日本一になって、世界への扉が開いた。〝史上最年少〟を更新し続けたパティシエ・辻口博啓の20代

小学3年生でパティシエを志し、23歳で日本一を、28歳で世界一の座を掴んだ辻口博啓氏。パティシエという言葉を日本に広め、これまでスイーツ界を牽引してきた辻口氏は、いかにしてその偉業を成し遂げてこられたのでしょうか。その努力奮闘の歩みに迫ります。

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〝最年少記録〟を更新し続けて

〈辻口〉

3年で一人前になると決めてこの世界に飛び込んだため、1年目から洋菓子店での仕事の他に、コンクールに焦点を定めて努力していました。当時の私は、洋菓子店のストーカーだったと思います。

休みの日にケーキ屋を巡っては、購入せずに店内で2~3時間は過ごしていました。喫茶店で飲食をするでもなく、ただケーキを眺めたり働いている人の様子を見たりして、よい点を盗みモチベーションを高めるのです。そして帰り際に、お店の裏にあるごみ箱を漁って素材の仕入先を調べていました。後にそれを購入し、自分の店のものと食べ比べをして、素材研究をするためです。

『巨人の星』という野球漫画の中で、父・星一徹が息子の飛雄馬をプロ野球投手に育てるべく、幼い頃から「大リーグボール養成ギプス」をつけさせ、英才教育をしています。私の場合、一徹と飛雄馬の二役を一人でこなしていたようなもので、自分のスキルを向上させる方法を考え、実践していました。

コンクールの傾向を徹底的に調べ尽くしたこともその一つです。歴代入賞者の作品集の写真を枕元に置き、毎晩入賞作品を眺めて、審査員たちのコメントを欠かさず読み、審査員がどういう作品を好み、どういう視点で評価しているのかを研究し、対策を練っていました。

私よりテクニックや技術が上の人はたくさんいたと思います。しかし、「大リーグボール養成ギプス」の如く、自ら編み出した傾向対策や腕を磨く努力が奏功し、1990年、5度目の挑戦で初めて優勝することができました。23歳、史上最年少記録です。いま振り返っても、当時の私は勝つことに対する執念、情熱を人一倍持ち続けていました。

初めて世界大会にチャレンジした1994年は、幾多のアクシデントに直面しました。
1か月前から現地の安宿に泊まり込んで準備をしていたものの、現地の砂糖は日本ほど精製されておらず、飴細工に綺麗なツヤが出なかったのです。窮策を案じ、現地の砂糖を大量に購入し、沸騰させて不純物を取り除く作業から始めざるを得なくなりました。

その影響で予算が不足し、練習のための厨房が借りられなくなりました。飴細工をつくるには広い大理石の上で飴を均一に冷やしながらつくらなければツヤが出ません。焦りと切迫感の中で目に留まったのが、宿のトイレにあった石の床でした。「これだ!」。舐めても汚くないほど綺麗に掃除をして、そこに飴を流して練習しました。

こうした諦めない根性のおかげで、初挑戦ながら銀メダルを手にすることができたのだと思います。世界の舞台で評価されたことは大きな自信に繋がりました。翌年のチャレンジで金メダルを取ったのを足掛かりに、これまで飴細工の分野で3度、世界一を掴んでいます。

洋菓子の神様に魂を捧げる

若い世代の皆さんには、自分の好きなことを見つけ、それを「絶対人に負けない」というレベルまで高めてほしい。何か一つでも極めたという強みを持つと、一層実りある人生が送れると思います。

その中で最も重要なのは「辞めないこと」です。この業界でも辞めていく人は多くいますが、私はパティシエを辞めたいと思ったことは一度たりともありません。転職を繰り返したところで、結局、新しい場では一からのスタートで、一つのことを極めた先にある世界は一向に見えてこないでしょう。

私は日本一になったことで、世界という舞台の扉を開くことができましたし、世界一になったことで、その次のお店を持ってビジネスをするという目標が定まりました。
これまでお菓子の神様に魂を捧げる思いで、仕事に打ち込んできました。

その情熱の原点は、やはりお菓子づくりが好きだという思い、初めて苺のショートケーキを食べ、お皿を舐めた時の感動です。いまでもあの時の気持ちははっきりと覚えています。

現在、多方面に事業展開をしていますが、この気持ちを一生大切に、自分が好きなことを極める大切さを後進にも引き継いでいきたいと思います。

(本記事は『致知』2018年3月号「天 我が材を生ずる 必ず用あり」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇辻口博啓
つじぐち・ひろのぶ――昭和42年石川県生まれ。平成2年史上最年少の23歳で全国洋菓子技術コンクール優勝。クープ・デュ・モンドなどの洋菓子の世界大会で2度優勝、チョコレートのワールドカップでは7年連続金賞を受賞した世界で唯一のパティシエ、ショコラティエ。現在、「モンサンクレール」(東京・自由が丘)をはじめとする13ブランドを展開する他、食と健康のリゾート・アクアイグニス事業を立ち上げる。スーパースイーツ製菓専門学校(石川県)校長、一般社団法人日本スイーツ協会代表理事を務める。

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