「にんげんだもの」 相田みつをが生きていたら、いまどんな作品を書くか(西澤真美子×相田一人)

左が相田氏、右が西澤氏

2021年で没後30年を迎える書家・相田みつを。その作品、言葉にはいまなお人々の心を癒し、励ます力に満ち溢れています。このコロナ禍だからこそ味わいたい3、相田みつをの作品を、そのご子息であり、相田みつを美術館館長を務める相田一人さんに語っていただきました。※お相手は、今年没後15年を迎える詩人・坂村真民のご息女で、坂村真民記念館館長補佐(学芸員)の西澤真美子さんです

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コロナ禍の支えにしたい作品

〈相田〉
コロナ禍になって取材を受ける機会が増えまして、「もし相田みつをがいま生きていたらどんな作品を書くのでしょうか」と質問されることが多いんです。その時私は正直に、本人が亡くなっているから分からないけれども、もし自分が書いた作品の中で読んでもらいたいものがあるとすれば、一つはやはり「道」でしょうかと話しています。

五十数年前に書いた作品ではありますが、コロナ禍のいま読んでも通じるものがあります。 

「長い人生にはなあ/どんなに避けようとしても/どうしても通らなければならぬ/道というものがあるんだな/そんなときはその道を/黙って歩くことだな/愚痴や弱音を吐かないでな/黙って歩くんだよ/ただ黙って/涙なんか見せちゃダメだぜ/そしてなあ/そのときなんだよ/人間としての/いのちの根が/ふかくなるのは」
Ⓒ相田みつを美術館

〈西澤〉
本当にそう思います。

〈相田〉
それから、私自身がコロナ禍のいま伝えたいと思う父の作品の一つは「七転八倒」です。

「つまづいたり/ころんだり/するほうが/自然なんだな/にんげんだもの」

これはよく「七転び八起き」と勘違いされます。七回転んでも八回目に起き上がりなさいだとお説教になってしまいますが、七回転んで八回倒れるというのは転びっぱなし、倒れっぱなしなんですね。

つまり、人生はうまくいくことよりも、うまくいかないことのほうが遥かに多い。そこに性根を据えるまでには随分時間がかかったと思いますが、これは父の生き方の根底にあった考え方だと捉えています。

父のユニークなところは、人生うまくいかないことのほうが多いからといって、諦めたり投げやりになったりはしないことです。

〈西澤〉
そこが素晴らしいところですよね。

〈相田〉
うまくいかないことのほうが圧倒的に多い人生をどう生きていけばよいかを追求する中で、生まれた作品の一つが「受身」です。

「柔道の基本は受身/受身とはころぶ練習/まける練習/人の前にぶざまに/恥をさらす稽古/受身が身につけば達人/まけることの尊さが/わかるから」

先般、JOC(日本オリンピック委員会)会長の柔道家 山下泰裕さんとお会いした時、自宅にこの作品のポストカードを飾っていますとおっしゃっていて驚きました。オリンピックで金メダルを獲得するほどの選手でも、受身、負ける練習を基本にしているのですね。

人生においても、転んだり負けたり恥を曝したりそういうことを繰り返すことで、自然と受身は体得できる。そうすれば何度でも立ち直れる。父は「若いうちはうんと負けろ」と私によく言っていました。一生勝ち続けることはあり得ないから、若いうちは勝ち方を覚えるよりも、負けるほうに焦点を合わせて生きたほうがいいというのが父の考え方でした。

〈西澤〉
負け方を知っておくことのほうが大事だと。

〈相田〉
いまご紹介した「七転八倒」と「受身」という作品が背後にあって、初めてその本当の意味が分かると思うのがこの作品です。

「つまづいたって/いいじゃないか/にんげんだもの」

本当に短い言葉ですが、こういう大変な状況の時こそ触れてほしいと思います。


(本記事は月刊『致知』2021年9月号 特集「言葉は力」より一部抜粋・編集したものです)

◉それぞれ今年で没後15年、30年を迎える詩人・坂村真民と書家・相田みつを。お二人の作品はなぜいまも多くの人の心を捉えて離さないのか。本誌9月号 特集「言葉は力」では、異才の人を父親に持つ西澤真美子さんと相田一人さんに、その言葉の魅力を、背景にあるものも含めて語り合っていただいています!

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