「いま起きていることは人生になくてはならない」元阪神タイガース・岩田稔を〝不屈の左腕〟にした受け容れる力

歴史に名を残す野球選手は数多くいても、不治の病を抱えてプロ入りし、現役の16年間を一球団に捧げ、観る者に勇気を与えた存在は他にいるでしょうか。元阪神タイガースの岩田稔投手は幾度となく偏見、怪我、黒星に泣かされながら、決して自らマウンドを降りることはありませんでした。同病者の憧れの的である氏の姿。そこには、厳しい現実を受け容れ、己を見つめる不断の努力がありました。

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縦縞は脱いでも使命は消えず

〈岩田〉
大勢の人のサポートを得て闘ってきましたが、2016年に年間ゼロ勝、以降は1年の大半を2軍で過ごすことになりました。

その中で2020年10月、予定になかった1軍の中日戦に先発し、454日ぶりに白星をあげて、ファンの皆さんに「消えそうで消えないマジック(ペン)みたいなのが、岩田稔だと思っています!」と叫んだんです。

——消えそうで消えない?

〈岩田〉
マジックペンって、字が薄くなってきても、時間を空けるとまた書けるようになることがありますよね。消えないのはまだインクが残っているということ。チームのため、1型糖尿病への世間の見方を変えるためにできることはまだある、自分のインクを出し切っていこうと考え始めました。

1年間ずっと1軍で投げられなくても、チームに貢献することはできます。それまでのスタイルに囚われず、チームの大黒柱の怪我や離脱、試合の窮地で登板して抑える「困った時の岩田」になろうと決意して、2019年4月のヤクルト戦では4年ぶりの1試合完投勝利を飾ることができました。

——冒頭、最後はやり切った感覚だったと言われましたが、難病と怪我、不運に遭われながら使命に気づき、そこに至られた歩みに、幸福とは何かを考えさせられます。

〈岩田〉
受け容れることですね。

現状を変えたいんだったらなおさら、受け容れなければ突破できません。辛いこと、大変なことでも、いま起きていることは人生になくてはならないもので、受け容れると気づきがあるはずなんです。そこから次の一歩が踏み出せて、一回りも二回りも成長できるはずです。

だから不平不満を言う暇があったら自分を見直すことです。それが幸福に繋がる道だと思います。

その年の12月、思わぬ出逢いがありました。当時、順天堂大で自転車競技に励んでいた野島理紗子さんです。医療機器メーカーのアークレイ株式会社と共催した動画コンテストで最優秀になった野島さんが、表彰式で私と対面した瞬間、その場に泣き崩れたんです。

野島さんは自転車競技でジュニアオリンピック1位の実力を持っていながら、高校2年の冬に1型糖尿病を発症されていました。もう競技はやめなさいと言われて入院生活に入ってすぐ、私の1冊目の著書『やらな、しゃーない!』と出逢い、内定を取り消されても頑張った話を読んだりして、真っ暗だった道が明るくなったと言うんです。自分の原点を思い起こさせられる出来事でした。


本記事では、阪神タイガース初の役職となる「コミュニティアンバサダー」に就任し、現役引退以降も、解説者としてメディア出演を続けながら活動を拡げる岩田さんに、体験を踏まえた〝幸福に生きる条件“を伺いました。

◉『致知』11月号 特集「幸福の条件」◉
インタビュー〝自分の中にあるインクを出し切る〟
岩田 稔(阪神タイガース コミュニティアンバサダー)

  ↓ インタビュー内容はこちら!

◆言い出せなかった「引退」の二文字
◆10万人に2~3人の難病 完全究明はまだ遠く
◆理不尽への反骨を力に
◆〝無援護病〟の揶揄を受けて
◆縦縞は脱いでも使命は消えず

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◇岩田 稔(いわた・みのる)
昭和58年大阪府生まれ。大阪桐蔭高校2年次の平成12年、17歳で1型糖尿病を発症するも、関西大学を経て18年ドラフト希望枠で阪神タイガース入団。20年投手としてプロ初勝利、翌年第2回WBC日本代表に招集される。持病の啓発活動と共に16年間を同球団で投げ抜き、令和3年現役引退後、1型糖尿病啓発活動を行うためFamily Design Mを設立。近著に『消えそうで消えないペン』(ベースボール・マガジン社)がある。

▼『致知』2023年11月号 特集「幸福の条件」
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