「この道より我を生かす道なし この道を歩く」武者小路実篤がこの一言に込めた思い


「この道より我を生かす道なし この道を歩く」。文豪・武者小路実篤が遺した言葉の中でもとりわけ有名なものの一つです。実篤は90歳で生涯を終えるまで、「この道」の書画を繰り返し描いていたといいます。人生の折々で、実篤はこの言葉にいかなる思いを抱いてきたのか。武者小路実篤記念館副主幹の伊藤陽子さんとともに、実篤の実像に迫ります。

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最晩年まで繰り返し綴った言葉

<伊藤>
実篤が遺した言葉の中でもとりわけ有名なものの一つが、
「この道より/我を生かす道なし/この道を歩く」です。

この言葉が収録された詩集『雑三百六十五』が刊行されたのは、彼が新しき村を起ち上げて間もない35歳の時。理想実現に向けた決意を表す言葉といえるでしょう。

同時に、決して器用ではなかった実篤にとって、自分は自分なりの生き方をしていこうという思いも込められていると私は思います。

文学者として高い評価を得、書画でも独自の世界を創り上げた実篤ですが、意外なことに、子供の頃は作文と図画が不得意で、字は学年一下手だったといいます。文学も書画も、ひたすら努力を積み重ねて掴み取ったものです。

絵筆を執り始めたのは40歳頃からでした。初期のスケッチには、「描けない。やめた」と書き添えられた未完の庭木の絵もあります。そこから、誰が見てもひと目で実篤の絵と分かる作風をコツコツと築き上げてきた姿勢こそが、実篤の生き方を象徴しています。

彼の小説や書画には、同時代の志賀直哉や谷崎潤一郎、安田靫彦など日本画家とも違う唯一無二の味わい深さがあります。他人の作風を真似ることなく、ただひたすらに自分の道を歩み、深め続けたのです。

実篤は「この道」の書画を、1976(昭和51)年に90歳で生涯を終えるまで繰り返し描いています。年齢を重ね、自身の来し方を振り返りながら、やはり自分にはこの道しかなかったのだ、という感慨を筆に込めたことでしょう。

一方で実篤は、作品は自分のものであり、また読者のものでもあるとも述べています。私も一人ひとりの方の解釈を大切にしたいと思っていて、言葉の意味についてはなるべく詳しい説明は避けています。

実篤のことを知らなくともこの言葉に共感し、座右の銘として掲げる方がいまも絶えないことを、本人はきっと喜んでいると思います。


◉『致知』10月号 特集「この道より我を生かす道なし この道を歩く」◉
エッセイ〝「武者小路実篤——理想に向かい歩み続けた人生に学ぶ」〟
伊藤陽子(武者小路実篤記念館副主幹・首席学芸員)

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◇他人にではなく自分自身に向けた言葉
◇この子は世界に一人という人間になる
◇「10年後を見よ」発刊を続けた『白樺』
◇新しき村で追求し続けた理想
◇最晩年まで繰り返し綴った言葉と

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伊藤陽子いとう・ようこ
東京都生まれ。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業後、調布市武者小路実篤記念館の学芸員に。現在、同館の副主幹、首席学芸員。令和4年同記念館より刊行された『武者小路実篤名言集 生きるなり』の編集を務める。

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