【取材手記】失った右手が僕を日本一へ導いた——〝ホルモンの神様〟が貫いた逆境に勝る生き方(スタミナ苑・豊島雅信)


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陸の孤島で異彩を放つ日本一の焼肉店

東京都足立区・鹿浜。JRも地下鉄もなし、〝陸の孤島〟と揶揄される辺鄙な場所に、世界中から注目を集める焼き肉屋があります。

店の名は「スタミナ苑」。席数50席のいたって平凡な店構えですが、驚くのはその行列です。2時間待ちは当たり前。長い時は4時間を要するほど。何しろ予約は不可で、総理大臣や芸能人であっても並んで入店すると言います。

今回取材をさせていただいたのは、「スタミナ苑」の看板・ホルモンを担当する料理人の豊島雅信さん。人呼んで〝ホルモンの神様〟。

豊島さんは、まだホルモンが市民権を得ていなかった50年前から、ホルモンの可能性を見出し、最高の味を追求してきました。

取材を行ったのは、定休日の夕方。いつもの如く、豊島さんは翌日の営業に向けて仕込み作業を行っていました。そんな中行なわれた取材は、椅子に座って、ではなく、仕込みと同時並行。氏はこちらの質問に応じながらも、淡々と仕込みを進めていきます。

厨房に立てば一時たりとも無駄にしない。そこに豊島さんの仕事への姿勢が垣間見えます。

開店日は昼過ぎから朝の5時まで18時間、ぶっ続けで店に立ちっ放しだ。それでいまではスープの沸騰する音を聞いただけで、出来具合が分かる。調理場にいながら電話で話し、お客さんの声も聞こえる。従業員に指示もできる。プロはそれが当たり前にならなきゃ駄目なんですよ。

普段、仕込みの時間にはラジオや朗読を聴いて、人間性や教養を養う勉強をすると言います。手と視界は塞がっていても、耳は空いている。豊島さんにとってはどの瞬間も無駄が許されない真剣勝負なのです。

「手が悪いのは困る」夢を絶たれ、泣く泣く家業に入る

さて、豊島さんはどのような経緯でスタミナ苑の職人となったのか。

僕は鹿浜の肉屋のせがれとして生まれました。4人兄弟の末っ子です。ところが、2歳の頃、実家にあった精肉機に興味半分に手を突っ込んで右手の指を2本失って手が変形してしまった。その記憶はないけれども、泣き叫ぶ声を聞いた親が飛んできて、ハンマーで機械を叩き割って手を引っこ抜いて病院に連れて行ったらしい。

この怪我を理由に、以降数えきれないほどの差別を受けることになります。

手袋も1人じゃはめられないから、からかわれたり、あけすけに「気持ち悪い」と言われたことは数え切れない。小学校高学年になると、フォークダンスがあるじゃない。あれは嫌だったね。女の子は僕とペアになるのを嫌がって「あの人の手、変だよ」と聞こえるように言うんだから。こういう声は死ぬまで消えないだろうね。

中学卒業後、神戸にある有名なステーキ屋で働くことを夢見て、面接を受けます。しかしそこでも豊島さんは不遇に見舞われることになります。

はっきりとこう言われたね。「うちは肉屋だから包丁を持つ。手が悪いのは困る」って。それまで嫌われたり馬鹿にされたりしたことはあったけど、はっきりと「いらない」と言われたのは初めて。これは堪えたよね。

失意にあった豊島さんは、こうして泣く泣く家業に入ることになったのです。

「なにくそ、負けてたまるか」

家業に入ったはいいものの、右手が不自由なことに変わりはありません。初めは包丁も持てず、ホルモンの入ったビニール袋を開けることもままならなかったと言います。

両手が自由なら簡単にできることも、できない。そんな歯がゆさを感じながらも、豊島さんを突き動かしてきた原動力とは何だったのか……。

最初は途方に暮れたけれども、何度も練習して包丁が使えるようになった。ビニール袋は両手で押さえて、口を使って開ける方法を考えた。
「ハンディキャップがあるからできない」などとは絶対に思わない。
その頃の僕は「なにくそ、負けてたまるか」「前進あるのみ」、その一念でしたからね。人から「できない」と言われると、コンチキショウって燃え上がる。後ろなんか見るな、前だけを向いて歩いて行きゃいいんだと。

「なにくそ、負けてたまるか」。できないことがあれば人一倍の努力をし、同じ土俵に昇り詰める。その気概が豊島さんを奮い立たせてきたのです。

一流のサービス精神

最高のホルモンを追求し、50年。「スタミナ苑」は、1999年、アメリカ生まれのグルメサイト『ザガット・サーベイ』日本版で総合1位を獲得。2018年には、日本最大級のグルメサイト『食べログ』の『食べログアワード2018』で金賞を受賞し、名実ともに日本一の焼肉店へと昇り詰めました。

ハンディキャップを乗り越え、日本一の繁盛店へと押し上げた豊島さん。50年貫いてきたサービス精神について、こう語ります。

僕の考えるサービス精神というのは、お客さんを笑顔にしてまた来てもらうことなの。
そのためには青き目の狼でいなきゃダメ。いつも目を光らせてお客さんがいま何を感じているか、何をしてほしいかを敏感に察知してすぐに動く。手を抜かずにやっていると、そういう感性が磨かれてくるんです。

常に細部まで気を配り、機が訪れればすかさず捕らえて離さない。まさに掴むべくして掴んだ日本一だと言えるでしょう。

最後に豊島さんはこんな言葉を残して、取材を締め括られました。

 倒れんならここ(厨房)で倒れんだ。ここで倒れて、誰も気がつかないで、来たら死んでたって。それが俺の最高の死に様だよ。


本誌には他にも、〝日本一〟を手繰り寄せたある心掛けや、いかにしてブレない自分をつくっていくのかなど、豊島さんの人生哲学が詰め込まれています。詳しくはぜひ本誌をご覧ください。

●『致知』3月号 特集「丹田常充実」●
「なにくそ、負けてたまるか」その精神が僕の魂に火をつけた
豊島雅信(スタミナ苑)

▼インタビューではこんなテーマでお話しいただきました
・一所懸命の一歩先に進めるか
・子供ほど残酷なものはない
・日本一になるまでの道のり
・人事を尽くして天命を待つ

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◇豊島雅信(とよしま・まさのぶ)
昭和33年東京都生まれ。兄が母親と始めた焼き肉店「スタミナ苑」に15歳から加わり、以来、ホルモンひと筋50年を歩み、スタミナ苑を行列の途切れない名店に育て上げる。平成11年にはアメリカ生まれのグルメガイド『ザガット・サーベイ』日本版で総合1位を獲得。平成30年には『食べログアワード 2018』ゴールド受賞。著書に『行列日本一スタミナ苑の繁盛哲学』(ワニブックス)。

▼『致知』2024年3月号 特集「丹田常充実」
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