なぜ一ノ蔵は「従業員ファースト」「合議制」を守り続けるのか? 鈴木整社長に聞く

「一ノ蔵無鑑査」シリーズやスパークリングなど、酒造りへの並々ならぬ情熱と気概で日本酒業界に新風を吹き込んできた宮城県の一ノ蔵。その6代目社長を務める鈴木整さんに、先代の教えや自らの人生を交えながら、企業を発展・永続させていく要諦をお話しいただきました。

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先代から伝わる、企業永続の要諦

――経営に関して先代たちから学んだことは何かございますか。

〈鈴木〉
私が社長になったのは2014年なのですが、ありがたかったのは先代たちが

「一ノ蔵は 人と自然と伝統を大切にし 醸造発酵の技術を活用して安全で豊かな生活を提案することにより 社員顧客地域社会のより高い信頼を得ることを使命とする」

というしっかりした経営理念を立ててくれていたことですね。そこに立ち返れば不安なく決断ができるんです。

あと、先代たちはもともとの酒蔵としての「家業」の部分と、一ノ蔵という「企業」の部分を絶妙に使い分けていました。午前中に「企業としてこういうふうにしなさい」と指導を受けたかと思えば、午後には「うちは家業なんだからこれを大事にしなさい」と言うわけです。

そして先代たちが家業として一番大事にしていたことは何かというと、"従業員ファースト〟という考え方なんです。

――従業員ファースト。先代たちはなぜその考え方を家業として一番大事にしていたのでしょうか。

〈鈴木〉
というのは、ひと昔前、宮城県の酒蔵には冬の間に岩手県などから酒造りの職人さんが出稼ぎにやってきていたんですね。酒蔵としては毎年優れた職人さんたちに来てもらわなければいけませんから、待遇に関しては非常に気を使っていた。それは給料だけではなく、健康面も含めてです。

例えば、私の祖母は職人さんたちが風邪をひかないよう、毎日3度のまかない料理には絶対手を抜いてはいけないと言っていました。また、従業員は「君」とか「ちゃん」でなく、「さん」で呼びなさいということも家業としてよく教えられました。

要するに、「働いていただいている」「働かせていただいている」という経営者側と職人さんの相互の信頼関係が家業として一番大事だということです。ですから、経営理念でも、顧客や地域社会より、まず社員さんのことが最初にきているんですね。

――いまでいう健康経営、働き方改革のようなことを昔から家業として当たり前にやっていた。

〈鈴木〉
実際、当社は2016年に新入社員の待遇などが整っている企業として「ユースエール認定企業」(厚生労働省)を全国で16番目、県内では初認定を受け、女性の働き方、男性も含めた産休や育休制度が整っていることを証明する「くるみんマーク」も取得しています。周りに「素晴らしいですね」と褒められますが、家業としては当たり前のことなんです。

もう一つ、多くの企業が悩んでいることに事業継承の問題がありますが、これも当社は既に創業時に解決しているんですよ。

4つの酒蔵が合同する際、会長・社長・専務・常務はそれぞれの家が持ち回り制で務め、4人は全員「代表取締役」で共同代表であるとルールを決めたんです。ですから、派閥もできないし、権力争いも全くない。もしこれが実力のある人間が社長をやるというルールであれば、「自分が一番優秀だ」「いや自分だ」みたいに争いのもとになってしまうはずです。

現在は代替わりをして、私を含めた創業者の次の世代が経営を担っていますけど、先代たちは「4人で一人前」「よく話し合いなさい」といつも言っていました。

――先代たちは、会社が永続していくように様々なことを考えて会社づくりをしていたのですね。

〈鈴木〉
それで、亡くなった父が座右の銘にしていたのは、聖徳太子の『十七条憲法』の第一条「和を以て貴しとなす」でした。父は和郎という名前なのですが、社長になって父が伝えたかった「和」の意味がようやく分かってきたんです。

3人兄弟の真ん中に生まれたこともあり、私はうまくバランスをとって生きていくのが「和」だと考えていました。しかし父が大事にした「和」とは、共同代表の4人でよく話し合い、会社を経営していきなさいという意味だったのだといまは理解しています。


(本記事は月刊『致知』2021年7月号 特集「一灯破闇(いっとうはあん)」より一部抜粋・編集したものです)

◉『致知』2021年7月号のインタビューに鈴木整社長がご登場。酒造りへの並々ならぬ情熱と、経営の要諦を語っていただいています。


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致知出版社編集部ブログ

◇鈴木整(すずき・ひとし)
昭和44年宮城県生まれ。山梨大学中退。東京のイベント会社に勤務後、平成16年に一ノ蔵に入社。製造、財務、営業各部門での勤務を経て、26年より現職。

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