諦める一歩先に必ず宝がある——ル・クロオーナーシェフ 黒岩功さん

毎週水曜日19時からお届けしている週刊『致知』Facebook Live。このたびは11話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』が発売1か月で10万部(現在は20万部)を突破したことを記念して、本書にご登場の方々をゲストにお招きしてお届けしています。第5回にご登場いただいたのは、ル・クロオーナーシェフの黒岩功さんです。ご自身が直面した困難や逆境を交えながら、『365人の仕事の教科書』の魅力を語っていただきました。
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自分の心に問いかけてくる一冊

――本日はル・クロオーナーシェフの黒岩功さんをゲストにお招きしております。黒岩さんは、国内に4店舗、パリに1店舗、計5店舗のレストランを展開され、近年は福祉事業の運営にも大変力を入れておられます。

 ではさっそく最初のご質問です。黒岩さんにもご登場いただきましたこの『365人の仕事の教科書』の魅力を教えてください。

 〈黒岩〉
やっぱり、一つひとつの記事が自分の心、「内観」に問いかけてくる。そこが一番の魅力だと思いますね。例えば、経営者としての本質だったり、人間としての本質だったり……人として自分自身がこれからどう歩んでいけばよいのか、経営者としてどうあればよいのかなど、心の部分、内観に問いかけてくる。『365人の仕事の教科書』はそういう本になっていると思います。

 ――自分の過去、現在を振り返り、未来のなりたい姿を考えるきっかけになるという感じでしょうか。

 〈黒岩〉
そうですね。人間力であったり、リーダーシップであったり、その部分は自分自身が経営者として変革しないといけないと思うんですね。ですから、歴史の偉人の方、いま成功されている方々の体験談を読むと、自分の内観に「じゃあ、お前はどうなんだ?」「誰のために、何のために自分は経営者になったんだ?」と、問いかけられているような気がするんです。しかも登場者の365人、一人ずつから毎日問いかけられているような感じです。

 ――ああ、登場人物が自分に向かって問いかけてくる。

 〈黒岩〉
結局、読書って読み手のエネルギーが一番重要だと思うんですよ。例えば、本屋さんに行った時に選ぶ本というのは、いま一番自分が求めているコーナーに立ち止まって手に取るじゃないですか。その求めている本を手にして、開けた瞬間に自分が求めている答えなり、啓示をもらいたいから選ぶわけですよ。

 それで、本というのは、読む人間によって行間というか、書かれていない本質が伝わってくるような気がするんです。ですから、『365人の仕事の教科書』も、自分の内観に訴えてくるメッセージは、おそらく実際のページ数を超えるくらい多いと思っているんですね。

最も心を熱くした一話

――ありがとうございます。では次の質問ですが、黒岩さんご自身が最も心を熱くした一話をご紹介していただけますか。

 〈黒岩〉
それは「1月1日」に掲載されている京セラ創業者の稲盛和夫さんのお話ですね。実は僕は鹿児島出身で稲盛さんと同郷なんです。それで、稲盛さんのお話の中に「知恵の蔵をひらく」という言葉があって、「ああ、そうだなぁ」と思いました。

 ――「知恵の蔵をひらく」、ご自身の体験とも重ねて共感する部分が多いのではないですか。

 〈黒岩〉
それは感じます。僕も取材を受けた時には、愛読するナポレオン・ヒルの「諦める一歩先に必ず宝がある」という言葉をよく言いますし、実際「もう無理だ」っていう先に必ず宝があると思ってきました。考えて考えて考え抜いた時に、知恵の蔵がひらいて、「あっそうか、そういう手があったか!」と、叡知なり、アイデアなりが湧いてくる。だから、単純に誰もがそういう蔵を扱えるわけではなくて……本当に毎日努力して絶対に達成するんだ、必ずあそこまでいくんだと、努力した先に知恵の蔵があると思っています。

 自分自身、諦めようかなと思う瞬間の連続でした。でもその度に、諦めずに努力を続けていたら、いろんな人に支えていただき、いろんなアイデアが出てきたりして、知恵の蔵がひらいたっていう感じを経験しています。そうした自分の体験としても稲盛さんの文章が一番自分にぐっときます。

 ――諦めない、その先に道がひらけていくと。

 〈黒岩〉
何もしなかったら絶対、知恵の蔵はひらくはずがないと思うんですよ。困難に直面すると、「もう無理やで!」って自分の内観が言ってくるんですよね(笑)。無理だよ諦めろよって(笑)。でも、そこに対して「いやいや、絶対諦めないぞ!」と。「絶対、まだ先にいくんだ!」という気持ちは、やっぱり大事にしていかなければいけない。 

そして諦めないためには、「誰のために?」「何のために?」っていう部分がすごく大事になってくるような気がします。稲盛さんがセラミックを研究、開発している時、もう失敗の連続だったんですよ。でも稲盛さんは、「絶対つくれる、絶対つくれる」と信じて諦めなかった。その中で、稲盛さんが「もうできません」と諦めかけたエンジニアに言ったのが「お前は神様に祈るほどの努力をしたか」という言葉。「神様、あとはよろしくお願いいたします」と、そこまで行き着くくらいやり切った後に、知恵の蔵がひらいてアイデアがバーンと出てきたり、未来が変わっていったり、目の前にあるハードルがクリアされたり、障害が乗り越えられる。本当にそう思います。

福祉事業を軌道に乗せることができた理由

――黒岩さんの記事は『365人の仕事の教科書』の「226日」に掲載されています。先ほどの「諦める一歩先に必ず宝がある」というナポレオン・ヒルの言葉を、実際に体感された出来事はたくさんおありだと思いますが、きょうはその中から一つご紹介いただけますか。

 〈黒岩〉
一つ……どうしようかな。ずーっと僕は困難の連続という感じですよ()。何か達成したとしても、また次の挑戦がスタートするもんですから、いつでも何かループに入るんですね。

 その中で、もう無理かな、諦めようかなと思ったのは、実は福祉事業をやり始めた時です。これはすごくしんどかったですね。

 ――詳しくお話しいただけますか。

 〈黒岩〉
福祉をやるきっかけはいろいろあったのですが、一番には自分がこれまで身につけてきたスキルを生かせば、障碍を持った方々がお菓子をつくれるようになる。そしてそれがたくさん売れて、彼らのお給料になって自立した生活ができるようになれば素晴らしいなという思いがありました。ちなみに、いま障碍を持っている人たちは年間でどれぐらい増えていると思いますか? 30万人増えているんです。

 ――ああ、30万人も。

 〈黒岩〉
いま日本は人口が減って、海外の労働力を活用していますけど、一方、障碍者の方は30万人増えている。しかし、その方たちの一か月のお給料は平均すると1万円ちょっと超えたぐらいですよ。その現実に対して、僕自身ができることは何かと考えると、やっぱり自分のスキル、ノウハウを障碍者の方たちに提供し、彼らの給料が少しでも上がるようにすることだと。

 ただ、いざ「やろう!」と事業を始めたものの、なかなかうまくいかなかったんです。障碍者の方たちのため、絶対に成果を上げていこうと頑張ったのですが、なかなか成果が上がらなくって……。自分でも続けるかどうか自問自答しましてね。その時はもうやめたほうがいいのかなと、挫折しかけました。

 ――その困難をどう乗り越えられたのですか。

〈黒岩〉
もうやめようかなと思った時に立ち返ったのが、「福祉事業を誰のために、何のためにやるのか?」という問いでした。そして改めて行き着いたのは、障碍を持っているメンバーのためにもやらないといけないし、もう一つは、障碍を持っているメンバーのお父さん・お母さんたちのためにも絶対やらないといけないという思いです。

 そして「何のために?」というのは、彼ら彼女らが障碍を持っていても、仕事を通じて社会から認めてもらえるようにすることだと。そこの部分を自分の中で何度も問いかけた結果、不思議と事業もぐっと軌道に乗っていきました。

 ――改めて目的を明確にしたことで事業も好転していった。

 〈黒岩〉
もちろん、考え方を変えただけでうまくいったかといったらそうではないんですが、やっぱり、「もう無理だな」って思った時にも諦めない。そうすると、人に力を貸していただけたりしてクリアしていきますね。自力じゃないんですよ。誰かが助けていただいたりとか、協力してもらったり、そういうことでここまでずっときていますね。

いかにしてパリ出店を成功させたか

〈黒岩〉
それはフランスのパリにお店を出した時も同じでした。フランスは家賃も高くて、いろんな法律があって、もうめちゃくちゃ大変だったんです。加えて、商業ビザが下りなかったんです。実は商業ビザを申請する時にはお店ができていないといけないんですね。だから、多額のお金をお店に投じているのに、商業ビザが下りるまで営業するのを待っていなければいけない。しかも、商業ビザが下りる割合は半々です。50パーセントは下りない。

 ――それは厳しいですね。

 〈黒岩〉
要は、50パーセントの「落ちる」に入った場合は、これまでの投資を全部捨てるようなものです。

 なので、フランスにお店をつくろうと、トライした時、自分の心、内観が言いますよね。「本当に大丈夫か?」「本当にいけるか?」「失敗したらどうする?」って。でも、その時に問うたのは「じゃあ、誰のためにパリにお店を出すんだ?」ということでした。

まず「その理由はなぜだ?」と問いかけるわけですよね。一つは自分自身のことです。実は、僕は若い頃にフランスの三ツ星レストランで2年間、無給で働いたんですけど、お金が尽きて日本に帰国せざるを得なかった。本当はもっともっとパリで修業したかったのに帰らなきゃいけない。その時に僕自身は、「絶対に、いずれパリにお店を持ちに帰ってくる」って自分自身に誓ったんですね。

 ただ、もう一つ、「誰のために」と自分自身に問うと、それはやっぱり共に働くスタッフのためなんですよ。本場フランスで、本物を経験してもらいたいですし、本物を経験することによって、彼らがフランス料理人として周りから認めてもらえるきっかけにもなるはずだと。スタッフのためにも絶対にパリに店を出さないといけないと思ったんです。そうすると後ろの扉、諦めるという逃げ道がパタッと閉まって、もうやるしかないなと覚悟を固めて前に進むことができて、周りの人からも助けていただき、お店を出すことができたんです。

 ――誰かのためにという思いを持って本当に真剣・必死に努力を続けていくと、周りの支援であったり、天からの助けのようなものが降りてくる。

 〈黒岩〉
正直、僕の力は一切ないんですよ ()。助けてもらってばっかりで、早く恩返ししないといけないなといつも思っています。

 それに、いまはコロナ禍で、飲食業はすごく大変な状況にあります。僕としては飲食業に関してはすごく打撃を受けているわけですけど、福祉事業と両輪でやっている分、見通しはつくんです。もちろん、努力もしないといけないですし、いろんなことを考えて前に進まないといけないんですけど、それさえちゃんと諦めずに続けていれば、必ず乗り越えていけるという見通しが自分にはあるんです。このコロナに打ち克つ自信はあります。

『致知』は迷った時の羅針盤

――黒岩さんを月刊『致知』で取材させていただいたのは、2016年7月号特集「腹中書あり」でした。その後、黒岩さんは『致知』を定期購読してくださり、いまも続けてお読みくださっている。本当にありがとうございます。最後に『致知』をご愛読くださっている理由をお聞かせいただければと思います。

 〈黒岩〉
冒頭にお話ししたことに集約されるんですけど、『致知』には現在活躍されている方々、歴史の偉人の方々、いろんな方が登場されるじゃないですか。僕はいろんな考え方に触れるというのはすごく大事だなと思っていて、『致知』ではいま生きている方だけではなくて、歴史の偉人の方の考え方も時空を超えて伝わってくる。すると、やっぱり時代は変わっても、人として大事なものは変わらないことが分かるんです。

 そして人生の理念、会社の理念、ビジョン……そういう自分の目的なり、将来なりたい姿を自分で考えた時、「本当にこの目的って正しいのかな」って悩むこともあるわけですよ。『致知』はその迷った時の羅針盤的な存在になっています。ですから、毎月楽しみにしていますし、そういう月刊誌に僕は載ってしまった()。僕は本当にまだまだなんです。『致知』に掲載されるのに相応しい人物になれるよう、これからも努力を続けていきたいと思います。


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※本記事は『11話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』発売記念!週刊『致知』Facebook Liveの内容を編集したものです。

~『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』は、月刊『致知』から生まれました~
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◇黒岩功(くろいわ・いさお)  
昭和42年鹿児島県生まれ。61年辻調理師専門学校卒業。平成元年全国司厨士協会の調理師派遣メンバーとしてスイスに渡る。その後、フランスの二ツ星レストラン「ジラール・ベッソン」、三ツ星レストラン「タイユヴァン」「ラ・コート・サンジャック」で修業を積む。帰国後、いくつかの有名料理店でシェフを務め、12年「ル・クロ」をオープン。著書に『三ツ星で学んだ仕事に役立つおもてなし』(アチーブメント出版)『また、あの人と働きたい』(Nanaブックス)。

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