稲盛和夫の「成功方程式」と「3つのP」——大田嘉仁×名和高司

写真左が名和氏、右が大田氏

「働き方改革」が盛んに叫ばれています。しかし、いまや日本の世界競争力は31位、調査会社のデータによると、熱意を持って意欲的に働く日本人は僅か5%にすぎないといいます。

どうすれば皆が生き生きと働き、日本経済を復活させることができるのか――京セラとJALで稲盛和夫氏の側近として長年仕えた大田嘉仁さんと一橋大学ビジネススクール客員教授の名和高司さんに、トップリーダーの仕事観・人生観を紐解きながら、私たちが目指すべき働き方についてご対談いただきました。

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】
去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。

労働は尊いもの

〈大田〉
稲盛さんの労働観の根底には「労働は尊いもの」という哲学があります。仕事を通じて自分を高め、社会に貢献することこそが真の「働きがい」をもたらす、と。

なぜこうした考えになったのか、それは青少年期の経験が大きかったと思います。まず13歳という多感な時期に結核を患い死に直面し、旧制中学を二度も不合格になっています。

その後も希望した大学には進学できず、何とか就職できた会社は給料が毎月遅配する赤字会社でした。会社を辞めたいけれど兄から反対されて転職もできない。

二進(にっち)も三進(さっち)もいかぬ状況下で、与えられた仕事を好きになる以外に道はないと悟られます。

ところが、仕方なく仕事に前向きに打ち込むようになると、素晴らしい結果が出るようになり、仕事が面白くなった。するとさらによい成果が表れる。そこで、考え方や熱意次第で人生は変わることを実感されました。

こうした経験を経て、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という有名な成功方程式が誕生したんです。

〈名和〉
この方程式はいつ頃できあがったのでしょうか?

〈大田〉
ご本人は子供の頃からそう考えていたとおっしゃっています。

確固たるものとして明文化されたのは、赤字会社での辛酸を嘗めて1959年、27歳で京都セラミック(現・京セラ)を創業した頃だと思います。

〈名和〉
私もこの「成功方程式」が大好きで、稲盛さんには怒られるかもしれませんが、勝手に3つの言葉に置き換えています。

考え方をパーパス(志)、熱意をパッション、能力をポテンシャルとして、「三つのP」と呼んでいます。

稲盛さんの考え方に基づくと、パーパスはマイナス100からプラス100まであって、そのパーパスを推進する力がパッション。最後のポテンシャルは真剣に打ち込むうちに後からついてくるといいます。

ですから、能力がないのは言い訳にならない。この考え方に大変勇気づけられてきました。

〈大田〉
稲盛さんは「成功方程式」の中で、考え方と熱意が特に大事だと繰り返されています。私が稲盛さんを心から尊敬するのは、

「人間の心は弱いものだから、常に磨き高め続けなければいけない」

と、ご自身が誰よりも実践されている点です。

〈名和〉
稲盛哲学は仏教の影響なども受けているので、背筋が伸びるような言葉が多いんですけど、よくよく拝見しているとその教えはシンプルですよね。そして、明るさの重要性を協調されている言葉が多い気がします。

例えば、夢を描く際、その夢がカラーになって見えるまで、徹底的に思い描くことが大事だと。「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という言葉も有名ですね。

〈大田〉
そうですね。稲盛さんの秘書を務めることになった際に、稲盛さんから渡されたメモには、人生には明るさが大事だと繰り返し書かれていて、それをいまも持ち歩いています。


(本記事は月刊『致知』2022年7月号 特集「これでいいのか」より記事の一部を抜粋・編集したものです)

◉本対談では、稲盛哲学を知り尽くしたお二人に、「緩慢なる衰退を続ける日本経済」「JALの再建が成功した理由」「稲盛和夫氏に学ぶ経営トップの姿勢」「働き方改革よりも働きがい改革へ」など、人生・仕事の極意、社員がやりがいをもっていきいき働く会社づくりのヒントが満載です。ぜひご覧ください。
 ▼詳細は下のバナーから(「致知電子版」はこちらからお読みいただけます)

◇大田嘉仁(おおた・よしひと)
昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空会長補佐専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任。現職は、MTG取締役会長、学校法人立命館評議員、鴻池運輸取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書に『JALの奇跡』(致知出版社)がある。

◇名和高司(なわ・たかし)
昭和32年熊本県生まれ。55年東京大学法学部卒業、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事の機械部門(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。マッキンゼーのディレクターとして、約20年間コンサルティングに従事。平成22年一橋大学ビジネススクール(国際企業戦略科)教授。令和2年同客員教授。4年京都先端科学大学国際学術研究院教授。著書に『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)、『パーパス経営』(東洋経済新報社)など多数。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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