2022年04月28日
国内最高峰の刀剣研師に与えられる「無鑑査」に48歳で認定された臼木良彦さん。第一線で刀剣研師の山を登り続けると共に、技術の伝承・後進の育成にも情熱を傾けておられます。その臼木さんの若き日の修業時代についてお話しいただきました。仕事への心構え、成長するヒントが満載です。
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仕事は自ら学び取るもの
〈――入門後は、どのように修業に向き合っていかれましたか。〉
〈臼木〉
憧れてこの世界に飛び込んだものの、師匠(藤代松雄氏・人間国宝)の家に住み込みの修業でしたからね、いろいろ大変でした。理不尽なこともいっぱいありました。刀を研ぐ勉強をするのかと思いきや、掃除洗濯やお使いに始まり、日常の細々した雑用も一番下の自分がやらないといけない。
忙しくない時は、夜は一応自由時間なのですが、師匠に「きょうは皆で食事に行くぞ」と言われれば、「用事があります」とは言えません。まあ、住み込みの修業というのはそういう世界です。
〈――厳しい世界ですね。師匠にはどのようなことを学びましたか。〉
〈臼木〉
先ほども触れましたが、本当に寡黙な人でよいも悪いも何にも言わないんですよ。例えば、研いだものを持っていくと、「ああ」「そこに置いておけ」って言って終わりです(笑)。だから、師匠が手を加えたものと弟子たちのものとは何がどう違っているのか、後から一所懸命に見て学びました。
また、基本的には師匠の仕事場には入ってはいけない、道具に触れてはいけかったのですが、仕事場を掃除する時などに、師匠がどんな道具を使ってどんな状態で作業しているのかを見るんです。それが後に「ああ、師匠はこんなふうにしていたな」という具合に自分の仕事にも生きてきました。
〈――自ら師匠の仕事を学び取っていかれたのですね。〉
〈臼木〉
それから、師匠を見ていてすごいなと思ったのは、決して妥協しないことです。日々の仕事もそうですし、刀剣の考察に関しても妥協しない。一振りの刀剣でも非常に広く深く見ていました。
例えば、鎌倉時代の刀剣であれば、鎌倉時代の刀の特徴、文化・風習に至るまで徹底して調べて考察していく。刀剣に関する文章も非常に簡潔で無駄がなく、刀剣の見方に関しては学者よりもすごいものがありました。
そうした広く深い考察、妥協しない姿勢が、また研ぎに現れてくるんですよ。師匠ほどではないですが、私も研ぎにせよ、双水執流組討腰之廻の技の継承にせよ、師匠の妥協しない姿勢、徹底して調べて考察する姿勢はいまも大事にしています。
(本記事は月刊『致知』2022年4月号 特集「山上 山また山」より一部を抜粋・編集したものです)
★致知』2022年4月号 特集「山上 山また山」には、国内最高峰の刀剣研師・臼木良彦さんがご登場。自宅兼工房にてお話を伺いました。特に感動したのは、やはり鎌倉時代の名刀「粟田口国吉」を研いだ時のエピソードです。その存在感、美しさに圧倒されながら、損得勘定抜きに無我夢中で研いだ「粟田口国吉」が最高賞の「木屋賞」を受賞。刀剣研師としての仕事、人生が大きく好転していったといいます。記事全文の購読はこちらから★
◇臼木良彦(うすき・よしひこ)
昭和31年東京都生まれ。高校卒業後、刀剣研師で人間国宝の藤代松雄氏に入門。60年に独立。平成13年、名刀「粟田口国吉」を研ぎ、最高賞「木屋賞」を受賞。17年「無鑑査」(国内最高峰の刀剣研師に与えられる称号)に認定。東京都江東区無形文化財。双水執流組討腰之廻清漣館館主。