宇宙飛行士・野口聡一さんが教える「燃え尽き症候群」との向き合い方

iPS細胞と宇宙開発――。それぞれの分野で道を切り拓き、世界が注目する業績を上げてきた山中伸弥さんと野口聡一さん。山中さんは12年務めた京都大学iPS細胞研究所所長を退任し、野口さんは3度の宇宙飛行を経てJAXAを退職し、新たな挑戦と創造のスタートラインに立たれました。

そんなお二人の対談から、野口さんが直面し、乗り越えてきたという「燃え尽き症候群」について語っていただいた部分をご紹介します。

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自分だけの価値基準を持つ

〈野口〉 

……レジリエンスということに関して別の視点から言うと、私は宇宙から還ってくるたびに、いわゆる燃え尽き症候群と向き合ってきました。

宇宙飛行士はオリンピックのメダリストなんかと一緒で、本人自身も最高の結果を出そうと本番に向かって努力しますし、周りの注目度も非常に高く、成功した時には国内のみならず、世界中から称賛を浴びる。ところが、ほとぼりが冷めれば「普通の人」になり、次に何をするかというビジョンや目標の再設定に苦しむ人が多い。それを「燃え尽き」と表現しているわけですね。

燃え尽きること自体は全然悪いことだと思っていなくて、むしろ贅沢な悩みです。自分の意志と努力と周りのサポートがあって高みに到達することができたわけで、そこに人生のすべてを懸けて燃焼し尽くせたことは、本当に幸運だと思います。

〈山中〉 

その燃え尽き症候群にどう向き合ってこられたんですか?

〈野口〉 

私の場合、一回目と二回目の宇宙飛行はほとんど間がありませんでした。一回目が終わって、ひと息つこうかと思った時にもう次のミッションが走り始めてしまったので、比較的早く切り替えられて没頭できたんですね。

ただ、二回目の宇宙飛行から帰還した際には、宇宙ステーションの滞在日数とか二種類の宇宙船に乗ったとか、その時点であらゆる日本人の宇宙飛行士記録を塗り替えていました。

報道番組のキャスターを務めたり執筆活動に取り組んだり、いろいろな仕事に従事しましたが、次なる人生の目標を見出せず、長く暗いトンネルの中を彷徨うような日々でした。

そのトンネルを抜け出せたポイントは、自分がやりたいことや自分の価値を他人に決めさせないということですね。少し難しい言い方をすると、社会的な称賛を以て自己満足としない。例えば、何かの記録で一位になるといったことを目標にしてしまうと、それを達成した途端に向かう場所がなくなってしまう。しかし、自分としてはまだまだ高みを目指したいというものが心の内にあれば、そこでお終しまいにはならないんですね。

〈山中〉 

他人との比較や競争ありきの目標ではなく、自分がどうありたいかという目的や使命感を持つことが大事だと。

〈野口〉 

はい。人から言われた目標を達成することは自己実現ではありません。自分が心の底から実現したいことや自分が達成すべき目標、それを組織や社会から与えられるのを待つのではなく、自分から追いかけていくと、人生はもっと可能性が開けていく。だから、絶えず新たな目標を自分で決めることができる、というのが最終的な境地ではないでしょうか。

私にとって、その一つが冒頭に少し申し上げた当事者研究です。燃え尽き症候群は経験した人でないとなかなか理解できない苦しみであり、裏を返せば、似たような境遇を乗り越えてきた人がたくさんいるわけですから、当事者研究を行うことがまさに燃え尽き症候群に対する一つの解だと思います。

個々の苦しみは千差万別ですが、そこから得られる知見は人類共通の財産になる。次のステップに向けて歩み出す動機づけをしてあげることにやりがいを感じています。


(本記事は月刊『致知』2022年10月号「生き方の法則」から一部抜粋・編集したものです)

◎2022年10月号掲載の野口さん、山中さんの対談には、

・「自分がどこまでやれるか試す機会に」

・「死への恐怖を受け入れ、覚悟を決めた時」

・「宇宙に持参した三冊の本」

・「何のために生きるのか、何のために働くのか」

など、それぞれの原点から新しい挑戦、そして過酷な状況や全く未知の状況下で道を開いていく要諦を語り合っていただきました。世界トップの実績を残してこられたお二人の対談には、あなたの直面する課題を突破するヒントがぎっしり詰まっています。詳細・購読はこちら「致知電子版」でも全文お読みいただけます】

 

◇山中伸弥(やまなか・しんや)

昭和37年大阪府生まれ。62年神戸大学医学部卒業後、整形外科医を経て研究の道へ。平成5年大阪市立大学大学院医学研究科修了。アメリカのグラッドストーン研究所に留学後、大阪市立大学医学部助手、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授及び教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。18年にマウスの皮膚細胞から、19年にヒトの皮膚細胞からそれぞれ世界で初めてiPS細胞の作製を発表。22年京都大学iPS細胞研究所所長。24年ノーベル生理学・医学賞受賞。令和2年(公財)京都大学iPS細胞研究財団理事長。44月京都大学iPS細胞研究所名誉所長に就任。著書に『挑戦常識のブレーキをはずせ』(藤井聡太氏との共著/講談社)など。

◇野口聡一(のぐち・そういち)

昭和40年神奈川県生まれ。平成3年東京大学大学院工学系研究科航空学専攻修士課程修了後、石川島播磨重工業(現・IHI)入社。8年宇宙飛行士候補者に選抜され、NASDA(現・JAXA)入社。17年スペースシャトル「ディスカバリー号」で国際宇宙ステーションに滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。21年ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。令和2年日本人で初めてアメリカ民間企業スペースX社の宇宙船に搭乗。約5か月半の滞在中、4度目の船外活動や日本実験棟「きぼう」で様々なミッションを実施。3年東京大学先端科学技術研究センター特任教授。45月合同会社未来圏設立、代表就任。同年6JAXA退職。著書に『野口聡一の全仕事術』(世界文化社)など。

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