2023年04月14日
政界、経済界、スポーツ界……いま、各界で「リーダー」の資質が強く問われています。京セラやKDDI(旧・第二電電)を創業し、一代で日本を代表する企業へと育て上げた稲盛和夫氏はいまから19年前の2004年、本誌にてリーダーの資質について綴られていました。「ひたむきに仕事に打ち込む」こと――人の上に立つ者が持たなければならない根本はどこにあるか、探ります。
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら。
※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
聡明才弁は3番目の資質に過ぎない
リーダーが持つべき資質について、中国明代の思想家である呂新吾(ろしんご)は、「深沈厚重なるは、これ第一等の資質」と、著書『呻吟語』(しんぎんご)で述べています。つまり、リーダーとして一番重要な資質とは、つねにものごとを深く考える重厚な性格だというのです。
呂新吾は、さらに続けて、「聡明才弁なるは、これ第三等の資質」とも述べています。「頭がよくて才能があり、弁舌が立つこと」は3番目の資質でしかないというのです。
現代社会をみると、政官財を問わず、呂新吾のいう第三等の資質しか持っていない人物がリーダーに選ばれていることが多くあります。確かに、彼らは能力があり、有用な人材であるかもしれません。しかし、果たして彼らがリーダーとしてふさわしい資質を備えているかどうかは疑問です。
私は、現在の社会が荒廃している原因の一つに、このように第三等の資質しか持ち合わせていない人物を、われわれ自身がリーダーに選択していることがあげられるのではないかと思います。
現在の混迷を脱し、より良い社会を築いていくには、呂新吾が述べる第一等の資質を持った人物、つまり素晴らしい「人格」を備えたリーダーを選ぶことが大切です。
人格は良い方向にも悪い方向にも変化
しかし、そのとき注意しなければならないことがあります。それは、「人格」とは不変ではなく、時とともに変化してしまうということです。例えば、努力家で謙虚であったはずの人が、いったん権力の座に就くと、一転傲岸不遜(ごうがんふそん)になることがあります。
一方、身を誤った人間であっても、心を入れかえ、研鑽と努力を重ねて、素晴らしい人格者に一変した例もあります。
「人格」というものは、このように良い方向にも悪い方向にも絶えず変化していくものです。そうであれば、リーダーを選ぶにあたり、その人物が適任であるかどうかは、判断した時点における「人格」だけで決めつけてはならないはずです。
では、われわれは何を基準にリーダーを選んでいけばよいのでしょうか。
それには、まず「人格はいかに形成されていくのか」、また「どのようにすれば、人格を向上させることができるのか」ということを考える必要があります。
人格を高め、自己を磨くためには、本来なら宗教者が行っているような厳しい修行を自らに課すことが求められるのでしょうが、それではわれわれ一般人が人格向上を果たすことは難しくなります。
仕事に打ち込むことで高まる人格
私は、日々の仕事に打ち込むことによって、人格を向上させていくことができると考えています。つまり、一所懸命働くことは、単に生活の糧(かて)をもたらすのみならず、人格をも高めてくれるのです。
その典型的な例は、二宮尊徳です。彼は生涯を通じ、田畑で懸命に働き、刻苦勉励を重ねていくなかで真理を体得し、人格を高めていきました。そのような尊徳であったからこそ、リーダーとしてたくさんの人々の信頼と尊敬を集め、多くの貧しい村々を救うことができたのです。
真のリーダーとは、このように人生において、ひたむきに仕事に打ち込み、そのなかで人格を高め続けているような人物ではないでしょうか。そのような人間であれば、リーダーとして権力を委ねられた後も、堕落することも傲慢になることもなく、集団のために自らを犠牲にして懸命に働き続けてくれるはずです。
大小を問わず、あらゆる集団のリーダーが、今まで述べてきたように、人格を高めることに懸命に努める人であることを願ってやみません。それぞれの集団のリーダーの方々が、そのようにして一隅を照らし続けることで、日本の社会は、今までよりずっと素晴らしいものになると私は信じています。
(この記事は、月刊『致知』2004年1月号「巻頭の言葉」を再編集したものです)
◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書に『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』(いずれも致知出版社)など。