「思いわずらうな」混迷の世をどう生きる? シスター鈴木秀子が贈る『聖書』の教え

聖心会シスターとして、半世紀にわたり、悩める人々の声に耳を傾けてきた鈴木秀子先生。世の中がますます混沌としている中、弊誌『致知』で連載中の「人生を照らす言葉」にて文学を通して語られる、人間関係や生き方についての温かな視線、豊かな教えにハッとさせられます。そんな鈴木先生の原点ともいえるキリスト教との出逢い、現代にこそ伝えたい『聖書』の言葉を教えていただきました。お相手は、同じく『致知』の連載「禅語に学ぶ」でお馴染みの臨済宗円覚寺派管長・横田南嶺老師です。

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献身的なシスターたちの姿に触れて

〈横田〉
鈴木先生のキリスト教との出合いはどのようなものでしたか。

〈鈴木〉
私は戦争中に育ちまして、中学1年生の時に戦争が終わったんですね。すると、それまで天皇陛下のご真影に最敬礼しろ、日本が東洋を率いていかなくてはいけないと言っていた校長先生や教頭先生が戦争が終わった途端、「いまだに天皇陛下のご真影に向かってお辞儀をしている馬鹿者がいる」と。

同じ先生がそういう言葉を発したことに驚き、価値観が全く逆転してしまったことに大きなショックを受けました。

終戦の年の夏休みが終わって最初にやったのが教科書を墨で塗る作業でした。大事にしていたものを全部否定され、心が空洞みたいになって、いままで大事にしていた価値あるものに替わるものは何かと考えても見つからなかったんです。永遠に変わらない価値あるものがあるのではないかとの思いから大学へと進みました。

私たちの時代はまだ共学という制度はなくて、女子大は全国に四つしかありませんでした。それぞれに個性豊かで、聖心女子大学のそれは国際性が豊かなことでした。これまでの価値観を否定されて生きていく中で、国際性のある大学とはどういうところだろうという関心から聖心女子大学を選んだんです。

〈横田〉
子供の頃から人知れず、様々な葛藤を抱えて歩んでこられたのですね。

〈鈴木〉
当時、カトリック教会では敗戦後の日本を援助するために、世界の一流大学で教鞭を執っていた海外の教育者に声を掛けて、日本に送り込んでいました。聖心女子大学にもそういう先生が集まっていて、自分の国を捨ててやってきた修道女(シスター)もたくさん学生たちの教育に携わっていました。

当時、カトリックのシスターたちには一生涯を通じて個人的な会話を絶対にしてはいけない、沈黙を守らなくてはいけないという厳格な規則がありました。だから、私たち学生が知っているのはシスターの名前だけ。どの国に生まれてどういう環境で育ったのかなど誰も何も分かりません。それでも彼女たちは、これから日本を背負っていく若い女性たちを育てるために死に物狂いで働いていました。

一方で、大学には教える側とは別に掃除や家事などを受け持っているシスターもいました。彼女たちは学校の廊下を掃いたり、寄宿舎で学生が使う皿を洗ったりしながら何かぶつぶつ言っているんです。まだカトリックのことは何も分からなかった私が友達にそのことを聞いてみると「いまここを通った学生と家族、それに連なる人たちが幸せでありますようにと、いつも祈っているのよ」と。

国や大切な家族を捨て、厳しい規律を守りながら、しかも人のために働くことだけが喜びという、およそ普通の人たちにはできないことができる、そのエネルギーの源は何だろうかと思いました。

〈横田〉
それがキリストだったのですね。

〈鈴木〉
ええ。自分たちはイエス・キリストによって愛されたのだから、いただいた愛を人にも分け与えたいという一念で働いていることを知って、イエス様への関心が高まっていきました。

シスターたちにとっては、講義などを終えて宿舎に帰った後も修行でした。沈黙を守りながら夜中に起きて血だらけになって跪きながらお祈りをするような毎日を送っていましたが、それでいてとても明るいんです。いま思うと、シスターたちの姿そのものがキリストを表していたように思います。彼女たちの真剣さに心打たれたことが、私がシスターになった理由の一つですね。

「私は新しい掟をあなたたちに与える」

〈鈴木〉
特にいまのこの混迷を極める時代には、お釈迦様やイエス様という偉大な聖人の残した言葉から私たちが汲み取っていかなくてはいけないものも多くありますね。

 (中略)

私は最初に『新約聖書』のルカ伝にある次の言葉を選んでみました。少し長いのですが、読み上げてみます。

あなたがたに言っておく。何を食べようかと、命のことで思いわずらい、何を着ようかとからだのことで思いわずらうな。命は食物にまさり、からだは着物にまさっている。からすのことを考えて見よ。まくことも、刈ることもせず、また、納屋もなく倉もない。それだのに、神は彼らを養なっていて下さる。あなたがたは鳥よりも、はるかにすぐれているではないか。

あなたがたのうち、だれが思いわずらったからとて、自分の寿命をわずかでも延ばすことができようか。そんな小さな事さえできないのに、どうしてほかのことを思いわずらうのか。野の花のことを考えて見るがよい。紡ぎもせず、織りもしない。しかし、あなたがたに言うが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。

きょうは野にあって、あすは炉に投げ入れられる草でさえ、神はこのように装おって下さるのなら、あなたがたに、それ以上よくしてくださらないはずがあろうか。

〈横田〉
イエス様の言葉は、まるで詩人の言葉のように心に響きますね。

〈鈴木〉
これは人間一人ひとりが神様から創られた大切な存在で、弱さももちろん持っているけれども、その弱さを徹底的に知り抜いている神様は、それでもよしとして私たちを大切にしてくださっているという教えなんですね。

その聖句とも関係するのですが、次に挙げるのは、イエス様がこの世を去る直前に弟子たちと食事をした時、いわゆる最後の晩餐の場で発した言葉です。イエス様は食事をとても大切にし、心を通わせながら大切なことを伝えているのですが、遺言ともいうべき言葉がそこには述べられています。

私は新しい掟をあなたたちに与える。互いに愛し合いなさい。私があなたたちを愛したように、あなたたちも互いに愛し合いなさい。

神様やイエス様の愛がどれだけ深いものなのか。それを示す放蕩息子の譬え話が『新約聖書』にはあります。

父親が二人の息子にそれぞれ財産を等しく分け与えた。兄は忠実に財産を守ったけれども、弟は放蕩の限りを尽くして財産を使い果たし、食べる物にも事欠くようになって父親を訪ねてきた。父親は盛大な宴会を開いて、家出をした弟を迎え入れ、そんな父親に兄は「私はここまで誠実に財産を守ってきたのに、弟にどうしてこれだけのことをしてあげるのですか」と反発するという話です。

イエス様はこの譬えをもとに、たとえ放蕩息子であったとしても息子が帰ってきたことが親にとってどれだけ大きな喜びであるかを伝えます。神様やイエス様の愛とは、その父親のような無条件の愛なんですね。そういう大きな愛に生かされていることをしっかり自覚できれば、人生をより心豊かに生きられるのではないでしょうか。

〈横田〉
そうでしょうね。


(本記事は月刊『致知』2021年10月号 特集「天に星 地に花 人に愛」より一部抜粋・編集したものです)

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◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本にエニアグラムを紹介。著書に『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』『幸せになるキーワード』(共に致知出版社)『死にゆく人にあなたができること』(あさ出版)など。近刊に『機嫌よくいれば、だいたいのことはうまくいく。』(かんき出版)。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。2912月花園大学総長に就任。著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』(五木寛之氏との共著)など多数。近刊に『十牛図に学ぶ』(いずれも致知出版社)。

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