を整理したりしてくれるAI。今後そのさらなる発達が見込まれる中で、子供が豊かに生きていくにはどんな力をつけてあげればよいのでしょうか。

その一つとして、本対談では〝外遊び〟の重要性と意義が説かれていますが、心に残ったのは〝言葉がけ〟の大切さです。

〈佐藤〉
子育てって子供と一対一で向き合ってあげることが大切ですね。子供は本当に非効率の塊で、無駄に思えることの連続ですけど、親が考え方や姿勢を変えるだけでガラッと変わる気がします。

先生の目で見て、子供を伸ばす親御さんの姿勢、子育てのヒントになるものって何かありますか?

〈内田〉
以前、しつけのスタイルと語彙能力の関係を調べたことがあります。子供中心で自由遊びの時間を長く取る自由保育の環境で育った子と、反対の一斉保育の環境で育った子。語彙力をテストしたら、明らかに前者の得点が高かったんです。語彙得点が高い子供たちの共通点は「共有型しつけ」を受けていたことでした。

〈佐藤〉
どういうしつけですか?

〈内田〉
例えば、子供に考える余地を与える、子供の気持ちや動きに敏感になって柔軟に調整する、3つのH〈褒める・励ます・(視野を)広げる〉の言葉をかける。こういう「洗練コード」と呼ばれる言葉がけを用いるしつけね。

もっと具体的に言えば、私が一番感動した、佐藤さんのご長男のお話があります。


内田さんは、しつけのスタイルには二種類あることを示され、そのうち「共有型しつけ」をしていくことが子供の語彙力、生きる力を伸ばしていくといいます。さらに、佐藤さんはそれを自然に取り入れ、お子さんたちを育てていたことも判明。どんどん話が盛り上がっていきます。

対談を終えて感じたことは、親の〝言葉がけ〟が子供の脳、人生の豊かさに無視できないほど深い影響を与えていることでした。反省させられる内容も多かったですが、子供はまるで親の接し方を映し出す鏡のようにも思えました。

お二人の語らいを通して、いますぐ実践できること、そして一生役立つ〝子育てのヒント〟を得ていただけたら嬉しいです。

◉『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」◉
対談〝0歳からの子育て ~子育てにも法則がある~〟
内田伸子(お茶の水女子大学名誉教授)

佐藤亮子(教育評論家)

全10ページの共感の嵐

◇自走する力を乳幼児期から育てる
◇〝間違い〟だらけの早期教育
◇スマホ、タブレット、動画の弊害とは
◇母に教わった分け隔てない人間愛
◇少女時代に衝撃を受けた2つの新聞記事
◇私はこうして読み聞かせた
◇読み聞かせのすごい力
◇子供の人生を分ける親の言葉がけ
◇AIに負けない生きる力を育む
◇待つ、見極める、急がず、急がせないで

▼『致知』2024年12月号 特集「生き方のヒント」
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◇内田伸子(うちだ・のぶこ)  
昭和21年群馬県生まれ。45年お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。平成2年同大文教育学部教授に着任。専門は発達心理学、言語心理学など。ベネッセ「こどもちゃれんじ」監修やNHK「おかあさんといっしょ」番組開発も務める。23年より現職。令和3年文化功労者。5年瑞宝重光章を受章。著書に『AIに負けない子育て―ことばは子どもの未来を拓く』(ジアース教育新社)他多数。

◇佐藤亮子(さとう・りょうこ)  
大分県生まれ。津田塾大学卒業後、大分県内の私立高校で英語教師を務める。結婚後は専業主婦として三男一女を育て、全員を東京大学理科三類に進学させる。その教育が注目を集め、現在は進学塾のアドバイザーを務めながら、子育てや受験をテーマに全国での講演やメディア出演を行う。著書は『子どもの脳がグングン育つ読み聞かせのすごい力』(致知出版社)他多数。

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