「縁を生かす」——臨床心理士・皆藤章氏の心に響いた小さな物語

 

2010年に始まり、今年で12回目を迎える、『心に響く小さな5つの物語』の読書感想文コンクール。「本を読む喜び、楽しさ、感動」にふれる子ども達が増えることを願って始まった本コンクールは、毎年多くの小学生・中学生・高校生からご応募をいただいております。そんな『心に響く小さな5つの物語』シリーズをご愛読いただいている、臨床心理士の皆藤章氏が最も心に響いたという物語をご紹介します。(対談のお相手は、世界一のエステティシャン・今野華都子氏です。)

各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
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縁を生かす

<今野>
皆藤先生の心に響いたのはどの物語ですか。

<皆藤>
『5つの物語Ⅱ』の第5話「命の炎を燃やして生きる」に、足なし禅師と呼ばれた小沢道雄師の話がありますよね。

敗戦後にシベリアに抑留され、過酷な環境のため凍傷にかかって両足切断を余儀なくされた。

しかもそのように不自由な身になってしまったものだから、帰国のために移動している途中で満洲の荒野に1人置きざりにされてしまう。

あらん限りの大声で助けを求めているところを、たまたま助けられるお話ですが、そのような状況下で助けられるというのは全くの偶然ですよね。

でも、本当に生きるということを大切にしている人は、小沢道雄師のように偶然を生かすという体験をされているように思うんです。

ところが多くの人たちは何事も合理的機能的にやろうとするから、偶然というものを脇に置いている。

私のところに相談にくる人たちも、偶然を味方にすることがとっても下手な人たちなんです。

だけどこの話は人間の一生において、偶然というものがどれほど大切かを教えてくれていると思いますね。

<今野>
そのとおりですね。

<皆藤>
私が『5つの物語』の中で一番好きなのは「縁を生かす」なんですけど、この話に出てくる担任の先生と生徒の出会いもまた偶然ですよね。

もし仮に1つの出会いを単なる偶然として脇に置いてしまうと、「こんな不潔でだらしない生徒に出会って嫌だな。早く1年が終わればいいのに」というふうに楽なほうに楽なほうに考えて偶然を捨ててしまう。

そういうことは、いまの時代とても多いように思うんですよ。

でもそれではいけないんだよ、ということを『5つの物語』に登場する人たちすべてが、伝えてくれているように感じられました。

同時に、そういうおまえは偶然とちゃんと向き合ってきたのかと、この本が問い掛けてくるような感じもするんですよね。

<今野>
私もこの「縁を生かす」の話は大好きなのですが、実は私にも小学生の頃にこの話に登場するような素敵な先生との出会いがあったんですよ。

<皆藤>
ぜひその話を聞かせてください。

<今野>
私は小さい頃から体が弱かったために、友達と外で遊ぶことができず、静かに本を読んでいるのが好きな子でした。

そのため、なかなかクラスの子たちとうまく交われずに一人ぼっちでいることが多かったんですよ。

そんな私にある日担任の先生が、「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉をくださいました。

まだ子供の私には難しい言葉でしたけど、「おまえはな、燕や雀じゃないぞ。いまの生き方を大事にしなさい」って。

嬉しかったですね。そうか、いまは自分のことを分かってもらえなくてもいいんだって思えましたから。

以来、それが自分の一生を支える言葉になりました。

私は体が病弱で人よりも体験できることが少ないから、その分本をたくさん読むことで様々な疑似体験をしていく。

そうやって登場する人物の思いを汲み取ることで、少しずつ自分を育ててきたように思います。

ですからその頃から本を読むのがかなり早くて、1日に5冊とか毎日のように読んでいました。

そんな私を見ていてくださった先生が、いつも志を高く持って生きていくんだぞ、と教えてくださったのだと私は思っています。

<皆藤>
その担任の先生との縁を拠り所に、今野さんもまた今日まで歩んでこられたわけですね。

私は仕事を通じていろいろな悩みを抱えた方と出会ってきましたが、これも1つの縁なんですね。

ですからこの「縁を生かす」を読ませていただくことで、出会ったことの責任を果たしていくとはどういうことかと考えるようになりました。

いま、私が思うところは、心理的にという意味ですけど、その人とともに生きる。

ただ生きる。それがどうも人間を知るということに繋がるような気がしています。


(本記事は月刊『致知』2016年10月号 掲載「人生の要訣」から一部抜粋・編集したものです)

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貧しい境遇にも屈せず医者となり、弱い立場にある人々のために力を尽くすと共に、国際医療支援や作家としても幅広く活躍する鎌田實氏と、生と死の現場で命をみつめ続けてきた実体験を交え、生きていく意味、幸福な人生を送る要諦を語り合っていただきました。

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◇皆藤 章(かいとう・あきら)
昭和32年福井県生まれ。52年京都大学工学部入学。3年次に京都大学教育学部転学部。61年京都大学大学院教育学研究科博士後期課程研究指導認定。大阪市立大学助教授、京都大学助教授などを経て、平成19年より京都大学大学院教育学研究科教授。30年4月からハーバード大学客員教授に就任。現在、奈良県立医科大学特任教授。文学博士。臨床心理士。著書に『それでも生きてゆく意味を求めて』(致知出版社)。

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