【限定連載 第2回】 心に灯をともす服部剛の「詩の贈り物」~『さといも家族』~

カトリックへの深い信仰、ダウン症をもって生まれた息子・周君への愛に満ちた眼差しから、人々の心に寄り添う珠玉の詩を綴り、いま写真詩集『天の指揮者』で話題を集める詩人・服部剛さん。本連載では、詩作や詩集の出版のみならず、朗読会や講演活動など多方面で活躍を続ける服部さんに、心にあたたかい灯をともす詩と共に、コロナ禍を生きる人々へのメッセージを寄稿していただきます。連載第2回は、詩『さといも家族』から、悲しみや苦しみに耐え、いつかは光が差してくることを信じ、忍耐強く生きることの大切さを学びます。
◎第1回はこちら

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詩『さといも家族』

親父は定年退職し

母ちゃん専業主婦となり

息子のぼくは半人前

 

母ちゃん家計簿とにらめっこ

ばあちゃんが払う食費も一万ふえて

なんとかやりくりの日々であります

 

雨もりがあふれる床

寝つきの悪い深夜には

そそくさとねずみが走る天井裏

「介護度5」の我が家は年老いて

大工さんにあちらこちらをとんかちで叩いてもらい

 

首を長くして待ちに待った給料は

おかずの少ない皿を洗い終えた流しのように

穴に泡を残して消えてゆきます

 

今晩のおかずはひときわ素朴でありまして

白いご飯のまわりには

「お買い得!」の赤字シールがラップに貼られた  

うす桃色の塩じゃけに

ねぎの輪切りが浮いた味噌汁に

中でももっとも素朴なものは

 

灰色の 小皿の上に 乗せられた

三つのさといもの煮っ転がし

 

食卓の上の

天井から吊るされ

色褪せた傘の内に光るらんぷに照らされた

さといも達はてかっており

じっとみつめると

だ円の丸みに小さい目鼻が浮かんできます

 

小皿の上から 巨(おお)きいぼくを見上げて

「ぼくらをたべて!」とにっこり言うので

箸でつまんで口に入れれば…

 

ほっくり、ねっちり

口の中でつぶれたさといもの味はひろがり

自然と ほほが ほころびます

 

家族四人で食卓囲み

今日の出来事を語らいつつも

四人の口の中で身を崩すさといもが喜んで

ぼくの口の中を少々くすぐるようです

 

四人の顔はそれぞれの大きさで

灰色のだ円の丸みになってきます

 

進路のことで親父とケンカしてとっくみあい

おかずをひっくり返した夜もあったが

今夜はらんぷの下で食卓囲み

味をかみしめたさといもが胃袋に入れば

 

お金持でなくとも

ほっくり笑顔を絶やさずに

ねっちりしぶとく生きていけそうな

四人は丸みをおびた顔をてからせた

さといも家族

しぶとく生きる、その先に

〈服部〉
時の流れは早いもので、私が自分の家庭をもつ前の食卓を思い出すと、懐かしい夢の光景のような気がします。そして、<あの風景は二度とないのだ>と思うと、あたりまえのように感じる現在の日々も、いつかは思い出になることに気づかされます。

今回の詩から、私の実家の風景で思い出すことは、家族それぞれに欠点がありながらも唯一、家族四人に共通していた長所は、人生の逆境にある時でも希望を棄てず、やがて訪れる春を信じて歩み続けてきたことです。

祖母は夫を病で喪い、女手ひとつで子供たちを育て上げました。父は働き盛りに勤めていた会社が倒産、旧友を訪ね歩いて新しい仕事を見つけ、家族を守り抜きました。母は祖母とうまく馴染めず長い間苦しみましたが、老いてゆく祖母の支えとなり続け、晩年の祖母に深く感謝されました。

私自身を思い返すと、自分の性質に合わない仕事をしていた頃は、唇を嚙みしめ、うつむいていた姿ばかりが目に浮かびます。ですが、心の奥では<自分は決して、このままでは終わらない。時が来れば、使命に生きるようになる>と信じ、何とか歩み続けました。そして、退職を心に決めた時、真の理解者である恩師と出会い、自分にとって本当の道を歩めるようになりました。

「捨てる神あれば拾う神あり」と言いますが、このような厳しい時代の中でも、どこかに「拾う神」がいることを信じて、人のつながりをたどり活路を見出してゆくことは、逆境を乗り越えてゆく鍵になるかもしれません。

新型コロナウイルスが蔓延(はびこ)り、一年――。未解決の難題は多くありますが、今回の詩の中の「さといも」のようにしぶとく生きるその先に、やがて訪れる希望を信じて、道が続いていきますように。 


※連載第3回は4月中旬の配信を予定しています。

◇服部剛(はっとり・ごう)
昭和49年東京都生まれ、神奈川県育ち。平成10年より本格的に詩作・朗読活動を始める。日本ペンクラブ会員、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員、四季派学会会員。詩集に『風の配達する手紙』(詩学社)『Familia』(詩遊会出版)『あたらしい太陽』(詩友舎)『我が家に天使がやってきた』(文治堂書店)、近刊に『天の指揮者』がある。ブログ「服部剛のポエトリーシアター」、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブチャンネル「服部剛の朗読ライブ」などで詩や思いを綴る他、朗読や講演活動も行っている。

★服部剛さんが自ら人生を振り返りつつ、詩人としての原点、ダウン症の息子・周君への思いを語っていただいた『致知』の記事はこちら


 


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