2024年11月13日
助産師として50年近くにわたりこれまで約4,000人の赤ちゃんのお産に携わってきた助産院「いのちね」代表理事の岡野眞規代氏。そんな岡野氏には、助産師人生を語る上で切っても切り離せないという、恩師・吉村正先生の存在がありました。吉村先生から学んだこと、そしてお産に観た「命の真実」について語っていただきました。
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お産とは神事であり人類最高の仕事
<岡野>
ただ、もちろん陣痛が弱いと3~4日かかるお産もありますから、体力や忍耐力は必要です。そのため、吉村先生は妊婦さんに「ごろごろ、ぱくぱく、びくびくしない」というスローガンを掲げ、運動・食・精神の三本柱を調えることの大切さを説いていました。
──とてもシンプルで分かりやすい教えですね。
<岡野>
「ごろごろしない」は体をよく動かすということ。
日本人の生活様式は戦後大きく変わりました。トイレは和式から洋式になり、座るのも畳間の座布団から椅子やソファに、寝具も布団からベッドに、台所から竈が消え、お風呂も薪をくべることはなくなりました。
そこで吉村医院では薪割りや井戸の水汲み、スクワットをしながらの拭き掃除といった古典的労働、野山でのピクニックなどを通して心身を鍛えるんです。
「ぱくぱくしない」は腹八分目にするということ。
吉村医院では日本人が昔から食べ続けてきた旬の食材を生かした和食を中心とし、それ以外には「あれがダメ、これがダメ」と制限することはしませんでした。
「びくびくしない」は過度に不安を抱かず、精神的にリラックスして過ごすということ。
無心になって体を動かしたり、妊婦仲間や友達と語り合ったりすれば、ストレスも吹き飛びます。
巷に溢れる情報に囚われたり振り回されたりするのは頭で考え過ぎているから。そうではなくて、毎日の生活を楽しむ。感じる。
お母さんの心のありようがそのまま羊水を通して赤ちゃんに伝わっていくんです。
ですから、吉村先生は「お産にはその人の人生が現れる」「命を懸けて産みなさい」とよく言っていました。
いまこの瞬間、自分の命を最大限に輝かせて生きることがいいお産に繋がる。
そして無償の愛を注ぐことで子供は豊かに育っていく。そういう覚悟を持って、一日一日を過ごしてほしいという祈りのようなメッセージです。
──親の生き方そのものがお産や子育てに影響していくのですね。
<岡野>
私は吉村医院に勤めていた5年間でたくさんの大切なことを学ばせてもらいました。
お産に命の真実を観ることができたんです。吉村先生に出逢っていなかったら、それに気づけなかったでしょう。
とてもやりがいある楽しい毎日を過ごしていましたが、ある時、内なる声が聴こえてきたというか、医院の中にいてこれをやり続けているだけではダメだ、もっと全国に伝えていかなければならないと思ったんです。
人前で喋ることや言葉を紡ぐこと自体が苦手なんですけど、もう伝えずにはおれないとの気持ちに駆られ、フリーで講演活動を始めるようになり、現在に至ります。
──やむにやまれぬ思いで。
<岡野>
いまは子育てをしたくないっていう若い女性も増えていて、産後鬱で自死するお母さんも出てきて、社会問題になっています。
それは誰が悪いとかそういうことじゃなくて、お産のあり方に問題があると思っています。
母子分離で決められた授乳時間しか我が子と会えない。新生児室に番号札で管理される。
そんなベルトコンベアのような機械的で流れ作業のようなお産ではなく、一人ひとりの命に寄り添い、尊重することが大切だと切実に感じています。
お産はただ痛くて辛いものではありません。
神事であり、家族の出発点であり、痛いけど気持ちのいい、幸せを感じられるかけがえのない人類最高の仕事なのです。
(本記事は月刊『致知』2024年11月号インタビュー「約4,000人の赤ちゃんを取り上げて気づいた「命の真実」」より一部抜粋・編集したものです)
◉『致知』2024年11月号 特集「命をみつめて生きる」に岡野氏がご登場!!◉
鳥取県智頭町、自然豊かな山陰の里山に〝命の根っこ〟に寄り添うコミュニティがあります。助産院、デイサービス、診療所、温浴施設、宿泊施設、カフェを展開する「いのちね」。代表を務める岡野眞規代さんは、日本における自然分娩の神様と称される吉村正氏の薫陶を受け、助産師として50年近くにわたりこれまで約4,000人の赤ちゃんのお産に携わってこられました。その中で気づいた命の真実、命と向き合う上で大切なこと、幸せに生きる秘訣とは何か。
↓ インタビュー内容はこちら!
◆お産から看取りまで命の根っこに寄り添う
◆原体験は5~6歳の時に見たテレビドラマ
◆吉村正先生との邂逅を果たすまで
◆「赤ちゃんはピカピカの光の玉だったんだ」
◆お産とは神事であり人類最高の仕事
◆結果よりもプロセス100%の受容でいまを生きる
◇岡野眞規代(おかの・まきよ) ◎各界一流プロフェッショナルの珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。 たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
大阪府生まれ。昭和50年大阪市立助産婦学院卒業後、助産師としてのスタートを切る。公立病院に14年間勤務し、民間病院の婦長を経て、自然分娩のパイオニアとして知られる吉村正氏との出逢いを機に、平成11年より愛知県岡崎市にある吉村医院「お産の家」婦長を5年間務める。病院出産と自然出産合わせて約4,000名のお産に立ち会う。28年鳥取県智頭町に移住し、令和2年「いのちね」を開設。著書に『メクルメクいのちの秘密』(地湧社)など。
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