「人に会った数だけビジネスが生まれる」 帝国ホテル・定保英弥社長の原点

2020年に開業130周年を迎えた帝国ホテル。100年以上にわたって脈々と受け継がれてきたサービス、「おもてなし」の精神は、同ホテルを訪れる人々の期待を上回り、感動させ続けてきました。その歴史と伝統を受け継ぎながら、様々な革新に挑戦している定保英弥社長の、人生の核をつくった原点をご紹介します。(内容は月刊『致知』2015年10月号 初登場時のものです)

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努力と誠実さは自分を裏切らない

〈定保〉
私と帝国ホテルとの出逢いは、いまから40年以上も前に遡ります。

幼い頃、私は航空会社に勤める父の都合でドイツのハンブルグや香港で海外生活を送っていたのですが、家族で一時帰国した際に宿泊したのが帝国ホテルだったのです。落ち着いた照明と重厚な内装、ロビーに漂うどこか凜とした雰囲気は幼い私の脳裏にしっかりと刻まれ、成長するにつれて、将来は帝国ホテルで働きたいと自然に考えるようになっていったのでした。

大学卒業後の1984年、念願叶って帝国ホテルに入社した私は、客室清掃や調理場での仕込みなど、1年半の現場研修を経て、宴会部に配属。翌年、営業部に配属となりました。とりわけその時期で印象に残っているのが、1988年から90年にかけて毎年出張した「セールスキャラバン」です。4人の営業担当が1か月かけて、アメリカの企業や旅行会社を訪問して回るのです。

最初のニューヨークでは4人一緒なのですが、最終目的地のロサンゼルスまでは別行動。当時は便利な通信機器がない時代です。鞄にパンフレットを目いっぱい詰め込んで、一人でアメリカ各地の企業や旅行代理店を「日本の帝国ホテルから来ました」と、地道に訪問して回ります。

もちろん度胸や英語のスキルも身につきましたが、それ以上にアメリカのいろいろな方々と接する中で、こちらが一所懸命、誠心誠意思いを伝えれば、必ず心が通い合えるということを学んだのは、私の人生の大きな財産となったと言えるでしょう。

その後、ロサンゼルス営業所長が日本に帰任するということで、かねてより海外勤務を希望していた私に交代要員として声が掛かりました。

とはいえ、ちょうどバブルが弾け日本経済が下り坂に差し掛かっていく頃で、嬉々としてロスに行ったものの、お客様からの問い合わせは減っていくばかり。しかし、決して諦めることなく、かつてと同じく鞄にパンフレットを目いっぱい詰め込んで、一人で広大なアメリカをひたすら回り続けました。

「人に会った数だけビジネスが生まれる」

と発破を掛け、車で一日に数百キロ走ることもよくありましたが、その努力が実ったのか、4年の駐在でアメリカからのお客様が2割増えたことは大きな自信となりました。

また、帝国ホテルを説明する前に日本について説明しなければならない場面も多く、まず、「日本を売り込む」という想いでした。「メイド・イン・ジャパン」のホテルの一員としての誇りが高まった時期でもあったと思います。

日本に帰国した私は宿泊部に配属された後、2000年に課長として営業部に復帰。当初、海外のお客様を獲得する施策を考える国際課にいましたが、折しもアメリカ同時多発テロが発生、海外からのお客様がぱったりと来なくなってしまうという危機に直面したのです。

ホテル事業は国際情勢に敏感に反応するビジネスなのだと痛感しましたが、逆に海外から来るお客様のマイナス分を国内のお客様の開拓によってカバーすればいいと発想を転換。旅行代理店などを通じ、国内へのプロモーション活動に注力していく中で、私はスタッフ同士が活発な意見を出し合い、しっかりと情報共有もしていける団結力の強いチームをつくろうと、とりわけ上司や部下といった垣根を取り払うことに腐心しました。

その甲斐あって国内のお客様は順調に増え、難局を何とか乗り越えることができました。やはり、何事にも前を向いて誠実に粘り強く取り組んでいけば、必ず解決策は見えてくるというのが私の嘘偽りのない実感です。


(本記事は月刊『致知』2015年10月号 連載「私の座右銘」より一部抜粋・編集したものです)

◉『致知』2021年8月号 特集「積み重ね 積み重ねても また積み重ね」に、定保英弥社長が表紙&トップインタビューにご登場。帝国ホテル創設者・渋沢栄一翁から脈々と受け継がれるおもてなしのDNA、人生・仕事のヒントがぎっしり詰まったインタビューです!

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◇定保英弥(さだやす・ひでや)
昭和36年東京都生まれ。59年学習院大学経済学部卒業後、帝国ホテル入社。平成3年アメリカ勤務、16年営業部長、21年取締役常務執行役員兼帝国ホテル東京総支配人、24年専務取締役専務執行役員兼帝国ホテル東京総支配人を経て、25年より現職。

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