2024年10月17日
〝ビリギャル〟のモデルとなった長女・さやかさんと
映画化もされ、ベストセラーとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(『ビリギャル』。本書のモデルとなった長女・小林さやかさんを母として支え、育てたのがエッセイストの橘こころさんです。夫婦間の大きな亀裂、3人の子供たちは世間や学校から「ダメな子」とレッテルを貼られ、崩壊寸前に陥っていた家族をいかに再生したのか。当時を振り返っていただき、抱き続けた「母の一念」に迫りました。
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応援すると過保護の違い
――そこからどのようにして家族を再生されたのですか。
〈橘〉
転機となったのは、やはりさやかが高校二年の夏に塾へ行き、慶應大学を目指して受験勉強を始めたことです。
大学までエスカレーター式で上がれる学校にいたのですが、成績もさることながら、無期停学のことなどがあって内部推薦が受けられないだろうと言われていました。そこで、知り合いに紹介された坪田先生の塾へ面談にだけ行ってみることにしたんです。
さやかがイヤなら通わなくてもよかったのですが、とても楽しそうに帰ってきて「私、慶應大学に合格する!」と言ったんです。私は迷わず「いいね! 全力で応援するね」と喜び合いました。
――ああ、迷わず「応援する」と。
〈橘〉
私は行ける行けないは別にどちらでもよくて、さやかが「慶應に合格する!」とワクワクしていることが重要でした。
一方、主人は「おまえなんかが慶應に受かるはずない。その塾の講師は詐欺師だろう。おまえを塾に通わせる金なんてドブに捨てるのと一緒だ。俺は一銭も出さん」と言いましたから、塾の費用は私が独自にパートに出たり、保険を解約したりして工面することになったんですね。
――そこから慶應大学に合格するまでは様々なドラマがあったようですが、お子さんの夢を応援する時に心掛けていたことは?
〈橘〉
やっぱり応援するのと過保護なのとは大きく違うと思うんです。子供の夢を応援したいというのはどんな親でも一緒だと思いますが、それを自分が叶えさせてやろうという気持ちになってくると、間違いなのかなって。
うちの長男の例が分かりやすいと思いますが、確かに小学生の頃は野球が好きで、上手かったと思うんです。それを主人が喜んで、「よし、俺が夢を叶えさせてやる」と。おまえは俺の言うことを聞いていれば間違いない、ああしろ、こうしろ。ミスをすれば罵倒して、時には激しく殴る蹴るを繰り返す。そこまでいくともう親の自己満足でしかなくて、結果、子供の才能が伸びるのを阻害したんじゃないかと思うんです。
――子供の夢がいつの間にか自分の夢になってしまうと。
〈橘〉
だから、さやかが入試の直前に模試の結果が悪くて「もうダメ。慶應、行けない!」と泣いて落ち込んだ時も、私は「夢を途中で諦めてはいけないわ」とは言いませんでした。「そんなに辛いなら、やめていいんだよ。いままでよく頑張ったね!」と。
ただ、娘はそれを聞いて、逆にもう一度頑張ろうと思ってくれたようです。
そうやって必死で勉強する彼女の姿が、主人の心を少しずつ変えていきました。滑り止めの私大受験の日、大変な大雪に見舞われました。その時、ずっと娘と関わろうとしなかった主人が「俺が試験会場まで車で乗せて行ってやる」と申し出てくれたのです。最終的に本命の慶應大学に合格した時は、本当に久しぶりに主人と二人で手を取り合って喜んだ瞬間でした。
心があればあとは勝手についてくる
〈橘〉
やっぱり心が育つことが一番大事で、逆に心があればあとは勝手についてくるんじゃないかなと。素晴らしい人や仕事にも恵まれるだろうし、そうすれば地位や名誉というものはついてくるのではないかと思います。
ですから、親としては子供たちの心を育んであげることが一番大事だと思っていましたし、「子供たちを世界一幸せにする」という私の信念も、彼らから与えてもらったような気がするんですよね。
――母親がどんな一念を抱くかで家族は大きく変わるのですね。
〈橘〉
子供に幸せになってほしいというスタートの願いは、みんな一緒だと思うんです。だけど、子供の行いで自分が非難されたくないとか、プライドを傷つけられたくないとか思い始めると、真実を見失ってしまうのではないかと思います。
かくいう私も一時は危うく間違ってしまうところでしたが、最終的には子供たちによって信念を思い返し、貫かせてもらうことができたと思います。
だから、本当、「子育ては自分育て」なんですよねぇ。
――なるほど、「子育ては自分育て」。
〈橘〉
もう一つ、自分の失敗から言えることは、子供たちに対していたのと同じように主人にも接してあげればよかったんだなと(笑)。そうすれば、自分も楽になるんですね。
昔は主人がいると苦痛でしょうがなかったのですが(笑)、いまでは私の最高の理解者であり支援者です。子供たちはそれぞれの道を歩み始めましたが、いまでも実家を拠りどころにしてくれています。心から「いまが一番幸せ」だと思います。
(本記事は『致知』2015年4月号 特集「一念を抱く」より一部抜粋・編集したものです)
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今年5月に米コロンビア大学教育大学院を修了して間もない小林さんに、恩師・坪田信貴先生との出逢い、留学での体験、ビリギャルの物語で伝えたいメッセージについて語っていただきました。【詳細・購読は下記画像をクリック↓】
◇橘こころ(たちばな・こころ)
昭和39年大阪府生まれ。62年結婚。3人の子供に恵まれる。平成26年長女・さやかさんがモデルとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)がベストセラーに。27年2月、自身も『ダメ親と呼ばれても学年ビリの3人の子を信じてどん底家族を再生させた母の話』(同)を出版した。