「人生の幸せは自分の心が決める」——筋ジストロフィーと闘う小澤綾子さんを支えた出会い

20歳の時に、運動能力が低下する難病の筋ジストロフィーと診断された小澤綾子さん。苦悩の日々を乗り越え、難病と闘いながら会社員、歌手、講演活動など多方面で活躍し、多くの人に希望を与えている小澤さんに、いまを前向きに生きるヒントを伺いました。

心の支えとなったのは出逢い

(小澤) 

やっぱり、人との出逢いが私の心を支えてくれたのだと思います。独りぼっちだったら、自分を客観的に振り返ることはできなかった。具体的には3つの出逢いがあったのですが、まず1つはリハビリの先生との出逢いです。

その先生はものすごく厳しい方で、リハビリに行くのが毎回本当に嫌でしたし、「治らない難病なのに、どうして先生のところに行かなくちゃいけないんだろう」という捻くれた感情もありました。すると、そんな私に先生はぴしゃりと次のように言われたんです。

「下を向いてばかりで、暗く生きていたら、将来誰も近寄ってこないよ。寂しく終わる人生だね」

(――先生は前向きに生きることの大切さを教えてくれたのですね。)

(小澤) 

私はその言葉に「なにくそ!」と奮起させられて、「この先生を絶対にぎゃふんと言わせたい」と再び前を向くことができたのですね。それから、とにかく先生に褒められるような明るい前向きなことをやろうと、周りの人にも助けていただきながら、ハンディがある体でも海外旅行や語学留学、ダイビングのライセンス取得などやりたいことにどんどん挑戦するようになりました。

先生には、新しいことに挑戦する度に報告に行ったのですが、「もっと本物に出会いなさい」「もっと将来を見据えて行動しなさい」と言って、全然褒めてくれません(笑)。でも先生の厳しさのおかげで、いろいろなことに挑戦できましたし、人生にも前向きになれた。本当に感謝しています。

どんな状況でも夢を持って全力で生きる

(――人生を変える出逢いでしたね。)

(小澤) 

実は私は高校の時にバンドを組んでいたのですが、その頃を思い出して、好きだった歌を歌い始めたのも挑戦の一環でした。ただ、その時は思っていたほどの充実感は得られず、なんとなく歌っている状況が続いていました。

ちょうどそんな時、同じ病気の人が集うインターネット上のコミュニティサイトで出逢ったのが松尾栄次さんでした。栄次さんは30年以上病院のベッドで寝たきりの生活を送っていて、ほとんど体は動かせないのですが、指1本でパソコンを操作していました。

最初は「寝たきりになって、彼は人生に絶望しているんじゃないか」などと、いろいろ想像を巡らせていました。でも、栄次さんからのメッセージは「僕にはいっぱい夢があって、時間が足りないから秘書が欲しい」と、ものすごくアクティブで、私は次第に病気や寝たきりに対するネガティブなイメージを壊されていきました。

(――寝たきりでも、夢を持って毎日を全力で生きている人がいた。)

(小澤) 

栄次さんとのやり取りを通じ、もしかしたら病気の自分をできないと決めつけ、もっと病気にさせていたのは自分自身だったのかもしれない。人はどんな状況でも夢を持てるのだと、寝たきりという真っ暗な私の未来に希望の光が差し込んだ思いがしました。

それである時、「自分は作詞・作曲をしているのだけど、すごく気に入っている歌があるから、同じ病気である小澤さんに歌ってほしい」というメッセージをいただきました。とても嬉しかったのですが、私はいろいろな理由をつけてすぐに行動できず、何年後かに歌えればいいやと、約束した歌を歌えないでいました。しかし、メッセージをもらった2か月後、栄次さんは体調が急変して亡くなってしまったんです……。

(――ああ、2か月後に。)

(小澤) 

栄次さんの死を知り、涙が止まらなくなりました。それは出逢ったばかりなのにという思い、約束した夢を叶えられなかった申し訳なさ、自分も遠くない将来にこの現実に直面するのだという悲しさ、いろんな複雑な感情が交じり合った涙でした。

そして、何よりも教えられたのは、誰しも人生の時間は限られていて、やりたいことはすぐに行動しないとあっという間に時間切れになってしまうということでした。人生には「いま」しかない。「いま」をどう生きるかで幸せは決まる。私はそのことを分かっていたようで分かっていなかったんです。

(――過去や未来ではなく、いまをどう生きるかが大事。)

(小澤) 

それから私は、「栄次さんが託してくれた夢を叶えられるのは自分自身だ」と言い聞かせ、栄次さんが作詞・作曲してくださった『嬉し涙が止まらない』を他の歌と共に歌うようになりました。

3年前にはそのCDもつくったのですが、不思議と栄次さんの歌を歌い始めてから、私の音楽活動は世間から注目されるようになって、全国各地のコンサートに呼ばれるようになっていきました。

(――栄次さんが天国から応援してくれているのかもしれません。)

(小澤) 

本当にそう思います。自分1人の力では絶対ここまで活動が広がらなかったと思いますし、いまも栄次さんに応援してもらっていることをすごく感じています。

これまでは栄次さんの夢を叶えたいという思いで歌ってきましたが、今年は自分の夢や思いを込めた詩を曲にしてオリジナルCDをつくり、大きなコンサートを初めて開催しました。栄次さんが私にバトンを渡してくれたように、私もまた誰かにバトンを渡して、その人の夢を叶えるお手伝いができたら嬉しいなと思っています。

(本記事は月刊誌『致知』2019年7月号「命は吾より作す」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載です! 『致知』の詳細・ご購読はこちら

◇小澤綾子(おざわ・あやこ)

昭和57年千葉県生まれ。20歳の時に難病・筋ジストロフィーと診断される。平成18年明治大学経営学部卒業後、日本IBM入社。働きながら、音楽活動と講演を通して「いま」を生きる大切さを全国に伝えている。東京コレクションモデル、ドリームプランプレゼンテーション世界大会感動大賞受賞。著書に詩集絵本『10年前の君へ 筋ジストロフィーと生きる』(百年書房)がある。

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