2022年01月08日
新型コロナの蔓延はいまだ収まらず、特にアメリカの弱体化、その隙を突いて世界の覇権を握ろうとする中国の動きなど、世界は大きな転機を迎えています。日本はこの動乱の世をいかに生き抜いていけばよいのでしょうか。上智大学名誉教授の渡部昇一さん(故人)と元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫さんに、中国への向き合い方、中国共産党崩壊のシナリオについて語っていただきました。※本対談は2017年に行われたものです
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中国は張子の虎
〈馬渕〉
話は中国問題に飛びますが、この問題を論じる前提として私は中国は国家ではない、というより国家だったことが一度もなかったという認識を持っているんです。中国という国は、いわば巨大な市場ですよ。市場は個人主義で、そこには倫理観や道徳観といったものはありません。
100年前の中国についての本に既に中国人は自己本位だ、お金のことしか関心がないと書かれています。それはいまも同じで、金儲けのチャンスさえあれば、世界中どこへでも出向いていく。逆に言えば、自分たちの国を支配するのは独裁的な皇帝でも共産主義者でも誰でもいい。家族を含めた自分たちの生活に干渉さえされなければいい、という意識で何千年もやってきたんです。
政治家もそういう民を相手にしているわけですから、国家のことなど考えてはいませんよ。それは中国共産党の腐敗ぶりを見ていたらよく分かりますね。共産党の一部のエリート支配階級が本来国民であるべき労働者を搾取して、莫大な蓄財を成しているわけです。
〈渡部〉
『紫禁城の黄昏』を著したレジナルド・ジョンストンは当時、一流のシナ学者でしたが、「シナにはキングダム・オブ・チャイナやエンパイア・オブ・チャイナが存在した例がない。いろいろな民族の王朝があっただけだ」と言っています。馬渕さんがおっしゃるように「皇帝がどんな人間であっても、自分は自分でやっていくよ」といった国民性があることは私も十分頷けます。
〈馬渕〉
いま中国が覇権国家だと盛んに論じられていますが、中国にそういう国家的な発想はそもそもありません。あるとしたら習近平氏の個人的な野望です。経済的な中国脅威論を唱える人も多くいます。しかし、私は中国は張り子の虎だと思っているんです。何か事が起きたら指導者たちは中国を捨ててさっさと逃げますよ。世界中の不動産を買い漁っているのもそのためなんです。
ソ連もそうですが、共産党政権は70年で機能しなくなってしまいました。中国共産党も、あと数年のうちにおそらく崩壊するでしょう。しかし、それは共産党支配が終わるだけで、中国という市場がなくなるわけではありません。今度どういう支配者が出てくるかは分かりませんが、群雄割拠がしばらく続くと想像されます。
以上のような理由から、私は中国脅威論には全く与しません。むしろ日本がいないと中国は経済的にやっていけないと考えています。しかも、ここにきてトランプ氏も中国の市場から引き揚げると言っているわけだから。
〈渡部〉
中国の共産党政権がここまで生き長らえたのは、まだ経済成長があったからです。しかし、それもいまや頭打ちになって、統計によってはマイナス成長という結果も出ています。習近平氏は役人を敵に回して汚職摘発で喝采を浴びているようですが、所詮は権力争いにすぎません。そのうち習近平氏自身が失脚するようなことになったら、彼は何億かの汚れた金を持って逃亡するでしょうな。
〈馬渕〉
中国は崩壊したソ連の二の舞を踏むまいと必死なんですね。しかし、反腐敗闘争や改革というのは自己矛盾です。ソ連がゴルバチョフ氏のペレストロイカによって崩壊したように、赤字を垂れ流す国営企業を改革しようと思えば、共産党支配をやめなくてはいけない。一方で共産党支配にしがみつこうと思ったら、改革はできない。選択肢は二つに一つですが、引くに引けないジレンマを抱えながら反腐敗闘争を続けていくうちに共産党支配が終わる、というのが私が描くシナリオです。
(本記事は月刊『致知』2017年3月号 特集「艱難汝を玉にす」より一部を抜粋・編集したものです)
◉『致知』2022年2月号連載「意見・判断」のコーナーに、馬渕睦夫氏がご登場。アメリカ大統領選挙の真実、世界を支配しようとする極左革新勢力の動きなど、国際情勢の本質を読み解きます。
◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。平成13年から上智大学名誉教授。著書は専門書の他に『伊藤仁斎「童子問」に学ぶ』『日本の活力を取り戻す発想』『歴史の遺訓に学ぶ』など多数。最新刊に『渡部昇一一日一言』(いずれも致知出版社)
◇馬渕睦夫(まぶち・むつお)
昭和21年京都府生まれ。京都大学在学中に外務公務員採用上級試験合格。43年外務省入省。EC代表部参事官、東京都外務長、駐キューバ大使、駐ウクライナ兼モルドバ大使などを歴任。退官後、防衛大学校教授を経て、吉備国際大学教授を務める。著書に『和の国・日本の民主主義』(KKベストセラーズ)『2017年世界最終戦争の正体』(宝島社)など。