2024年08月19日
2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一に輝いた侍ジャパン。侍ジャパンはいかにして世界一を掴み取ったのか。チームを率い、今年より北海道日本ハムファイターズの最高責任者であるチーフ・ベースボール・オフィサーに就任した栗山英樹氏に、世界一に至る裏側を振り返っていただきました。対談のお相手は、栗山氏が尊敬して已まない臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺氏です。
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世界一の勝運を呼んだもの
〈横田〉
改めて振り返ると、WBC世界一の勝運を呼んだものは何だと感じられますか?
〈栗山〉
ひと言で言えば「無私」ですね。選手たち全員が自分を捨ててくれた、自分のことよりチームが勝つために何をするかに集中してくれたことだと思います。あれだけ能力の高い一流の選手なので当然プライドもある。でも、ずっと試合に使ってあげられない選手もいるわけです。その時に、普通は「俺を使えよ」「なんで出してもらえないんだ」みたいな気持ちが心の中で生まれますよね。
大会の途中から皆がそういう私心を消してくれて、ベンチにいてもとにかくチームが勝つために明るく声を出して盛り上げるとか、誰かが活躍すると心の底から喜んでくれましたし、そういう空気がやっぱりチームを引っ張って前に進めたという実感があります。
〈横田〉
「全員がキャプテン」とは言っても、ベンチの人間がその実感を持つのは難しいと思うのですが、その点はいかがですか。
〈栗山〉
全員が自分を捨ててくれてチームのために尽くしたら、勝ちに近づく可能性が高いと考えて、「全員がキャプテンだから、一人ひとりが俺のチームだと思ってやってほしい」と言ったんですけど、いくら言葉で説明しても伝わらないケースがあるじゃないですか。でも、やっぱり選手が自分の心の中にスイッチをポンと入れてくれる瞬間ってあると思います。
そのきっかけが、例えば骨折をしてもプレーする源田壮亮やボテボテのゴロでも一塁まで全力疾走するヌートバーなど、彼らの氣魄や魂が重なって、選手たちを信じて任せていたら走り出してくれる空気になりました。
〈横田〉
そこをうまく導いていくのが栗山監督の素晴らしいところなのでしょうね。
〈栗山〉
いやいや、僕もそれができなくて、ファイターズ時代に苦しんでいるわけですね。ですから、「どうしてそうなるんですか」って聞かれると、すみません、答えは分からないんですよ。いつもそうしようと思ってやっているんですけど、なかなかできない。
でも、WBCの時は一流選手ばかりで、能力はもちろん思考のレベルも高いので、自分たちがどうしたらチームのためになるのか、日本の野球のためになるのかを考えてプレーしてくれた。僕は掛け算や化学変化を起こすためにあのメンバーを選んだだけで、あとは選手たちがやってくれた。だから本当に感謝しかないです。
〈横田〉
前回の対談で印象に残っているのは、源田選手とのやり取りですね。右手小指を骨折して激痛だったと思いますけど、「痛い」とは一切言わずに「出る」と。
〈栗山〉
全治3か月の骨折だったので、さすがにどうだろうと思ったんですけど、本人は何があってもやると決めているんですよ。一切ぶれていない。
〈横田〉
栗山監督が「源ちゃんはなんでそんなに強いんだ」と聞いたら、「日本のためになるプレーをしたい」「今回は僕で勝つんだと思ってここに来ました」と涙ながらに語ったと。
〈栗山〉
そういう姿を見ていると感動するんですよね。それで「源ちゃん、行くぞ。その代わり、怪我したこと、一切忘れるからね」という言葉を掛けたんです。まさに魂ですよ。そういう選手があっちにもこっちにもいてくれたことがWBCの勝因だと思います。
(本記事は月刊『致知』2024年8月号 特集「さらに前進」より一部抜粋・編集したものです)
【本記事の内容】
◇WBC優勝後も自惚れなかった理由
◇野球と禅に通底する無私・無我の道
◇運を引き寄せる時と運に見放される時の差
◇勝利の女神が微笑む人やチームの条件
◇栗山監督の人生を変えた言葉
◇人格形成の原点にある両親の生き方
◇30歳で一念発起 師匠に徹底して仕え切る
◇「信ひとつ」で結ばれた師弟関係の極致
◇選手を心の底から信じ切って送り出す
◇自分を信じ切るために大切なこと
◇大谷翔平はなぜ世界の大谷翔平になったのか
◇一生求道 死ぬまで修行
本記事では全12ページ(約17,000字)にわたって、栗山英樹さんと横田南嶺さんの対談を掲載しています。野球と禅――異色の組み合わせながら、そこに通底する人間学談義に興味は尽きません。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】。
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栗山英樹監督より『致知』へコメントを頂戴しました
〝私にとって『致知』は人として生きる上で絶対的に必要なものです。私もこれから学び続けますし、一人でも多くの人が学んでくれたらと思います。それが、日本にとっても大切なことだと考えます。〟
◇ 栗山英樹(くりやま・ひでき)
昭和36年東京都生まれ。59年東京学芸大学卒業後、ヤクルトスワローズに入団。平成元年ゴールデン・グラブ賞受賞。翌年現役を引退し野球解説者として活動。24年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、同年チームをリーグ優勝に導き、28年には日本一に導く。同年正力松太郎賞などを受賞。令和3年侍ジャパントップチーム監督に就任。5年3月第5回WBC優勝、3大会ぶり3度目の世界一に導く(同年5月退任)。6年北海道日本ハムファイターズの最高責任者であるチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任。著書に『信じ切る力』(講談社)など多数。
◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『禅の名僧に学ぶ生き方の知恵』『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『十牛図に学ぶ』『臨済録に学ぶ』など多数。最新刊に『無門関に学ぶ』(いずれも致知出版社)。
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