鈴木秀子さんが教える、悲しみを乗り越える「聖なるあきらめ」の力

聖心会シスター・文学博士として、人々の悲しみや苦しみに向き合い続けてきた鈴木秀子さん。突然の病や事故、天災など悲しい出来事に直面した時、私たちはそれにどう向き合い、乗り越えていけばよいのでしょうか。月刊『致知』で連載中の「人生を照らす言葉」から、『聖書』の教えを交えながら語っていただきました。

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悲しみが力に変わる瞬間

〈鈴木〉
私たちは生きていく上で様々な悲しみに直面します。しかし、それをただ悲観的に受け止めるのではなく、大きな気づきや成長の機会ととらえることで人生は一段と味わい深いものになるのです。 

我が子が突然の病や事故で亡くなってしまったり、地震や水害などの天災によって家族や財産を失ったり、時には人間の力ではいかんともし難い出来事に遭遇することもあるでしょう。

そういう時、誰かにその責任を転嫁するのではなく、かといって自分自身を責めることもせずに、淡々と現実を受け入れる姿勢がとても大切になってきます。これを私は「聖なるあきらめ」と言っています。もちろん、すぐに気持ちを切り替えるのは無理かもしれません。 

しかし、時にはもだえ苦しみながらも、何とか悲しみを受け入れていこうという心の姿勢を保ち続けるうちに、その心が澄んでくる瞬間が訪れます。その時、純化された悲しみがその人にとって一つの大きな力に変わっていくのです。 

悲しみほど人を強くするものはありません。悲しみを力にして生きている人は、同じような悲しみを味わっている人たちの思いに心底共感し、寄り添うことができます。お互いの心が響き合い、人間同士の絆を深めることができます。 

芸術家に限らず、後の世に大きな足跡を残した人の多くは、深い悲しみを味わい尽くした後、それを力に変えた経験の持ち主です。悲しみに潜んでいる澄み切った心が、人の心を打つ作品や活動を生み出していくのです。 

悲しみの象徴、聖母マリア

ヨーロッパのある大学での話です。大学の研究室に一人の学生の母親が訪ねてきました。ドアを開けて母親の姿を見た教授は、一瞬棒立ちになりました。あまりに澄み切った崇高としか表現のしようのない表情を湛えていたからです。

教授はしばらくは言葉も出ませんでしたが、母親を部屋に招き入れて「何かあったのですか」と尋ねました。

母親は、小声でぽつりぽつりと話し始めました。

「大学にも先生にもこれまでお伝えしていなかったのですが、実は息子が雪山を登山中に行方不明になってしまいました。そのうちに連絡を寄こしてくるだろう、元気でいるところを救助隊に発見してもらえるだろうと信じて何日も何日も待ち続けましたが、どうやらもう諦めなくてはいけないようです。きっといま頃は雪山の中に静かに眠っていることでしょう」

教授は大変驚き、母親に心から同情しました。そして、悲しみを受け入れて淡々と心境を語る母親の覚悟に、心が清められていくような感覚すら得ました。この時、教授の心には一人の人物の姿が浮かんでいました。聖母マリアです。

2000年前、イエス・キリストがユダヤの人々の激しい迫害に遭い、遂に十字架の刑に処せられた時、十字架の下に立ち尽くしてそれを見つめる聖母マリアと母親の姿が重なって見えたというのです。

罪なき身でありながら、人類の罪を一身に背負って自ら処刑場に赴くイエスを見つめるマリアの心境はいかばかりだったでしょうか。しかし、マリアは磔になり、次第に息絶えていく我が子をどうすることもできない悲しみの極致を味わいつつも、それを黙って受け入れました。マリアが大きな悲しみを受け入れたからこそ、イエスの十字架の死は、人類すべての救済の道へと繋がっていったといわれています。

教授はマリアが2000年を経たいまなお、世界の人々から聖母と仰がれている理由が、母親の姿に接することで、ようやく理解することができました。マリアこそ、とことん悲しみを味わった女性たちの象徴でもあったのです。

教授は母親と向き合う中で、彼女が悲しみを力に変えて新たな人生を歩み始めると予感し、そのことを祈ったに違いありません。


(本記事は月刊『致知』2018年9月号 連載「人生を照らす言葉」より一部抜粋・編集したものです)

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◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本で初めてエニアグラムを紹介したことで知られる。著書に『幸せになるキーワード』(致知出版社)『9つの性格』(PHP研究所)など。新刊に本連載の感動的な話をまとめた『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』(致知出版社)。

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