不調時こそ改革のチャンス。変革し続けるリーダーが持っているもの——牛尾治朗×金丸恭文

若くして日本初のITコンサルティング会社を立ち上げた金丸恭文氏と、その金丸氏が「人生の師」と仰いできたウシオ電機相談役・牛尾治朗氏。共に第一線での経営の改革を成し遂げ、未開の地平を切り拓いてきたお二人が語る、「変革」のチャンスを掴むための要諦とは――。

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不本意な中でもベストを尽くす

〈牛尾〉 
私は金丸さんと違って、もともと経営者になるつもりはなかったけれども、父親が亡くなって、残された赤字会社を立て直さなければならなくなったんです。それまで在籍していた東京銀行では、どこへ行っても会ってくれましたが、ウシオ電機の名刺を持って行っても誰も会ってはくれない。だから、いまに見ておれという気持ちはすごく強かったですね。

当初は全部個人保証だったし、設備投資もどんどんやったから、15~16億円の借金を一身に背負ってやっていました。上場して3年で無借金経営になった時にようやく重圧から解放されましたよ。

選択の余地もなく経営の道に入ったわけですが、そのおかげで迷うという無駄なことをせずに済んだのは、逆によかったかもしれません。人生というのはそんなふうに、なかなか自分の思いどおりにはいかないものです。けれども、不本意な中でもベストを尽くしていると、その中で僅かずつでも自分のやりたいことが見えてくるというのがいまの実感ですね。金丸さんも、創業の頃は随分苦労されたでしょう。

〈金丸〉 
バブルの頂点で会社をつくりましたから、人を採用するのにものすごく苦労しましたね。面接に来た派遣の女性が、事務所をチラッと見ただけで、ドアをパタンと閉めて逃げていくんですよ(笑)。せめて話くらい聞いてくださいって、3人くらい追いかけたのを覚えています(笑)。

〈牛尾〉 
そんな苦労もあったんですね(笑)。

〈金丸〉 
その頃の私の周りのベンチャー経営者は、何か困ったことがあると牛尾さんに相談に行っていたんですが、私はできる限り自力で頑張ろうと思っていました。それでも牛尾さんは私のことを気に懸けてくださって、折に触れて貴重なアドバイスをくださいましたね。

その後、一部上場まで一気に駆け上がったんですが、大きなプロジェクトが立て続けに納期遅れや品質問題に直面し、売上と利益が初めて落ちた時に、牛尾さんは「これはチャンスだ」と。会社の業績が悪い時には、日頃打てなかった手を全部打てる。改革するならいまなんだと。おかげさまで、それを機に再び筋肉質な経営体質に戻し、組織を覆っていた油断や驕りも一掃して、もう一度成長の軌道に乗ることができました。牛尾さんのおかげで、客観的な視点を取り戻すことができたんです。

〈牛尾〉 
やっぱり私も同じようなことを経験してきていますから、金丸さんの気持ちがよく分かるんですよ。

これからのリーダーに必要な意識改革

〈牛尾〉 
いまは日本の社会とともに、企業のリーダーにも大きな意識変革が求められていますね。ただこれからは、トップが主導で変革を進めていけるほど単純な時代ではありません。
トップが一手に担って皆が従うのがいいのか、部下に提案させて承認するのがいいのか、しっかりと見極めることが重要ですね。

〈金丸〉 
カリスマ的なリーダーというのは、自分を基準に考えていると正常なジャッジができなくなるので、自己抑制能力というのが求められますね。勝負するタイミングと、そこにつぎ込む資源を考える際もそうです。中途半端な勝負は勝利に繋がらないばかりか、敗北に繋がるケースのほうが大きいですからね。

〈牛尾〉 
これまでトップが処理していた難しい仕事を、いろんな人に担当させて経験を積ませながら、その中からよい対策を選んでいくことも大事だと思います。特にいまの日本には、中国、韓国、アメリカという優秀な競争相手がいますから、世界中の流れを掌握して、考えられるような人を育てることが急務ですね。

〈金丸〉 
私どもの分野でも、主流は集中処理型ではなくて、分散型に移行しています。実際の仕事もいろんな人に分担させて、会社の頭脳の分散を進めておいたほうがいいですね。

その上でコミュニケーションを円滑にして、各人がうまく連動できる組織づくりというのがすごく重要でしょうね。いまはもう密室のコミュニケーションなんて存在しない時代になりました。すべてがガラス張りで、自分が喋ったことは皆に伝わります。リーダーはそのことをよく認識して、コミュニケーションのあり方についてしっかりしたルールを確立しておくことも大事だと思いますね。

それからもう一つ、変革を実現していく上で大切な研究開発についても新しい発想で臨む必要があります。従来のように確実なリターンを追求する研究開発とは別に、こんなことができたら面白そうだとか、びっくりするんじゃないかとか、そういう夢みたいなことに挑戦する研究開発というのもあっていいと思います。
大きな変革を起こすためには、むしろそっちのほうを大切にしなければいけないと私は考えるんです。


(本記事は月刊『致知』2018年8月号 特集「変革する」より一部を抜粋・編集したものです。金丸恭文氏のチャンスを掴む仕事術はこちらの記事でもご紹介しています

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◇金丸恭文(かねまる・やすふみ)
昭和29年大阪府生まれ。53年神戸大学工学部卒業。TKCに入社。60年NTTPCコミュニケーションズ取締役。63年インフォネクス常勤取締役。平成元年フューチャーシステムコンサルティング(現・フューチャー)設立、社長に就任。同社会長兼社長グループCEOの他、経済同友会副代表幹事、内閣府規制改革推進会議議長代理なども務める。

◇牛尾治朗(うしお・じろう)
昭和6年兵庫県生まれ。28年東京大学法学部卒業、東京銀行入行。31年カリフォルニア大学政治学大学院留学。39年ウシオ電機設立、社長に就任。54年会長。令和2年相談役。平成7年経済同友会代表幹事。12年DDI(現・KDDI)会長。13年内閣府経済財政諮問会議議員。著書に『わが人生に刻む30の言葉』『わが経営に刻む言葉』『人生と経営のヒント』(いずれも致知出版社)がある。

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