2023年08月01日
第5回WBCで3大会ぶり3度目の世界一を掴んだ侍ジャパン、同チーム主戦捕手としての華々しい活躍が記憶に新しい甲斐拓也捕手。しかし、実際は育成選手からプロ入りし、苦節を経て史上初の記録を打ち立ててきた苦労人の一面を持っています。かつて苦境に立たされていた甲斐選手に、力を与えた一冊について、当時の感動をそのままに語っていただきました。
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自然に沁み込んだ一冊の語録
——2020年、甲斐さんが弊社刊『平澤興語録 生きよう今日も喜んで』を愛読しているという新聞記事が出て、嬉しく思いました。
〈甲斐〉
一軍に上がった頃、元捕手の達川光男ヘッドコーチが赴任しました。達川さんは技術からメンタルまで、何かと支えてもらってきた親父のような存在です。他の選手の前で僕をめちゃくちゃ叱るかと思えば、後できちんと話す時間を取ってくれる。本当に愛情ある指導を受けました。
その達川さんに「甲斐、これはおまえが絶対に読むべき本だ」と渡されたのが、『生きよう今日も喜んで』でした。2018年のシーズン中、遠征で空港にいた時です。連敗で落ち込む僕を気遣ってくれたのでしょう。移動中に一気に読み終えました。
——心に残る一節はありますか。
〈甲斐〉
第3章〝仕事は祈り〟にはシンプルにこう書いてあります。
「人生に望ましいのは失敗や困難がないということではなく、決してそれに敗けない、ということである」「成功は成功、失敗は失敗であるが、失敗のマイナスを持たぬ人には成長はない」
キャッチャーは守備や投球の采配を担うので、チームの連敗は自分の責任だと思うあまり、失敗を恐れている自分がいました。一軍に入りたてだったのでなおさらです。でもある時、達川さんに言われたんです。「心配するな。おまえが失敗しても二軍には落とさない。おまえが落ちる時は私も一緒に落ちる」と。
——深い愛情を感じます。若い頃に苦学を重ね、脳神経解剖学の世界的権威となった平澤先生も「人生はにこにこ顔の命がけ」、神経質ではいけないと語られています。
〈甲斐〉
そういう厳しさの中に大らかさを含んだところに、達川さんと通じるものを感じます。大事なのは失敗や困難を避けることではなく、それに敗けないこと。平澤さんと達川さんの言葉が沁みて、失敗を恐れず思い切ってプレーができるようになりました。
(本記事は月刊『致知』2023年7月号特集「学を為す、故に書を読む」より一部抜粋・編集したものです)
◉本記事には、「躍進の原動力は監督と選手の呼応」「恩師、本、母に心を支えられて」「何のために野球をするのか」等、WBC日本代表として扇の要を守った甲斐選手にWBCの裏側、艱難辛苦の足跡を詳細に語っていただきました。本記事の【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】。
◇甲斐拓也(かい・たくや)
平成4年大分県生まれ。楊志館高校卒業後、育成ドラフト6位で23年福岡ソフトバンクホークス入団。25年支配下登録。29年開幕一軍入り、育成出身捕手として史上初のゴールデングラブ賞、30年育成出身選手初の日本シリーズ最高殊勲選手賞(MVP)受賞。令和5年第5回WBCでも主戦捕手として世界一に貢献。