2020年11月24日
日本の人口減少に歯止めがかかりません。2009年をピークに11年連続で減り続け、2020年1月1日には全国1億2713万8033人(住民基本台帳人口による)。日本人住民に限ると、前年と比較して初めて50万人以上も減少しています。「人口減少は国力の低下を招く」と警鐘を鳴らす大泉博子さん(元衆議院議員)に、政策の課題と取り組むべき7つの人口政策を伺いました。
※インタビューの内容は2019年当時のものです
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なぜ少子化対策はうまくいかなかったのか
〈大泉〉
少子化問題が大きな注目を浴びるようになったのは、合計特殊出生率が1989年に1.57まで低下した「1.57ショック」からでした。なぜショックだったのかというと、戦後、最も合計特殊出生率が低下した1966年の1.58を下回ったからです。
1966年は「丙午(ひのえうま)」でしたが、昔から丙午の年に生まれた女性は男性に災いをもたらすと信じられていたために、社会全体で妊娠・出産が控えられ、それまで2以上あった合計特殊出生率が1.58まで一気に下がったのでした。
「1.57ショック」を契機に政府による少子化対策が始まり、1994年、当時の厚生省(現・厚生労働省)が中心となって、政府としては初めてとなる子育て支援のための「第1次エンゼルプラン」が策定されました。この時、私も厚生省の児童家庭局家庭福祉課長としてその策定に携わり、「元祖少子化課長」を自任しています。
しかし、現在も少子化に歯止めが掛からないのは、エンゼルプラン、その後に続く政府の少子化対策に多くの問題があったからです。
1つには、当時の厚生省は少子化問題だけでなく高齢化・介護問題にも対処しなくてはならず、政治判断で政策の重点が後者に置かれてしまったこと。バブル崩壊による景気の悪化によって、十分な予算が使えなかったことが挙げられます。つまり、予算も優秀な人材も少ない中で始まったのが日本の少子化対策だったわけです。
出生率を回復させた欧州各国の事例に学ぶ
日本が少子化問題に有効な手を打てない中で、諸外国は直接的に出生率向上に繋がる政策に焦点を当て、一定の効果を上げてきました。例えばスウェーデンです。
出生率の低下に直面したスウェーデンは、様々な対策を徹底して行いましたが、特に1980年代に、第二子を第一子出産後に一定の間を置かず産んだ場合、給付が増えるよう親子保険を改正。出生率の向上に大きな成果を挙げました。
フランスでも、子供が生まれるたびに児童手当や住宅、教育費など様々な家族給付の拡充を行うことで出生率を向上させました。ただ、資金面での補助には限界があるようで、近年では両国とも出生率は再び鈍化してきています。
その代わりに出生率を目覚ましく回復させてきたのがイギリスです。イギリスが何をやったかというと、まず保守党のサッチャー政権が公教育の補助・充実を行い、続く労働党のブレア政権がいまでいう「ワーク・ライフ・バランス」を導入して、子育て世代の労働環境の整備・改善に努めました。
しかし、このイギリスの政策も日本にそのまま導入すればすぐ効果が出るとはいえません。特に「ワーク・ライフ・バランス」に関しては、一般的に欧米人が決められた時間内に集中して働くのに対し、日本人は伝統的に時間をあまり意識せず漫然と残業する企業文化があります。
自国の生活、労働文化を考慮しないまま他国の政策を取り入れても効果は見込めません。諸外国の政策のよいところは取り入れながら、日本は日本なりの人口政策を考えていく必要があります。
少子化問題への7つの具体的提言
では、具体的に日本はどのような人口政策を行っていけばよいのでしょうか。主に次の7点を提言したいと思います。
第1に、就学年齢を1年早めることで婚姻年齢を下げることです。大学に進学した女性は必然的に初婚が遅くなるため、それが晩産化に繋がっているのです。
第2に、スペーシング対策。第一子を産んだ後に一定の間を置かず第二子を産んだ場合に(第二子から第三子などの場合も)、保険料や保育料といった様々な優遇措置が受けられるようにすることです。
第3に、新リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康と権利)教育の充実です。子供を産むために守るべき健康とは何かを、学校などで適切に教えることを意味します。
第4に、教育の無償化です。多くの調査で、日本で子供を産みたくない理由のトップとして「教育費がかかりすぎる」ことが挙げられています。
第5に、若者、子育て世代に優先的に公営住宅を提供することです。これも子育てに必要な金銭的負担を減らすことに繋がります。
第6に、限定移民政策です。これから人口が減っていく以上、現実問題として移民の力に頼ることも考えなくてはなりません。
第7に、男女共同参画社会を本当の意味で実現することです。賃金や労働時間などを含め、多くの女性が安心して働き続けられ、子育てができる社会を実現していくことが必要です。
そして何より大切なのが、少子化対策は、直接的に出生率向上に繋がる人口政策であると捉え直し、人口学といった科学的知見をもとに政策を考えていくことです。
(本記事は月刊『致知』2019年8月号 連載「意見・判断」より一部を抜粋・再編集したものです)
◇大泉博子(おおいずみ・ひろこ)
昭和25年東京都生まれ。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒業後、厚生省(現・厚生労働省)入省。国連児童基金(UNICEF)インド事務所計画評価官、児童家庭局企画課長、社会援護局企画課長などを歴任。この間、米国ミシガン大学大学院で行政学修士号を取得。平成10年より3年間、山口県副知事を務めた後、21年に茨城県6区より衆議院選挙に出馬して当選、一期を務める。