ラグビーでの学びを生かし スーダンで医療活動に奮闘——川原尚行氏の志と突進力

北東アフリカのスーダン。4月のクーデターで軍が暫定政権を樹立、その後も民主化を求める市民らとの間で激しい武力衝突が続いています。かねてより、この地で医療活動に従事している一人の日本人医師、元ラガーマンの川原尚行氏の志と行動力を紹介します。

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ラグビーはスターが1人いてもダメ

(外務省へ入られたのも、熱い志をお持ちになって?)

(川原)
いえ、全然違います。海外に行きたかったという単純な理由で、しかも給料ええやんと(笑)。ベースは相当ふざけた人間ですよ。

ただ祖父が飲み屋で会った孤児を家に連れてきて飯を食わせたり、お坊さんがよく家に来て説法を聞かされたりしていた影響はあるかもしれません。あとはいい加減なもので、ラグビーしかやっていませんでした。でもそれがなければ、いまの人生はなかったと思います。

ラグビーは15人がフィールドに出て1つのボールを追いかけますが、でかい奴はでかい奴、小さい奴は小さい奴の特徴を生かすことができる。スターが1人いてもダメな役割分担のある競技で、その主将を高校、大学で務められたことは非常に大きかったです。

それと、ラグビーって痛いんですよ、本当に(笑)。お互いに我が身を呈してボールを生かす。生かすために自分が盾となって相手にぶつかっていく。そうすると仲間も盾に加わってくれますし、そういう思いを受けたボールはバックスも大事に扱ってくれるので、一人ひとりの想いを皆で繋げていくスポーツとも言えますね。

(主将の)私は部員の練習態度が悪いと罰則でダッシュをさせていたんですが、やらせる以上、自分も同じことをやりました。そうすると誰も文句を言わないんですね。おかげで後輩は大変だったでしょうが、統率をどう取るかといったことを学びましたね。

何も知らなかったからこそ踏み出せた

(川原)
2002年ですから、私が37歳の時でした。当時は外務省で医務官をしていましたが、いろいろな人と仲良くなって幅広く情報を得て、結構充実した日々を送っていました。

でも同時に「このままじゃいかん」という気持ちはかなりあったんですよね。我われは途上国を支援してどう発展させるかを考えていたのですが、私が赴任した当時、スーダンは内戦中で、日本からの援助は一切停止されていたんです。

当の私も赴任前はスーダンに対して悪いイメージしかありませんでした。あの国はテロ支援国家で、外国からも経済制裁を受けていると。でも懐へ入ってみたら、非常に平和的で、素晴らしい人ばかり。なんだこれは。ええ国やないかと。

医務官の立場では大使館職員とその家族や邦人しか診ることができませんから、相当迷った末、自分にできることはこれくらいかなと思って外務省を辞める決意をしました。

アホやったんですね、本当に(笑)。いま考えたら恐ろしいですよ。実情をなんにも知らずに。でも知らんということは、いいことでもあると思うんです。

素人と玄人とがあれば、玄人は事情をよく知っているが故に怖くて踏み出せないことがある。逆に素人は知らないが故に、可能性だけを突き詰めて進んでいけるんじゃないかと。当時自分は39歳で、妻と3人の子供がいましたが、とにかく外務省を辞して、3か月ほどの準備で現地へ行きました。

くちばしから小さな滴を落とし続ける

(最初はどんなことから始めていかれたのですか?)

(川原)
まずは取っ掛かりが必要なので、外務省時代から親交のあったイブン・シーナ病院で、外科医として活動を始めました。その傍ら、友人から紹介された無医村地区で巡回診療も行い、一日中診療に明け暮れました。

最初の頃はよく、「医者だからやめても十分食っていけるよね」とか言われたんですが、そういう気持ちは端からさらさらなかった。要は命を懸けてやっているということです。

『ハチどりのひとしずく』という私の好きな民話があります。小さなハチどりが森の火事を消すためにくちばしで水を運び、小さな滴を落とし続ける話です。「そんなことをして何になるんだ」と動物たちは嘲笑いますが、ハチどりはこう言います。「私は、私にできることをしているだけだ」と。

私はたまたま医師となり、偶然スーダンへ赴きました。そこで非力な自分にもできることはないかと思っていまの活動を始めました。何も特別なことではありません。

私自身、応援してくださっている方の想い、また、残念ながら亡くなってしまった方の想い、いろいろな人の想いを繋いで人生を生きてきました。だから支援活動でも、自分一代じゃ終わらないところに目標設定をし、次世代へバトンタッチしていきたい。そうやっていろいろな人の思いが生きて、この先も繋がっていってくれればと願っています。

(本記事は月刊『致知』2013年12月号の特集「活路を見出す」の記事から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇川原尚行(かわはら・なおゆき)
昭和40年福岡県生まれ。福岡県立小倉高等学校、九州大学医学部卒業後、外科医に。平成10年九州大学大学院修了後、外務省入省。医務官兼一等書記官として活躍中の17年、外務省を退職し、同年スーダンにて医療活動を開始。18年ロシナンテス設立。共著に『もうひとつのスーダン 日本人医師川原尚行の挑戦』(主婦の友社)がある。

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