アルコール依存症者と向き合う——救護施設「真和館」の使命

10年以上にわたって、アルコール依存症者や重い精神障がいのある方々の支援に力を尽くし、その多くを社会復帰させてきた救護施設「真和館」館長兼施設長・藤本和彦さん。藤本さんはどのような思いで福祉事業に取り組んできたのでしょうか、人生の歩みとともに語っていただきました。

福祉の世界に飛び込む

(藤本) 

豊かな自然に囲まれた阿蘇外輪山の裾野、熊本県阿蘇郡西原村に、私が社会福祉法人「救護施設真和館」を設立したのは平成18年、62歳の時でした。もともとは熊本県庁で福祉行政や商工行政などに携わっていたのですが、定年後には、その経験を生かして現場と経営のバランスが取れた福祉施設がつくりたいという思いがあったのです。

設立前は、入所者の就労や地域生活支援を目的とした施設を考えていました。しかし、いざ定員50名でオープンしてみると、ご家族や周囲から見放され、地域で生活できない方や施設でも受け入れが難しいアルコール依存症者、重い精神障がいのある方がどっと入所を希望されてきました。

慣れない中、職員の皆さんと一丸となって、入所者の方のトラブル解決に走り回りました。そして、その成果が出始め、施設内が落ち着いてくると、今度はアルコールの問題が浮上し始めました。

入所者の半分近くがアルコール依存症者でしたので、当然飲酒は禁止。ところが、隠れて飲酒される方がいて、それが瞬く間に他の入所者に伝播し、施設内がそわそわした落ち着かない雰囲気となったのです。隠れ飲酒の現場を押さえられ、酒を飲めなくなった入所者は、イライラと不満が募り、解消するまで1~2か月掛かります。それが幾度となく繰り返されました。

このような中、平成19年6月に、施設内でアルコールの勉強会を始めました。平成20年後半になると、職員のアルコール依存症者に対する対応能力も格段に向上し、また、何回も飲酒した人は退所させるという厳しい態度で臨んだため、施設内での隠れた飲酒行為はなくなりました。

そうなると、「病気の親戚のお見舞いに行く」などと嘘を言って外出し、施設外で飲酒するという事態が年に2、3回起こるようになったのですが、それも平成25年にはなくすことができました。

なぜそのような環境づくりができたのか、全くこれといって思い当たることや決め手はありません。ただ、毎朝の「断酒の誓い斉唱」や毎夕の「断酒の集い」、テーマに沿って飲酒の体験談を話し合う「アルコールミーティング」、映画や書籍を使った学習会。さらには内観療法、外部の自助グループへの参加など、効果があると判断したものはどんどん導入していきました。

このようなアルコール依存症への継続的な取り組みが、自然に入所者の方々の意識の中に浸透し、飲まれなくなったのが実態かもしれません。

救護施設としての使命を果たす

(藤本)

施設開設から10年目の平成27年末に、当館で日頃取り組んでいる学習会などの支援内容を「真和館アルコール依存症回復プログラム(施設版)」として体系化しました。いまはこれを実行しながら、地域に戻られてからも「飲まない」ための取り組みに力を入れています。

また、県庁時代には中小企業の経営を指導する部署にいたこともあり、工業的手法を取り入れた施設の効率的運営や人材育成にも心を砕いてきました。例えば、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」の徹底に始まり、QC(品質管理)活動によるヒューマンエラーを防ぐ仕組みづくりや独自の支援手法の創設などです。

人材育成に関しては、毎月「施設長から一言メッセージ」と題して、私の考えや心の持ち方、仕事への向き合い方などを伝えてきました。特にイエローハット相談役・鍵山秀三郎氏の「最大のサービスとは、君の人格を上げることだ」という言葉は、毎朝唱和する致知出版社の『致知が贈る明日を開く言葉』に収録されており、職員にはすっかりお馴染みの言葉になっています。

人格を上げること―これは私にも、職員にも、入所者にも必要なことです。やはり、本当にアルコール依存症者が回復されるためには、ただ単に断酒を継続するだけでは十分ではありません。日々、人の話を聞き、自分の体験談を語り、よき人やよき言葉に触れる機会をつくる。それを継続していくことで、人間性が変わり、心から回復したいと自ら決心する、「祈り(心の整理)と告白(自分を語る)」にまで至らなければいけないというのが私の実感です。

当館の施設名は「救護施設真和館」ですが、法人名には「社会福祉法人 致知会」と名づけました。これは長年愛読する月刊誌『致知』に由来するのですが、そう名づけた以上、絶対に恥ずかしくない施設にしようという私の決意と覚悟が込められています。

光の裏には必ず影があるように、繁栄の裏にも必ず貧困に苦しむ人々の姿があります。その貧困問題を陰ながら支え、その時代、その地域で最も光の当たらない人々に果敢に手を差し伸べ、日本社会の安定・安寧のために存在するのが救護施設だと私は考えています。

また、平成30年3月には、経営が厳しいためにどこも引き受け手がなかった阿蘇市営の養護老人ホームを「養護老人ホームあそ上寿園」として民設・民営で開設。養護老人ホームは長い歴史を持つ救護施設と同じ公共性の高い措置施設です。地域に開かれた施設として、地域福祉の増進に努めていきたいと思っています。

これからも措置施設である救護施設、養護老人ホームの社会的使命を果たすために、目の前の課題に一所懸命向き合い、アルコール依存症を含めた様々な依存症者、精神障がい者、生活困窮者の方々が安心して暮らせる最後のセーフティネットとして、支援力を持った施設を目指していきたいと思います。

(本記事は月刊『致知』2019年4月号「運と徳」から一部抜粋・編集したものです。各界一流の方々のご体験談や珠玉の名言を多数紹介。あなたの人生、経営・仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

(藤本和彦・社会福祉法人致知会 救護施設真和館 理事長兼施設長)

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