JFEホールディングス名誉顧問・數土文夫が西山彌太郎から学んだ3つの教え

弊誌「巻頭の言葉」の執筆メンバーである數土文夫さんには、毎回古典の名言を紐解きながら含蓄に富む教えをいただいていますが、JFEホールディングス社長、東京電力会長などの重職を歴任された氏の原点は、川崎製鉄入社式で創業者・西山彌太郎から得た教えだと言います。數土さんが学んだ3つの指針を通して、視座の高さを養う要諦を探ります。

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同じ話を聞いても、何を受け止めるかは本人次第

就職先に川崎製鉄(現・JFEスチール)を選んだのは、給料が一番高かったからという至極明快な理由です。入社した昭和39年当時、「鉄は国家なり」と言われ、製鉄業は国の大黒柱。日本に8社ほどあった製鉄会社の中で、川崎製鉄が一番活気がありました。

川崎製鉄の初代社長を務めた西山彌太郎は、松下幸之助や本田宗一郎と肩を並べるほどの実業家です。川崎重工の一部長の立場でありながら、製鉄所を臨海部につくる重要性にいち早く気がつき、世界銀行に掛け合ってまでして川崎製鉄を創業した気骨ある人物です。

入社した時、西山彌太郎はまだご健在で、私たち新入社員60名に向かって語り掛けてくださった訓辞は忘れもしません。それは次の3つの内容でした。

1、会議などは必ず5分前に着席すること
遅刻はもっての外で、事前に議題を考え、自分の意見をまとめた上で会議に参加するという基本姿勢を教えられました。

2、一所懸命に勉強すること
どんな分野でも大抵3か月一所懸命に学んだら、大学で勉強するのと同じくらいの知識を得られる。入門書を3種類購入し、一週間で各3回読み込むペースで勉強して疑似専門家になれ、というのです。

3、社内外での交流をできるだけ広げること
新入社員の内、3分の2は技術職でしたが、エンジニアでも積極的に視野を広げ、自分より優れた人に学ぶ必要性を説かれました。

この3項目の重要性は年を重ねるごとに痛感していますが、還暦を迎えた頃に面白いことがありました。同期の集まりの場で私が「西山彌太郎から入社式で伺った3つの教えが社会人人生で非常に役立った」と口にすると、「どんな内容だっけ?」と誰一人として覚えていなかったのです。

そして私が3つを説明すると、「もっと早く教えてほしかった」と言うではありませんか。同じ話を聞いても、何を受け止めるかは本人次第であることを教えられた出来事でした。

西山彌太郎は私が入社3年目の頃に天寿を全うされたため、私たちが薫陶を受けた最後の世代となりました。


(本記事は月刊『致知』2022年5月号 連載「20代をどう生きるか」より一部を抜粋・編集したものです)

◇數土文夫(すど・ふみお)
1941年富山県生まれ。1964年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、2001年社長に就任。2003年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。2005年JFEホールディングス社長に就任。2010年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、2014年よりJFEホールディングス特別顧問。

『致知』2024年9月号 「貫くものを」に、數土文夫さんがご登場!!

「日本は2025年に再び甦る兆しを見せるであろう。そして2050年には、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」。国民教育の師父と謳われた森信三師はその晩年、こう予言したといいます。残念ながら、深刻な内憂外患に直面する我が国にまだ明るい兆しは見えてきません。森師の言葉を真実にするために私たちは何を成すべきであろうか。弊誌でもお馴染みの數土文夫氏と田口佳史氏に、2050年に向け日本が貫いていくべきものを忌憚なく語り合っていただきました。

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◉數土文夫さんから『致知』へメッセージをいただきました◉

『致知』が創刊45周年を迎えました。敬意を表します。

今日、世に一番求められている、人間の思考のあり方、即ち「人間学」について考察し、その重要さを、45年間訴えつづけてきたのが月刊誌『致知』であります。『致知』のすばらしい点は読者との一体感にもあります。『致知』の読者は年齢、職業、性別等、多様でありますが、これら幅広い読者層が一体となって編集方針の「人間学」に収斂し、育ててきた点も
評価すべきです。希有の月刊誌であります。

二十一世紀はDXや生成AIが人間の生活を有無を言わさず変える時代です。益々加速するでしょう。一方、「人間学」の重みは更に増してきます。「温故知新」。これを忘れるべきではないのです。

『致知』の存在は際だって重みを増してくるはずです。急速な変革の社会にあって『致知』が変わらず歴史を踏まえつつ、人間のすばらしい行動と実践を紹介することによって、我々を不断に覚醒しつづけてくれるよう願っています。

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