2021年は「ギリギリ」の一線。日本が対中関係を制し、生き残る方策|櫻井よしこ×中西輝政

トランプからバイデンへ――。覇権国家・中国に厳しい睨みを利かせた前政権から、大きく転換したアメリカ。世界が激変する中で、日本はどこに活路を見出せばよいのでしょうか。対極的な視点から日・米・中の関係を分析する櫻井よしこ氏、中西輝政氏のお二人に、この正念場を生き残る方策を語り合っていただきました。

菅政権は中国にどう向き合うべきか

〈櫻井〉
アメリカは武漢ウイルスで大変なダメージを受けました。しかし、南北戦争以来、いくら力を削ぎ落とされても、その度に力強く甦ってきたのがアメリカの歴史です。そういう潜在力を持った国でもあります。

そういう強いアメリカですから、何があっても一本の太い軸になり得る国家であり続けるでしょう。

アメリカを引きつけておくためには日本の役割が非常に大きいと思います。例えば、安倍前首相はTPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を纏め、アメリカが抜けた後、加盟国を纏める役割を果たしました。トランプ政権はTPPから脱退しました。

バイデン政権では相当難しいとは思いますが、復帰の可能性はゼロではありません。日本とEUの間でEPA(経済連携協定)を結んだことも大変印象的でした。

このような形で日本政府がリーダーシップをとって世界秩序の構成に関わっていくのは歴史上初めてのことではなかったでしょうか。日本は菅義偉政権になりましたが、日本はこれからも自国に託された使命を自覚し、新しい秩序形成に自信を持って歩んでもらいたいと願っています。

〈中西〉
私も菅政権には大きな役割が期待されていると思います。菅首相は7年8か月の安倍長期政権を支え、バブル崩壊後、政治の不安定により低迷した日本を再び立ち上がらせる上で大きな貢献をしてきた人ですから、そういう意味でも高く評価したいと思います。

その菅政権は安倍政権の継承を掲げているわけですが、それに加えてこれから求められるのは、いかに独自性を打ち出せるかということでしょうね。

〔中略〕

「戦後レジームからの脱却」を掲げ理念やイデオロギー的なアピールを盛んに行った安倍政権に対して、菅政権は実務型と呼ばれて対比されるわけですが、確かに携帯電話使用料の値下げやデジタル庁をつくったりすることは大事だとしても、これからはコロナ禍で落ち込んだ日本の国力の再建という大テーマに向けて取り組んでいただきたいというのが私の願いです。

具体的に申し上げれば、短期的には第一にコロナ対策、第二は経済対策、そして三つ目に安全保障対応です。

2020年、東シナ海、台湾海峡、朝鮮半島などは歴史的とも言えるほど不安定な状況に陥っており、米大統領選挙後の混乱という虚を突いた、いろいろな事件が起きることが危惧されています。

したがって当面求められるのは、安保政策というよりも安保対応です。尖閣諸島の実効支配をこのまま日本が握り続けることができるのか、いまはその大きな分かれ道に来ています。

香港の次に狙われるのは

〈櫻井〉
お話のように実際、尖閣はとても危険な状態になっています。大統領選挙の混乱の中でエスパー国防長官がトランプ大統領に解任され、新しい国防長官はいまだに決まっていません。

この非常時にアメリカの軍事的な即応体制が期待できるのか。そのことを考えると、やはり不安を感じざるを得ませんね。

先ほど述べたように、中国はたとえ他国の領海であろうと、自国の国益、利益を害する団体、個人を取り締まることができるよう海警法を改正しました。船や空からの攻撃を許すとも書かれています。これは事実上、戦争の宣言です。

中国は「尖閣は中国の領海内」と一貫して言っているわけですから、海上保安庁や与那国島の漁船が近づいただけで攻撃されることは十分考えられます。

しかも、紛争や法律的な問題が生じた時、申し開きができる準備までしている。例えば、中国は5,000トン、10,000トンという大型船を尖閣近くに次々に航行させています。見かけは警備船ですが、実際は軍の指揮系統にあり、船長以下乗組員は多くが軍人です。

海警法の改正によって、尖閣に海保の船が入った場合、海保の船を攻撃することは中国の法律上、正しいことになりました。

その場合、おそらく日本人の死者が出る。後ろにいる海上自衛隊の船が出ていくと、「日本が民間人相手に軍隊を派遣してきた。日本が原因をつくった。だから対抗する」と言って、中国が絶対に有利な体制をつくると考えられます。この他にも中国は尖閣に向けて一万隻の漁船を準備していると言われます。

ここに菅政権がどう対応できるかが火急の問題です。アメリカが助けに来てくれるかどうかは分かりませんから、まずは日本の力で守るしかない。

日本の法律でできることといったら自衛隊や警察官が島に上陸して中国軍を片っ端から逮捕する他ないわけですが、もし漁船が千隻やってきて千人が上陸したらどうするのですか? 独自に対応する力がどこにあるのですか? もう絶体絶命のところにきているんですね。それを思うと心許ない限りです。

〈中西〉
台湾の存立も尖閣の問題と表裏一体です。中国は軍事的に台湾を抑えようと思ったら、尖閣を先に取ろうとするでしょう。台湾危機が訪れれば、自ずと日本は巻き込まれるわけですから、台湾がアメリカとの関係を深めているいまの流れをバイデン政権がいかに引き継げるかがとても重要です。

幸い、バイデン氏は次期大統領として菅首相との電話会談で、アメリカは安保条約第五条に則り、日本を助け尖閣防衛の義務を果たすことを明確にしました。ですから、これからは台湾がバイデン政権の中国政策に非常に重要な勘所を握っているといえます。

台湾の防衛は日本のサポートなしには何もできませんから、日・米・台の繋がりをより強化すべきだと思います。おそらく菅政権はその動きを始めていると思います。

〈櫻井〉
中国は少し前まで台湾の西海岸を固めようとしていました。ところが、このところ東海岸に飛行機を飛ばす事例が多く見られるようになりました。なぜかというと、西海岸だと山脈に邪魔されてアメリカ軍の基地までミサイルが届かないからだと専門家は分析しています。

では、東側の地図を見た時にそこに何があるかというと、尖閣諸島であり南西諸島です。

中国が香港の後に手を出すとしたら間違いなく台湾です。おそらく台湾を攻めるためにまずは尖閣を取る動きに出るでしょう。いずれかの島に軍事行動を仕掛けてくる可能性は否定できません。

〈中西〉
日米はこれから2021年を通じ、ギリギリの一線で、同盟の生命力が試されてくると思います。

そのためには、まず日本が自力で国を守ることが究極の選択であることを確認し、本気でそれができるよう「国民の自覚」を促さなくてはなりません。結局はそこに行き着くでしょうね。

対中姿勢にやや不透明の残るバイデン政権が誕生したことも、日本にとっては大きなチャレンジになるかもしれません。


【全10ページ】月刊『致知』2021年7月号では、櫻井さんと中西さんに「日本を照らす光はあるか」と題して、最新の国際情勢を踏まえて日本が進むべき道筋について論を交わしていただきました◉


(本記事は月刊『致知』2021年1月号 特集「運命をひらく」から一部抜粋・編集したものです


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致知出版社編集部ブログ

◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『言語道断』(新潮社)がある。

◇中西輝政(なかにし・てるまさ)
昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(共に致知出版社)『大英帝国衰亡史』(PHP文庫)『アメリカ外交の魂』(文春学藝ライブラリー)『帝国としての中国』(東洋経済新報社)、近編著に『アジアをめぐる大国興亡史』(PHP研究所)他多数。

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