国産畳を守ることで、日本の文化と経済を守りたい——(有) OO.TAKE社長・大竹貴文氏の志

一つひとつの畳に心を込めて向き合う大竹氏

1925年創業、まもなく創業100年を迎える(有) OO.TAKE。祖父から続く職人魂を継承する三代目社長の大竹貴文さんは、厳選した国産の藺草を使用し、徹底して品質に拘った畳表を追求してきました。安価な海外産の畳表にも負けることなく、2020年に「国産藺草農家を守る会」を立ち上げ、同会・顧問の小島尚貴さんらと共に『日本の未来は畳が拓く』を出版するなど、国産の畳表を守ることで、日本の文化と経済を守るという志を燃やす大竹さんに、これまでの歩みをお話しいただきました。

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24歳で家業を継ぐ

<大竹>

私が三代目社長を務める㈲おおたけ(OO.TAKE)は、大正14年に東京・月島で大竹畳店として創業して、来年で100年を迎えます。祖父の事業を継承した父の下、私は中学生の頃から父の仕事を手伝ってきました。

昔は盆暮れの大掃除の際に畳を外して庭に干し、畳表(たたみおもて)の張り替えをするのが習いでした。父と一緒にお客様のもとへ施工に伺うと、食事や風呂の用意をして手厚くもてなしてくださったことを懐かしく思い出します。

「後を継いでくれないか?」

普段は短気で頑固な父が下を向き、ポツリと呟くように言ったのは、私が18歳で、まだ父と喧嘩が絶えず、仕事を離れてはまた戻ることを繰り返していた時でした。

正直なところ、私が後を継ぐという自覚はまだありませんでしたが、父が初めて見せた弱気な表情を目の前にして、嫌だとは言えませんでした。

しかし、半人前だった私も、父が病気で倒れたことで腹を括りました。平成2年、24歳の時でした。

腕はまだ一人前には程遠くても、お客様に待ってくださいとは口が裂けても言えない。私は、毎日早朝から深夜まで働きずくめでした。腰を壊せばコルセットを巻き、手が足りない時は父の知り合いの助けを借りて凌しのぐ。とにかく必死で仕事を回しました。

安価で粗悪な海外の畳表

<大竹>

そうして何とか一人前の畳職人としてやっていけるようになった頃に直面したのが、急速に出回り始めた中国産の安価な畳表でした。

いまから25年前、私は自分が国産だと思って仕入れた畳表が、実は中国産であったことを知って「こんな畳を大切なお客様に売るわけにはいかない」と愕然としました。

その数年前に、取り引きのあった問屋さんを介して初めて見た中国産の畳表は、価格が安いだけでとても使い物にならない粗悪品でした。しかし、その後徐々に改良が進み、本職の私ですら国産との区別がつき難い畳表が出回るようになったのです。

実はこれには裏がありました。岡山、広島、福岡の日本人業者が、日本固有の藺草(いぐさ)の苗と畳表を織る機械を中国・寧波(ニンポー)へ持ち込んで栽培・製造指導を行い、一部の中国産畳表を国産と偽装し、安価に販売していたのです。

価格で太刀打ちできない日本の藺草農家や畳店はどんどん市場を奪われ、さらに輸入業者は「最終加工地を畳表の生産地として表記できる」という奇怪なルールを定めました。その結果、畳はトレーサビリティの追跡が不可能になり、日本最大の藺草の産地・熊本ではかつて1万戸以上あった藺草農家が、現在では300戸を割り込んでいます。

日本固有の品目をわざわざ海外で安くつくらせ、日本国内の産業に損害を与える輸入販売は、畳表以外の商品でも行われています。試しにスーパーへ足を運んでみてください。安価な他国産の商品が売り場を埋め尽くしています。安さだけを条件にそうした商品を無自覚に購入することで、国内産業がどんどん衰退している現実に、私たちは目を向けるべきではないでしょうか。

天然の高品質な藺草でつくった畳表は、リラックス効果のある甘い香りがし、使い込むほどに愛着が深まります。吸湿性にも優れており、湿度の高い梅雨でも快適に過ごすことができ、さらに窒素酸化物やホルムアルデヒド、アンモニアなどの有害物質を吸着、浄化する効果もあります。藺草と畳こそ世界一の床材。私はそう信じて疑いません。

一方、中国産の畳表の一部は、人体に有害な着色料や化学物質で加工されており、使い続けるうちに表面が剥げて異臭を放ちます。また、防かび剤の多用で皮膚が荒れたり、部屋に入った途端にアレルギーを発症したりするなどのトラブルも報告されています。

また、近年は和紙を謳う新型の畳表が流通していますが、これも針葉樹のパルプを化学物質で合成したプラスチック製の疑似畳で、実質的には洋紙です。中国産にしろプラスチック畳にしろ、本物の畳を貶める業者も多く、日本人はいつからこんなにずる賢くなったのかと悲しく思います。

本物の国産畳を追求し続ける

<大竹>

こうした疑似畳は、何も事情を知らない消費者に紹介すればすぐに儲かりますが、本物の国産藺草の畳で生かしていただいてきた畳職人は、決して扱いません。

私は本物を求めて各地を巡り、熊本で有力な藺草農家の方を口説き落として直接取り引きを実現しました。また、私のブログに共感してくださった産地問屋さんから取り引きの申し出をいただき、良質な畳表の調達ルートを確立することができました。

しかし、国産畳が絶滅の危機に瀕している状況は変わりません。そこで私は、志を同じくする仲間と令和2年に「国産藺草農家を守る会」を立ち上げ、我われの監修で『日本の未来は畳が拓く』という書籍を出版した結果、いまでは消費者主体の百人ほどのチームに成長しました。

国産藺草農家の職人魂を我われ畳職人が受け継ぎ、魂を込めて畳をつくり、お客様に笑顔をいただけた時の喜びが明日への力です。

茶道、華道、書道、柔道、忍者、世界が認めるこれらの日本文化は、すべて畳の上から生まれたものです。千年を超える歴史を持つ畳を日本人自らが滅ぼしては、先人に合わせる顔がありません。

畳は日本経済の縮図であり、畳を守ることは、尊い日本文化を守って日本経済を活性化させることに繋つながります。この志を胸に、私はこれからも本物の畳を提供し続けていきます。

★本記事は『致知』2024年3月号「丹田常充実」掲載記事の一部を抜粋・編集したものです。

◇大竹貴文(おおたけ・たかふみ)――() OO.TAKE社長

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