「トロなす」「ピーチかぶ」を生んだ〝愛の野菜伝道師〟小堀夏佳の原動力

全国の農家から絶大な信頼を寄せられる野菜バイヤー・小堀夏佳さん。〝愛の野菜伝道師〟として、「トロなす」や「ピーチかぶ」など数多くのヒット商品を生みだしてきた小堀さんですが、その原動力は農家の方からもらった言葉にあるといいます。

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私は愛の野菜伝道師

〈小堀〉 
初めて農家さんをお訪ねした時、収穫した野菜の大きさや形がみんなバラバラだったことに正直驚いたんです。ずっとスーパーで形の揃った野菜しか見ていなかったものですから。出荷のお手伝いを一緒にさせてもらっている最中に、小さいジャガイモとか曲がった人参とかは規格外だからって、みんな弾いて捨ててしまっていると聞いてまたびっくりです。

作業の後でその規格外の野菜を食べさせてもらうと、どれもおいしいんですよ。味や質は一緒なのに、見た目が悪いだけで捨ててしまうのはあまりにもったいないですよね。(中略)それで「ふぞろい野菜」って名前で売り出したのですが、途中からふぞろいな野菜のほうが普通なんじゃないかなって思うようになりました。

もともと私は銀行に勤めていましたが、親の反対を押し切るようにしてベンチャー企業に転職。当時はほとんど名前も知られていない会社に飛び込んでいったわけですから、人と比べてどこか自分がふぞろいだなって感があったんですね。

――不安を抱えていらした。

〈小堀〉 
ある時農家さんが「野菜は喋らないけど、よーく見ると語ってるんだよ」って言うんですよ。野菜一つひとつがリン酸が足りないとか窒素が足りないとかちゃんと自己表現しているから、全部の野菜をしっかりと見てあげるっていうのが有機の世界なんですね。だから、小さくても大きくてもキャベツはキャベツなんだよって言われた時に、なんだか急に涙が出てきちゃって。

そんな農家さんたちに、「小堀さんはいま好きでこういう仕事をしているんだから、それでいいじゃないか」って、ふぞろいな私のことを認めてくださったことがすごく嬉しくて。だから今度は私が農家さんの手で丹精込めてつくられたふぞろいな野菜を、世にデビューさせてあげたいって思うようになったんです。

「愛の野菜伝道師」って名刺に記しているのは、愛情いっぱいに育てられた野菜たちの代弁者でありたいという思いが根底にあるんです。

――「ピーチかぶ」「トロなす」や「甘っ娘セロリ」など、おもしろい名前がつけられていますね。

〈小堀〉 
最初はひと括りに「ふぞろい野菜」って名づけましたけど、自分のことを「ふぞろい」って呼ばれるのはいやじゃないですか。それで、もっとかわいくて前向きな名前をつけてあげようと思ったんです。

よくどうやって名前を考えるんですかって聞かれるんですけど、正直あまり深くは考えてないですね。ぽろっとその野菜に相応しい名前が降臨してくるんです。

「ピーチかぶ」は、農家さんが自家用で植えていた野菜でした。たまたま別の野菜を見に行った時に、畑の片隅に一列だけあったかぶが目に入って。おいしいからって勧められて早速いただいてみたら、とってもおいしかったんですよ。

――それが桃と結びついた。

〈小堀〉 
実はその前年、まだ熟れていないガリガリの桃だったのですが、桃の農家さんに契約で決められた期日どおりに出荷してもらったため、お客様からクレームをいただいていたんです。それでガリガリな桃のことが強烈に印象に残っていて、その桃より遙かに柔らかくてジューシーなかぶだったので、頭に浮かんだのが「ピーチかぶ」だったんです。

もともとは皮が薄く、洗うと黒ずんでしまうために「黒いかぶ」って呼ばれていたようで、全然売れなかったそうです。いまでは累計30万束以上売れていて、押しも押されもせぬ看板商品に育ちました。

農家を師と仰ぐ

――農家の方々から学ばれることはありますか。

〈小堀〉 
いっぱいありますよ。例えば、山梨県にある桃の農家さんがいらして、昔から大丈夫かなってこちらが心配するくらいに農薬を減らしてるんですよ。

契約を交わして1年目の年は炭素病っていう桃が真っ黒になる病気に罹って出荷できませんでした。2年目は順調に育っていたのですが、収穫の直前に台風にやられて全部落ちちゃったんです。

その時、私は思わず「本当に自然って怖いですね」って言ったら、驚いたことに「なに言ってるの小堀さん、自然はね、優しいのよ」って言われたんです。

――優しい?

〈小堀〉 
なぜ自分たちは農薬を抑えているのかといえば、10年後20年後においしい青果をつくれる環境を残すためだとおっしゃるんですね。自分たちだけのことを考えて農薬をばんばんかけたら、その土はいずれ固くなって虫も住み着かないようになってしまうと。

病気が出たり、台風の来る時期が早まったりしているのは、環境が崩れてきているからで、その原因をつくっているのは、私たちなんだよって。だから自然はそもそも優しいものなのって言われた時には、自分の考え方とはまったく逆だなって反省しました。

(中略)

有機の農家さんと出会って、道徳的なことを含めて生きる上で大切なことを多く学びました。そのおかげで物理、化学や哲学などの分野にも興味の幅が広がりました。また、これはと思う言葉は、「農家さん語録」として手帳にたくさん書き留めてあるんです。折に触れてその言葉から力をいただいて、いつの間にか私の人生観が大きく変化していきました。

ですから私はその恩返しの意味も込めて、これからも愛情いっぱいに育てられたおいしい野菜たちを家庭にお届けしたいですね。そして食卓に素敵な笑顔の花を咲かせたいと願っています。


(本記事は月刊『致知』2011年8月号連載「第一線で活躍する女性」の記事から一部抜粋・編集したものです)

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◇小堀夏佳(こぼり・なつか)
昭和49年東京都生まれ。中央大学経済学部卒業後、住友銀行入社。平成13年オイシックス入社。その後バルーンへ入社し、メニュー・商品開発から啓蒙活動まで幅広く活動を続ける。

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